5話 変化と悩み
机の前に座って魔王との戦闘のことを思いだし、あの時起こった事や、これからの事を頭の中で整理していた。
しかし、整理しているつもりでも考えは散らかっていくばかりで、とりあえずの答えすら出せず、完全に行き詰まっていた。
「レアー!」
わたしを呼ぶ声に気付きハッ!っと我に返った。
ママが呼んでる。
わたしは椅子から立ち上がり、声がした台所の方に駆けていった。
「何? ママ」
「あーレア。お外が暗くなってきたから、玄関の灯りをつけてくれる?」
「うん。わかった」
わたしは開けっ放しの玄関へ行き外へ出た。
玄関の扉の両脇には大人の頭くらいの高さに石が吊るされていた。
わたしはいつものように、こちらの世界の文字で『レア専用』と書かれた踏み台に乗り、少し背伸びをして石に触れた。
そしてそのまま魔力を流すと石が柔らかく光りだした。同じように反対側の石にも魔力を流す。
これがいつものわたしの仕事だ。
魔力を流すと光るこの石は魔石である。約半日間光り続け、効果が切れても魔力を流せばまた使える。ただ光るだけの魔石なのでそれほど高価ではなく、どの家庭の玄関にも吊るされていた。
産出される場所によって様々な効果があり、専門の業者によって管理され流通していた。熱くなるものや、冷たくなるものなどもあり、余程珍しい効果のものでない限り一般家庭でも充分買える金額で売っている。
「あら今日はいつもより明るいわね?」
魔力の質や量は魂によって決まるため純粋なレアだった時と変わらないはずだ。いつもより明るいのは、おそらくマサトの記憶が戻ったことにより魔力の使い方が変わったためだ。熟練度とでも言おうか。
「昨日も一昨日も家に帰るなりすぐ寝ちゃったから、ママが代わりにやっといたわよ。明日からは自分の係はちゃんとやること! 約束よ」
「うん。ごめんねママ」
そう。記憶が戻ってからは慣れないことばかりで消耗が激しい。考え事でモヤモヤしているのも原因だが、戸惑うことが多いのだ。
いつもやっていたことや、いつも見ていたもののはずなのに妙に気恥ずかしい。
トイレ、お風呂、着替え、体の変化を認識させられる行動全てに気恥ずかしさがつきまとう。
記憶ではいつもやっていることなので、作業自体は手慣れた手つきでこなしているように見えるだろうが、心の中では羞恥心が暴れ狂っているのだ。
体を洗ったりトイレの後の作業はまだ目を閉じて行っている。
位置自体はいつもの感覚で手を動かせば、目を閉じていてもわかるのだ。
「はぁ……」と大きなため息をついた。
本当に変わっちゃったんだな……。
いや……もともとなんだけどさ……。
悩みごとが時を重ねるごとにどんどん積み重なっていく。
疲れた……。
眠くなってきたな。
「今日も眠いの? やっぱり体調が悪いんじゃない? 明日治療術師の先生の所に行く?」
あの日のことは、まだママの中で少し引っかかっているらしい。
ママに心配をかけるのはイヤ。
失望されるのはもっと……。
「ううん。大丈夫。でも眠くて……御飯食べて寝る。パパに先に食べちゃってごめんねっていっておいて」
「10日ぶりに帰って来るのに、パパがっかりするわよ?」
「ごめんね。でも……ふぁぁぁ~……眠くて」
「しょうがないわね。明日の朝はちゃんと一緒に食べるのよ」
「うん」
パパは町までお仕事に出ている。町まで片道半日近くかかるため、10日に1度休みに帰ってくる。今日がその日なのだ。
パパの同僚は休日も町で過ごし、30日に1度くらいのペースで帰ってくるんだけど、パパはわたしに会う回数を増やすため早いサイクルで帰ってくる。
だからパパには本当に悪いなーと思うけど、この眠気には抗えない。
体は8才児なのだ。
「はい! どうぞー。今日はレアの大好きなお肉とお野菜のスープと、お芋のサラダよ。召し上がれ」
「いただきまーす」
眠い目を擦りながら食べていたが、半分ほど食べたところでわたしは眠ってしまった。