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「なあ、ミヤビちゃん。アレ、ヒヨコだよなぁ?」
「ヒヨコだね、見て分かんない?」
「いや、なんでドラゴンの頭の上にヒヨコ?」
「懐いたから」
「そ、そっか」
もうね、このやり取りを何十回と繰り返せば、いい加減不機嫌にもなるってもんでしょ?
それにひよちゃんだけどさ。
雅がピーちゃんにギュッてハグしようとすると、ヒヨコのくせに飛び蹴りしてくるのだ。
私、召喚主なはずだよね?
敵認定されてるんだけど。
オカンは相変わらず爆笑してるし、客は可哀想なモノを見る目で雅を見ている。ちくしょう。
もうさ、ひよちゃん成長したら食べていい?
……ちょっとだけ本気である。
◇◇◇
「そういやさ、隣国で近く討伐隊が動くらしいぜ」
そんな不穏な話が出て来るようになったのは、つい最近のことだ。
何となく嫌な感じがしたから、念のためスキル『色仕掛け』を使って情報収集してみる。
「それって、この町にも影響あったりするの?」
「おう、ミヤビちゃん。う〜ん、どうだかなぁ。だが結構な規模のものになるらしいぞ」
このスキル『色仕掛け』は、意外と使えるスキルだった。
このスキルを発動すると、別に相手にベタベタ触ったりしなくても、口が軽くなってくれるのだ。
レベルが上がれば上がるほど、このスキルを前に相手は黙っていられなくなるらしい。
情報収集に優れたスキルと言えるんじゃないだろうか?
違う町に行く時には、諜報員の仕事探してみようかな。
そして雅は静かに討伐隊について語る冒険者グループの話を聞いている。
「そもそも何の討伐隊なんだ? そこまでの規模で討伐しなきゃならんような奴いたか?」
「そこなんだよな〜。ま、噂だけどさ。ドラゴンの卵を採りに行くんじゃないかって言ってる奴もいるらしいぜ」
「マジか? そんなことしたら国が滅ぶぞ!?」
「だから、あくまでも噂だって。まさか、そんな馬鹿なマネはしないだろうけど、討伐対象が何なのか、まだ分かってないってのがな……」
このグループの話はここまでだった。
全く、いつの時代にもどの世界にも馬鹿っているんだね。
不老長寿なんてさ、何が良いんだか。
一人だけ不老長寿でいたって、周りはみんな自分を置いて先にあの世に行っちゃうってことでしょ?
ぼっち万歳ってか?
そのために国が滅ぶかもしれないリスクを犯そうとするとか、呆れて物も言えないわ。くだらない。
討伐隊の話をしていた冒険者グループのお客さんは、先ほど帰っていった。
何にせよ、今すぐどうこうって話ではないみたいだが、色々気を付けておいた方が良さそうだ。
すぐさまテーブルを片して、また新たなお客さんを案内する。
この酒場は本当、お客が尽きない。
ありがたいことだが、マジで忙しい。
「ミヤビちゃん、何か適当なツマミとエールくれ」
「じゃあ、一番高い厚切りステーキとピッチャーのエールで」
「それは勘弁してくれ!」
「はいはい。今日は良いチーズが入ったから、ピザがオススメかな。それと普通のエールでいい?」
「ああ、それで頼む」
「了解〜」
コナーさんにエールを頼み、厨房にピザをオーダーする。
その足で出来上がった料理とカウンターに置かれたエールを持って行く。
「ミヤビちゃ〜ん、オーダーお願〜い」
「は〜い」
この酒場には女性のお客さんもチラホラいたりする。
中でもこのイオナさんはボン・キュ・ボンなお姉様。
何故か雅を気に入ったらしく、ピーちゃん共々可愛がってくれる。
良いお客様だ。
「何にしますか〜?」
「ミヤビちゃんをお持ち帰りで♡」
「イオナさん、オヤジくさい」
呆れた目で見てやれば、嬉しそうに頰に手を当ててクネクネしている。
「だってミヤビちゃんてば、お持ち帰りしたくなるほど可愛いんだもの。こんな可愛い顔して毒舌とか、もうギャップ萌え?」
いやね、可愛がってくれるし、良いお客さんではあるのよ?
ただ、少し残念な変態さんなだけで。
「で、ご注文は?」
「イヤン、ミヤビちゃんたら冷たい〜」
「オカン、イオナさんお勘じょ……」
「あ〜、待って待って。冗談よぉ。ミヤビちゃんのオススメとエールをちょうだい」
「オススメはピザだけど」
「う〜ん、もう少しカロリー低めのモノないかしら?」
「じゃあ、たらこの玉子焼は?」
「美味しそうね。それお願い」
「了解〜」
コナーさんにエールを頼んでいると、新しいお客さんが入ってきた。
見たことがない客で、何かちょっと嫌な雰囲気の三人組だった。




