表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
職業『迷子』の異世界生活  作者: 翡翠
第一章 そこは異世界でした
1/20

1

 相澤(あいざわ) (みやび)、十六歳。

 空手道場を経営する家の四人兄妹の末っ子長女である彼女は、蝶よ花よと育てられ……たわけではなく、格闘バカな兄達に違う方向に(・・・・・)可愛がられて育ったため、その可愛らしい見た目とは相反した少女へと成長してしまった。

 あっさりサバサバした性格から男女関係なく友人は多いが、周囲からの評価は(特に男から)『残念美少女』である。

 性別を間違えただの、黙って大人しくしていれば文句なしなど、好き勝手言う奴らには雅自らが鉄拳制裁をお見舞いしている。

 小さい頃、兄達と同じように自分も男の子だと思っていた雅。

 常に兄達の後ろをついてまわり、何でも兄達と同じようにしないと気がすまなかった。

 トイレにまでついて行き、


『み〜(雅)もに〜に達と一緒に立ってするの〜!』


 などと大泣きした過去は、立派な黒歴史である。

 そんな雅は今、どこかの国の遺跡のようなものを前にして、ただ呆然と佇んでいた。


「何コレ……」



◇◇◇



 雅の通う学校には、校庭以外に小さな中庭がある。

 中庭と言ってもそんな大層なものではなく、大きな桑の木と芝とちょっとした茂みがあり、人目につかないここは雅のお気に入りの場所でもあった。

 時々ここに来て、木の根元にゴロンと横になって木漏れ日(そら)を見上げるのが好きなのだ。

 二時間目の授業が自習になり、ちょうどいいとばかりに抜け出してここへ来たのだが……。


「ん? 何だろ?」


 桑の木の根元辺りに、何やら白い石のようなものがあることに気付く。

 ヒョイと拾ってよくよく見れば、何かの卵のようだった。

 視線を上に向ければ、木の枝の一つに鳥の巣らしきものが見える。

 どうやらそこから落ちたらしい。

 よくもまあ割れずに済んだものだと感心し、視線を巣から卵へ戻そうとして、何やら違和感を覚える。

 視界の端に映る景色がいつもと違う気がする。

 そこにあるはずの校舎がなく、だだっ広い空間が広がっているよう見えるのだけど。

 嫌な予感がしてゆっくりと視線を横に向ければ、そこには校舎ではなく平原が広がり、更に視線を移動すれば、破壊される前のシリアのパルミラ遺跡のようなものが見え……る?


「はえ? 学校は?」


 遺跡以外のものは近くにはないようで、平原の所々にポツポツと木が生えており、遥か遠くに連なった山々が見える。


「何コレ……。一体どうなってんの?」


 夢であったらいいと思うものの、これが夢でないことは何となく理解していた。

 リアル過ぎるのだ。

 今触れている木の幹の硬さ、温度、さわさわと優しく肌を撫でる風、草の匂い。


「こういうのって、漫画とか小説によくあるやつ? 異世界召喚とか?」


 三男の(すばる)がその手の話が好きで、小説やら漫画やらをたくさん持っているため、多少の知識はある。

 そう、漫画や小説ならば王城とかの地下で、怪しいフード付きのマントを羽織った魔法使い達が、魔王とか、他国と戦うために勇者を召喚するのだ。

 ……誰もいないけど。地下でもなく平原だけど。

 それに、魔法陣に吸い込まれたりとかもなかったけど。

 とはいえ、目に映るのは自分の知っている風景ではなくて。

 これが現実だなんて思いたくなくはないが、そろそろ腹を括らなきゃだろう。

 まずはここがどこであるか確認したいところだけれど、どれだけ辺りを見回しても、人の姿は確認出来ない。

 とりあえず、水と食料をどうするか……。

 手元には拾った小さな卵が1つ。

 こんな小さな卵一つでは腹の足しにもならないので、とりあえず巣に戻しておく。

 それより水だ、水。

 人間三〜四日食べなくても何とかなるが、水は必須だ。

 とりあえず神殿? の周りを歩いてみたら、ちょうど雅がいた場所の反対側の位置に、井戸らしきものがあったのだ。


「井戸……だよね? 水、枯れてないよね?」


 恐る恐る覗いてみるも井戸の中は暗く、底は見えない。

 とりあえずその辺にあった石を井戸の中に落としてみる。

 一拍置いてボチャンと音がしたので、水は枯れてなさそうだ。

 水があることが確認出来たので、今度は遺跡の中を確認することにした。

 武器でも何でも、何か使えそうなものがないだろうか。


(RPGなんかだと、武器だの防具だの薬草だのが出てきたりするんだけどなぁ)


 一通り探し回って見つけたものは、底に近い部分に五百円玉大の穴が開いた樽と形が歪んだ鍋、木で出来た器が三枚とボロっちい毛布みたいなもの、木箱が三つと切れ味の悪そうな小型のナイフだった。

 樽を井戸の近くまで運ぶ。

 階段の段差を利用して、これで濾過装置的なものを作ろうと思う。

 階段の縁ギリギリに樽を置き、下の段に木で出来た皿の一枚を置く。

 樽の底に石を敷き詰め、その上に小石、砂、小砂利の順に重ねていき、そして制服のスカーフを外して一番上に乗せる。

 その上から井戸水を入れたら、樽の底近くに開いた穴から濾過された水が出てくるので、これを十分ほど煮沸したら飲水の完成となる。

 

「さて、それじゃ火を起こすとしますかね」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ