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席に案内しようと三人組の方へ足を向けた時、ピーちゃんがその三人組の近くのお客にツマミを運んでいたのだが……。
なんと、その中の一人がピーちゃんを後ろから蹴ったのである。
無防備なところを後ろから蹴られたことで、持っていたツマミを落としてしまったピーちゃんは呆然と床に散らばったソレを見ていた。
ちなみにピーちゃんの頭の上にいたひよちゃんは、絶妙のバランスで何事もなかったかのように立っている。
「ギャハハハハッ。トカゲがマヌケヅラ晒してやがる」
ピーちゃんに蹴りを入れた小柄な太った細目男と、その仲間が指差して大笑いしていた。
雅はカッと頭に血がのぼり、気付けば勢いよく走り出して小太りな細目男に飛び蹴りを食らわしていたのだった。
雅の全力の飛び蹴りはものすごい威力だったようで、男は扉の外にまで飛ばされていた。
「おい、テメエら。私の可愛い可愛いピーちゃんに何しやがった」
今までに出したこともないような低い声が、雅の口から放たれる。
華奢で儚げな美少女に見える響であったが、実は実兄との修行とピーちゃんのお陰で上がったレベルによって、今では中堅の冒険者に手が届きそうな強さになっていたりするのだが……。
この酒場の常連客にはランクの高い冒険者が多く、彼らにしてみれば雅とピーちゃんはお気に入りの可愛らしい少女と可愛らしいドラゴンであり、どちらも守るべき対象に入っていた。
その彼らが一斉に立ち上がり、入口の前にいる男二人を睨みつけているのだ。
尋常でない殺気を向けられ、男二人は慌てたように外へと飛び出し、気絶している小太りの男の腕を肩に回すと、すごい早さで逃げて行ったのだった。
「お騒がせしてすみません。それと、ありがとうございます」
雅は店内の客に向けて頭を下げ、お詫びとお礼の言葉を言うとすぐさまピーちゃんの元へと駆け寄った。
《ピーちゃん、怪我はない? 大丈夫?》
ピーちゃんをギュッと抱き締める。
なぜかひよちゃんは雅の頭の上に移動して、嘴でこれでもかと突いてくる。
地味に痛いからやめれ。
《ママ〜、落としちゃった。ごめんなさい》
シュンと項垂れるピーちゃん。
《落としちゃったのはピーちゃんのせいじゃないからね? それにピーちゃんに悪さしたヤツはママが蹴りだしてやったから、もう大丈夫だよ。お店のみんなも、ピーちゃんを助けようとしてくれてたよ》
ピーちゃんは悪くないと頭を撫で撫ですれば嬉しそうに、
《ママ、ありがとう。お店のみんなにもありがとう》
なんて言うもんだから。
ああ、うちのピーちゃんマジ天使!
これでもかと更に頭を撫で回してやると、嬉しそうに尻尾がブンブンと振れている。
それに合わせるようにして、頭の上でひよちゃんが激しく突いている。
(まったく、私、ひよちゃんの召喚主なんだけど。もっと大事にしなさいよね!)
その後、ピーちゃんがみんなにお礼をしたいと言うので、エールを一杯ずつサービスとして運んでもらった。
結構痛い出費、というかこの場合給料天引きか……。
でもまぁ、ピーちゃんの味方をしてくれたことは素直に嬉しかったからね。
「あいつら、最近この町にやって来た例の冒険者だろ?」
そう言って常連さんの一人になってくれた、以前雅をギルドまで送ってくれたオジサマ、マシューさんがエールを片手にそう言って近付いて来た。
カウンターにいた他の常連さんがその話に乗ってくる。
「ああ、違反ギリギリの行為を繰り返してる奴らな」
「証拠がないから何とも言えないみたいだが、結構ヤバいこともしてるらしいぜ」
「何にしても、ミヤビちゃんは気を付けた方がいいぜ? ああいった輩は逆恨みするバカが多いからな。何かあれば俺たちに言えよ?」
「ありがとう。ピーちゃんもいるし大丈夫だと思うけど、何かあったらよろしくね? 頼りにしてます」
そんな話をしていると厨房から注文の品が出てきたので取りに向かうと、オカンがニヤニヤしながら顔を近付けて来た。
「ミヤビちゃんてば、この人誑し〜。『頼りにしてます♡』な〜んて可愛いこと言われて、ほら、みんなイチコロじゃないか」
オカンに釣られてさっきまでいたカウンターの方を見れば、みんなが顔を赤くしてこっちを見ていた。
「飲み過ぎただけじゃない?」
「はあ、まったくアンタはお子ちゃまだねぇ」
呆れたようにそう言うオカンを無視して注文の品を運ぶ雅。
そりゃオカンに比べればピチピチのお子ちゃまですよ〜っだ。ケッ。
下手に口に出すと、スカート丈を更に短くされる恐れがあるから言わないけどさ。




