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職業『迷子』の異世界生活  作者: 翡翠
第二章 毒舌美少女な看板娘
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「確かにあの列に並ぶのはな……。まぁ、俺でよければある程度のことは教えることは出来るぞ」

「ホントに? うわぁ、助かる。さすがにあの列に並んで、登録について教えてほしいとは言い出しにくいと思ってたのよね」

「じゃあ早速、登録についてだが。まず申し込み用紙に名前と職業と、テイマーなら相棒の名前もだな。使用出来る魔法と任意で得意な武器の記入をして、奥の部屋でスキルボードチェックが入る」


 ん? スキルボードのチェック?


「申し込み用紙に書いたものとスキルボードの内容に相違があれば、登録は受理されない……て、どうした? 何か分からないことでもあったか?」

「いや、えっと、スキルボードは必ず見せなきゃいけないってことで、間違いない?」

「そうだな。でなきゃ嘘の申告が通っちまうだろ? 冒険者は命懸けの仕事だからな。嘘偽りなく申告することはお互いにとって大切なことだ」


 どうやら昔、大見栄を張って自分の実力以上の偽りの申告をして、当たり前のように難しい依頼に失敗。

 命を落とす者が何人もいたそうだ。

 それからは必ずギルド職員の一人が立ち会って、スキルボードの確認をすることになったそうで、カッツが熱く語ってくれていたけれど、正直あまり覚えていない。

 スキルボードを見せるってことは、あの小っ恥ずかしい職業『迷子』と、『卵召喚』のスキルがバレるってことだよね?

 一応ギルド職員には守秘義務というものがあるらしいが、どこまで守られているかなんて分からない。

 絶対に見せられないし、それ以上に見せたくない!

 でも、それだと冒険者登録は出来ないから、冒険者になってお金を稼ぐことが出来ないわけで。まじか……。


「そう、だよね、うん。ありがとう。今日は聞きに来ただけだし、混雑してるから、また改めることにする。じゃあね」


 雅は何とかそれだけ言うと、ピーちゃんを連れてギルドを後にした。

 登録後すぐ依頼を受けて、そのお金で食事と宿を取ろうと思っていたが、甘かった。

 町の外で狩りをすれば食べることは出来るだろうが、町を出てしまったらお金がないから再び入ることが出来ない。

 八方塞がりである。


「マジか……」


 トボトボと町中を歩いていると、噴水のある広場に出た。

 とりあえず噴水の前まで行き、「よっこいしょ」と縁へ腰掛ける。

 諦めてステータスボードを見せ、冒険者登録をするべきか。

 冒険者になることを諦めて、何でもいいから働かせてくれる所を探すべきか……。

 雅は大きな溜息をつき首を垂れ、かなり薄汚れてしまった革靴を、意味もなくジッと見つめていた。

 ピーちゃんが心配そうに雅の顔を覗き込み、「ピ?《大丈夫?》」と首を傾げて聞いてくる。


(……私ってば、ダメだなぁ。ピーちゃんはまだ仔ドラゴンだというのに心配掛けて)


 召喚したからには、雅はピーちゃんを育てる義務がある。

 まあ義務とかそんなんナシにしても、雅にはピーちゃんを手放す気も離れる気も更々ないのだが。

 であれば、やることは一つ。働ける場所を探すことだ。


《ごめんね、心配掛けて。でも、ありがとう》


 ピーちゃんの頭を撫でてやると、嬉しそうにもっとと言いたげに頭を押し付けてくる。

 うん、ピーちゃんと一緒なら何とかなる気がしてきた。

 まあ仕事が見つからなければ、また元の遺跡戻って生活すればいいだけのこと。

 そう思えば、少しは気が楽になった。


「そこにいるのはミヤビかい?」


 ピーちゃんのお陰で沈んだ気持ちが浮上し掛けた時、アリッサさんが大きな声を上げてこちらに走って来るのが見えた。

 こういうタイミングでアリッサさんのような人に会えたりすると、気持ちが落ち着くというか、妙にホッとしている自分がいたりして。

 雅はちょっとだけ、日本の母を思い出した。

 と言っても、雅の母は細っそりとした儚げな美人でアリッサとは真逆な感じである。

 似ても似つかない二人だけれど、二人共に感じる安心感は同じだ。


「こんなところでどうしたんだい? ギルドに登録に行って来たんだろ? 何か嫌なことでも言われたのかい?」

「うん、ギルドには行ったんだけど……。私の方にちょっとした問題があって、登録は諦めようかと思って……」


 せっかくの仕事の誘いを「ギルドに登録するから」なんて断っておいて、何だかめちゃくちゃカッコ悪いよね。苦笑いを浮かべる雅に、アリッサさんは気にもしてないといった風で。


「何だい、そういうことならやっぱりうちで働かないかい? 今なら空いてる部屋もあるから、ピーちゃんと住み込みで働いてもらうことも可能だよ。助けて貰った恩もあるんだ、悪いようにはしないさ。……ただ、ちょ~っと私の言う通りにして貰って、ホールを手伝って貰いたいんだよ」

「ホント!? ピーちゃんも一緒で大丈夫なら、是非、是非ともお願いします!」

 その時の雅は、職と住の両方を手にしたことに浮かれて、そんな美味しいだけの話があるはずないなんて、これっぽっちも疑っていなかったのだ。

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