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6話 わたし

 昨日はベッドまで歩いた記憶がない。


 御飯の途中で寝ちゃったのか……。


 わたしはベッドから降り、寝過ぎて()り固まった体を伸ばしてほぐす。


「ふあぁあぁ……」


 朝の空気を体一杯に取り込み、ボンヤリした頭に新鮮な空気を送った。


 目をゴシゴシと(こす)りながらヨロヨロと井戸に向かうと、そこには濡れた黒い短髪を拭っている先客がいた。


「お! レア! おはよう! ボサボサの頭も可愛いぞ!」


「おはよう。パパ」


「昨日は寂しかったぞー。一緒に御飯食べたかったのに! まぁテーブルをヨダレまみれにして眠るレアが可愛かったから、それで我慢した!」


「やめてよ! 変なとこ見るの。それじゃあパパがベッドまで運んでくれたんだ。ありがと」


「娘には触れる内に触っておかないとな。その内

『パパの洗濯物は一緒に洗わないで!』とか言うようになるかもしれないし」


「そんなこと言わないよ」


 わたしは男のにおいを嗅ぎなれた女なんだよ。って言ったら泣くかな?

 まぁ24歳まで男やってた記憶があるから、パパに嫌悪感が芽生(めば)える事はないと思う……たぶん!


「そうかーレアはいい子だなー! 顔、洗っちゃいなさい」


「うん」


 そんな会話をした後、パパはのそのそと家に入っていった。


 それにしても『ボサボサの頭も可愛い』か。

 そう言えばこうなってから自分の姿をちゃんと見てない。

 もちろん自分の容姿の記憶はあるし、ママと同じ赤茶色の髪も摘まんで引っ張れば見える。


 でも前世が現代っ子のわたしは、どうせなら鏡で確認したいのだ。


 あいにくこの家には……というか大抵の家に姿見など置いてない。贅沢品なのだ。


 ここは平凡な……いや、寂れた田舎の村。


 道路も舗装なんてされてないし、学校と役場以外は、土と草と木しか目に入らない。


門を出て道を外れるとすぐに森だし、

家の裏手の柵を越えていくと森だし、

村の南門から道を進むと山と森だし!


 とにかく、ちょっと値の張る姿見など、この村で8年生きたが見たことない。そんな洒落(しゃれ)た物を買う人間はこんな村には住まないのだ。


 去年町まで連れて行ってもらった時に、一度だけ店に置いてある鏡で姿を映したことがあったが、その時は人混みで蹴つまづいて擦りむいた膝と、土で汚れた服の小汚い赤毛のちんちくりんが映っているだけだった。


 少しがっかりした。

 あんまりパパが可愛い可愛い言うからちょっとその気になっていたけど、水面に映る姿は正しかった。

 7才のわたしは「鏡なら!」と期待した残念な子である。


 今は(よこしま)な気持ちなど持たず、純粋に鏡に姿を映したいのだ。


 それに、心と体に生じているズレ。


 自分が自分を動かしている事を認識することで、そのズレを緩和できるんじゃないかという意図もあった。


 朝御飯までの間に少しチャレンジしてみよう!

 それっぽい精霊とも契約してるし。



 * * * *



 結論から言うと割りと簡単に姿を確認することができた。

 実験前にこれなら出来るかも!と考えていた方法であっけなく姿を映す壁ができたのだ。

 精霊にイメージを伝えると、あとは光の精霊と水の精霊がすぐにやってくれた。


 合成魔法ミラーウォールと名付けよう。

 うん! カッコいい!


 早速鏡の前に立つと、そこにはボサボサ頭の寝起きのちょっとまった! 仕切り直し!


 早速鏡の前に立つと、そこには赤茶色の髪を肩まで伸ばした女の子がいた。特に結ぶでも編むでもなく、体にあわせてさらりと揺れる。程よく焼けた肌はよく外で遊ぶ事を表していた。

 印象でいうと「テラスで紅茶」というより「畑とじゃがいも」という感じだ。

 我ながら(ひど)(たと)えだ。


 長すぎず短すぎない整った前髪は、こまめにママが切ってくれている。シュッとした健康そうな肉付きだが、どこか丸く柔らかそうな印象があった。背は同年代の子に比べてすこし低めだ。


 顔は……まぁママは美人だから今後の成長に期待しよう!

 

 瞳が緑色なのは本当に知らなかった。鏡でないとわからなかっただろうから、今回一番の収穫かもしれない。


 記憶にある姿と(おおむ)ね一致した。


 自分の姿を鏡に映しながら手足を動かし、鏡の中の女の子を動かしているのが自分であることを噛み締めていく。


 少しだけ自分の中で折り合いが付いたような気がした。


 これがわたしだ。

 この姿と共に成長し、人生を歩んでいくのだ。


 わたしは自分の姿を心に刻み込み、スッと鏡を閉じた。


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