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職業『迷子』の異世界生活  作者: 翡翠
第二章 毒舌美少女な看板娘
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5

「おい、こら、ババア! 一体どういうこと? キチンと説明しなさいよ!!」

「いやぁ、やっぱり私の思った通り、とっても似合ってるじゃないか」

「ふざけないでよ! 何で、私が、こんな格好させられてんの!?」


 そう、鏡の中の私は。

 少しだけ短めのスカート丈の水色のワンピース(中にパニエ着用)に、白いフリフリのエプロン。

 いわゆる不思議の国のアリスのミニスカバージョン的な感じ?

 可愛らしい容姿をしているにも関わらず、制服以外にスカートは持っていない雅には、このフリフリラブリーな格好はものすごく抵抗があるのだ。

 薄っすらと化粧を施され、見た目だけは誰がどう見ても色素薄い清楚で儚げな美少女である。

 ……儚くないけど。

 ……清楚でもないけど。


「いやね、あんたは可愛らしい綺麗な顔立ちをしているからさぁ、絶対にその従業員服が似合うと思ってたんだよ。安心おし、きっと人気が出ること間違いなしだよ!」


(おい、こら、ババア。親指立ててドヤ顔すんなし!)


 雅の言いたいことを分かっているだろうに、アリッサさんは頰に手をあててワザとらしく溜息をついて。


「残念ながら、うちの制服はコレと決まっているんだよ。ミヤビは職と住処が必要なんだろ? ここはピーちゃんのためにも頑張って稼がないとねぇ」


 そう言ってニヤリと笑うアリッサさん。

 いや、もうババア呼びになってしまっているが。

 ピーちゃんを出されると弱いことは把握済みらしい。


(人の足元見て、ムカつく!)


「ま、頑張ってミヤビ目当てに通うお客がつけば、給料アップも考えているからさ。どうだい? やるだろ?」


 最早、やらないわけないだろう? と言っているようにしか聞こえない。

 確かに他の仕事を探しても、今以上の条件のものは出て来ないだろうことは分かっていた。

 何だかんだ言いながらも、アリッサさんはかなり良い条件で雅を雇うと言ってくれているのだ。

 ただ従業員服が『フリフリラブリー系』という事実が雅に、素直にそれを認めさせてくれないだけで。だけど……。


「ピーちゃんもうちのマスコットキャラとして店内にいてもらって構わないからさ。いくらドラゴンとはいえ、まだ生まれたばかりなんだろ? 一人で留守番は可哀想だからねぇ」


 アリッサさんのその言葉で、雅は腹を括った。


「ああもう! そこまで言われたらやるしかないじゃん!」

「そうこなくっちゃ。早速今日から手伝い頼むよ!」


 こうしてピーちゃんはマスコットキャラに、雅は看板娘を目指して働くことになったのである。

 アリッサさんの経営している酒場はかなり広く、店内はほぼ満席といった状態で、どうやら繁盛しているらしい。


「オフクロ、いつまでほっつき歩いてんだよ! このクソ忙しい時に。今母さんに手伝って貰ってって……あれ?」


 コナーさんがカウンターの向こう側からアリッサさんを見つけて文句を言いかけ、雅を見て固まった。


「ああ、悪かったね。その代わりと言っちゃ何だが、期待の新人(・・・・・)を連れて来たんだ、勘弁しとくれ」


 アリッサさんが豪快に笑いながら、雅の背中をバシバシ叩いて前面に押し出した。

 コナーさんは顔を引きつらせている。


「もしかして、ミヤビ……?」

「もしかしなくても、雅です。諸事情あって……お世話になります」


 ペコッとお辞儀する。

 コナーさんはカウンターの更に奥の厨房らしきところに一声掛け、カウンターからこちらへと出て来た。


「まあ、何だ。ミヤビが決めたことなら俺は特に何も言うことはないさ。尊重する。うちは見ての通りお陰様で結構繁盛してて、大変だとは思うがよろしく頼む」


 そう言って握手のために右手を差し出してきたので、しっかりと握り返した。


「時間もないからサクッと従業員の名前と、担当の説明するな? まずカウンター内で酒を用意するのが俺の仕事だ。そしてオフクロのアリッサがホールで接客担当だ。ミヤビにはホールに出てもらうから、詳しいことは後でオフクロに聞いてくれ。それとカウンターの奥の厨房にいる熊みたいなヤツがランディ、ひょろ長いヤツがジャック、料理担当だ。最後に人手の足りないところを手伝ってくれてるのが、母さんのサラだ」


 ん? 母さん? と雅は首を傾げる。


「ねえ、コナーのお母さんはババ……アリッサさんじゃないの?」

「ん? ああ。オフクロも母さんも、どっちも俺の母親だ。詳しいことは仕事が終わってから説明するよ」

「了解」


 どうやら複雑な家庭のようだ。

 雅の中でアリッサさんは『オカン』か『ババア』呼びが決まっているが、サラさんのことはそのまま『サラさん』と呼べばいいだろう。

 だが、この規模をこの人数で回してるとか、めちゃくちゃ忙しそうである。

 少し覚悟が必要かもしれない。

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