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週一回の店の定休日には、朝から町の外にピーちゃんと狩に出る。
週一しか伸び伸びとさせてやれないのが申し訳ないが、その分朝一から門が閉まる夕方ギリギリまで、ピーちゃんに付き合うことにしているのだ。
今のところこの周辺にいる獲物はちょうど良いのだが、このままレベルが上がっていけば、そのうちピーちゃんにとって物足りない獲物となるだろう。
そしたらもっと強い獲物のいる町へ移動するしかない。
その時のために、今はお金を出来るだけ稼ぎたいと思っている。
移動したら移動したで、着いた先の町で職を探さなきゃならないのだ。
見つかるまでの間にだって生活はしなきゃならないし、お金は幾らあっても困ることはないし。
正直この町の居心地が良過ぎて、出来ればずっとここにいられたら……なんて思うこともあるが、きっとそれは思うだけで終わるだろう。
雅にはやっぱり、ピーちゃんが一番だから。
ピーちゃんにこれ以上我慢させたくない。
だからそうなった時が、この町とのお別れの時なのだ。
◇◇◇
「え? 本当に? いいの?」
「ああ、俺がかわりに売ってやるよ」
雅が働く酒場には、冒険者がとにかく多い。
その中でも週の半分は通ってくれて、よく話しかけてくるこの男はルーク。
週一の狩りの後にピーちゃんの食事の残骸というか、牙やら何やらの素材が多少残るのだが、雅はギルドに登録していないので素材を売ることが出来ない。
けれど、そのまま放置するのも勿体なくて。
持ち帰れる分だけ持ち帰っていたら部屋に素材がたまってしまい、正直邪魔なのだ。
そろそろ何とかしなきゃとは思っていた。
そんな話をしていたら、ルークがかわりに売ってくれると言うのだ。
「やったぁ! これで部屋がスッキリするし、せっかくの素材を無駄にしなくて済む! ルーク、ありがとう」
「いや、喜んでくれて何よりだよ」
「お礼だけどさ、素材の売れた金額の三割でどうかなぁ?」
手間賃として払うつもりでいたのだが。
けれど、ルークは受け取る気はなかったみたいだ。
「いらね。ついでなんだから、そんなん気にするな」
「いや、でも……」
「少しは俺にもカッコつけさせろよなぁ」
なんて言うから。それ以上言うのも逆にしつこくて失礼かなと思って。
「わかった。ありがとう。その代わりお店に来てくれた時にサービスするね」
ニッコリ笑顔で答えたら、来店頻度が週の半分からほぼ毎日来るようになったので、とりあえず乾き物サービスしといた。
◇◇◇
「何じゃこりゃあぁぁぁあああ!!」
部屋に山積みとなっていた素材が売れて、広くなった部屋とちょっとしたお小遣いが手に入ったことに気分も上々。
ご機嫌に鼻歌を歌いながら、ふと思い付いて開いたステータスボードを前にした、雅の心からの叫びだった。
気分は一気に急降下。
レベルがアップし、思った通り新しいスキルが追加されてはいたけどね?
だがそれは、雅が望んだようなスキルではなかった。
というより、何よこのクソスキルはぁぁぁぁあああ!?
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名前:ミヤビ(♀️)
職業:迷子 Lv7
スキル:卵召喚 (ランダム) Lv2
念話 Lv1
召喚獣 《レッド・ドラゴン》▶︎
色仕掛け Lv1
HP:150
MP:50
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一先ず職業と卵召喚スキルのレベルが上がったのは良いとしよう。
けどね? 何よ『色仕掛け』って!!
「もっとまともなスキルがあんでしょぉぉおおお?」
再度叫んだ雅の脳天に、スパーンと小気味いい音をたててオカンのスリッパがクリティカルヒットした。
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名前:ミヤビ(♀️)
職業:迷子 Lv7
スキル:卵召喚 (ランダム) Lv2
念話 Lv1
召喚獣 《レッド・ドラゴン》▶︎
色仕掛け Lv1
HP:140
MP:50
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ちょ、オカン!? 今のスリッパ攻撃でHP10持ってかれたんだけど。あと十四回スリッパ攻撃されたら私死んじゃうじゃん!
「さっきから煩いんだよ! 何を騒いでるんだい!」
オカンがどっかで見たフリフリの白いエプロン着けてスリッパ片手に雅の背後に立っていた。
慌ててステータスボードを閉じる。
「ごめん。ちょっと、余りにも衝撃的なことがあり過ぎて……」
衝撃的と言うか、笑撃的と言うか……。
もうさ、ここまでくるとどっかの神様が、ワザとマトモじゃない職業とかスキルを選んでるんじゃないかと疑いたくなるよね。
「ミヤビ、あんた何か悩みでもあるのかい? 無理にとは言わないが話して楽になることもあるだろう?」
思わず溜息をついた雅にオカンが優しい声でそんなことを言うもんだから、ついつい色々話したくなったけど。
「……笑われるからいい」
「笑わないさ」
「絶対に笑われるから言いたくない」
「女に二言はない! 絶対に笑ったりしないから言ってみな」
そこまで言われたらさ、「じゃあ……」って話すよね?
さすがに異世界とかの話まではするつもりはなかったから、ステータスボードのトップ画面だけ見せながら。
結果、オカン爆笑中。
「おいコラ! 女に二言はないんじゃなかったの!?」
「女は気分屋なのさ。ブフッ」
「この、クソババア!」
とりあえず、口止めだけはしておいた。
コナーさんやサラさんにも言わないと言っていたが、どうだか。
オカンにはもう金輪際、何も言わない!




