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44話 (裏) 無貌

44話 『未知』の裏の出来事です。

「ほらっおじさん! 行くよ!」


 そうエレナちゃんに促され、後ろ髪を引かれながらレアの方から離れる。

小走りで進みながらちらちらと後ろを振り返って確認すると、シッシとばかりに邪魔者を追い払うようなしぐさをするレアが見えた。

 俺たちは足手まといか……。

 魔物を瞬時に倒した強さや、回復魔法の実力を思い出し、アレを見せられたら俺なんかが足手まといになるのは当たり前かとは思うが、娘に申し訳なさそうな顔で追い払われることに若干の寂しさを覚えた。


「なぁ、エレナちゃん……言われるままに離れちまったが、アイツは大丈夫なんだろうか? あのでっかい魔物が相手なら、みんなで協力した方が──」

「レアなら大丈夫だよ、おじさん。あの子は強いんだから」


 そう自信ありげに語るエレナちゃんを見て、パパが知らないレアの姿をエレナちゃんは知っているのだと、疎外感でより寂しさが増す。


 まぁもう8才にもなれば、親への秘密の一つや二つあるもんだよな。

 俺だって小さい頃、秘密なんていくらでもあったよ! あった!

 そうやって考えても思いつかない幼少の頃の秘密を頭の中で捏造し精神の安定を保つ。


 そう言えばレアから大切な物を捨てるとか、どっちかを取らなきゃいけないとか、なんかそんな相談を少し前にされたっけかなぁ。

 特に濁すことなくストレートな取捨選択の相談だったが……まさか!? 捨てるどっちかってのは父のことでは!?

 いやいやいや、そんなことないよな……ないよな!?


 横に首を振って悪い考えを振り払うと、どこからともなく「撃てぇぇぇぇ!」という号令が聞こえて来た。

 どうやら魔法による防衛戦が行われているようだ。

 号令の声には聞き覚えがあった。


 おぉ……あの声は。やってるな? 上官殿。


 最近使わなくなった呼び方をあえて頭の中で使い、かつての感覚を懐かしむ。


 普段の感じも良いけど、ああいう勇ましい姿もやっぱいいなぁ。

 軍で指揮してるときは仮面でなかなか顔が見えなかったから、素顔の上官殿も新鮮な感じだ。

 もう一生見ることはないと思ってたけど、久々にいいもん見た。


 隙を見て校内に入り込むと、どうやらオレに気付いたらしい上官殿が、ウインクしながらこちらに向かって手を振る。

 それに応えるようにオレも指を二本立てて合図を送ると、それを横で見ていたエレナちゃんが、オレの合図の送り先を不思議そうに見ている。


「おじさん……アレって……」


 エレナちゃんは、指揮を執っている上官殿を指さしながら首をかしげると、怪訝そうな顔のままオレの方に向き直した。


「あぁ、あれ? エレナちゃん知らなかったっけ? ウチの奥さんオレの元上司」

「えぇ!? おじさんって元軍人ですよね!? ってことは?」

「そう。レアのママは軍のわりと偉い人」


 エレナちゃんはギョッと目を見開いた。


「えぇ!? おばさんあんなに優しそうなのに!?」

「まぁ仕事と私生活は別だしな。仕事中は怖かったぞぉ~? 仮面付けて素顔見えないようにしててな。"無貌(むぼう)のターナ"なんて呼ばれて恐れられてた」

「ほへぇ~。じゃ……じゃあおばさんってもしかして貴族だったり……!?」

「そう。まぁこっちに来るときに捨てた身分だけどな」


 再びターナの方を見て呆けた表情を見せるエレナちゃん。

 しっかり者のはずのエレナちゃんの、この珍しい表情はレアにも見せてやりたかったな。


「おじさま!」


 エレナちゃんを見ながらにやにやしていると、背後から突然誰かに呼びかけられた。

 声がした方に目を向けると、どうやらこちらに駆け寄ってきたらしいテテスちゃんが、息を切らしながら立っていた。


「テテスちゃん!? よかった無事だったのかぁ!」

「おじさまも!」


 そう言って心底嬉しそうに両手を前につき出してくるテテスちゃん。

 もう若くないおじさんに対して、前にだした両手を恋人つなぎみたいに組ませようとしてくるテテスちゃんには、若干の残酷さを感じたが、そこは素直に応じる。

 大人だからね。


「いやぁ~、ついさっきまで腕一本あきらめるくらいには無事じゃなかったんだけど、英雄様の登場で助かったよ」

「英雄様って、レアちゃん!?」


 テテスちゃんは今のレアのことを知っているようで、顔に喜色を浮かべながらすぐに聞き返してきた。

 思い返してみると、レアが"なんとかキック"で飛んできたのは学校の方角からだったから、学校にいた人達は先に何らかの形でレアの力を見ているのかもしれない。


「そっか。テテスちゃんは今のレアのこと知ってるんだ?」


「はい! 今学校にいる人はみんな知ってます!」


 そっかーオレが一番最後かぁ~。

 娘の秘密を一番最後に知ったのが自分だったとわかり、ガックリと肩を落とした時だった。


 ブワっと魔力を含んだ突風が外から校内へ吹き込んだ。

 外に目をやると、濃縮された魔力が夜空をバチバチと雷のように照らしているのが見える。


 始まったか……。


 突然の突風に警戒したのか、上官殿が隊列を変えるよう指示を出している。

 オレは説明のために上官殿に駆けよった。


「ターナ! レアだ。あいつがデカいのをやろうとしてる」

「レアが!?」


 オレとターナは顔を見合わせて互いに頷き、風の発生源へと駆け出した。

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