47話 水
誰!?
咄嗟に謎の声の方に目を向けようとした次の瞬間、短剣から突風のように魔力が発射される感覚が走り、短剣を中心に広がる球状の魔力の膜がわたしの体を通り抜けて広がっていく。
なに!? これ!?
魔力がわたしを通り抜けていったあと、体に明らかな違和感を覚え、辺りを見回そうとするが、顔を動かすことができない。
それどころか、目を動かすこともできずに、視界が固定されたまま体が固まっているような状態だった。
短剣から発せられた魔力が貫通していく瞬間、短剣の方に注目してしまったため、腰から引き抜いたばかりの短剣が視界の中央に鎮座し、周囲の確認ができないままどうすることもできない。
確認したい箇所がフレームから見切れた写真を見て、重要な事の決定を強いられるような理不尽な事態に、わたしの頭は真っ白になっていた。
前世の時、魔王との戦いで感じた、初見の攻撃を受けた後に体が動かなくなる感覚。あの時は体を両断されていて、それがわたしの死因になった。
その苦い記憶がわたしをパニックに陥らせた。
わたし……止まって? あれ? どうすれば!? ママ!? テテスちゃん!? エレナちゃん!?
みんながピンチになってて、すぐに助けに行かなきゃいけないのに!?
なんだよ! コレ! なんで!? どうすれば!? クソっ!
もどかしさや焦り、怒り、いろんな感情がぐちゃぐちゃに混ざり合い、わたしの頭で処理できない。涙は出ているはずなのに、時が止まっているからか、目から水分は出ていない。
半ばヤケクソ気味だったが、見たい方向に眼球を無理やり動かすように目に力を込めていると、あることに気付いた。
あれ? これ、ちょっとだけ視界が動いてる!?
そう思い力を込め続けると、かたつむりより遅いくらいの速度で視界がしわりじわりと動いていた。
どういうこと!? もしかしてこれ、時間は止まってない!? 時の流れが遅くなってるってこと!?
わたしがそう結論付けるのとほぼ同時に、左肩に「ポンッ!」と何かが乗っかるような重みを感じた。
なんとなく精霊の誰かがわたしの肩に姿を現したのはわかるんだけど、目をむけて確認できないので誰が来たのがわからない。
だれ!? ボーちゃん? カザリ―ン?
頭の中で心当たりの精霊に呼びかけたけど反応はない。
精霊とはわたしが頭に言葉を思い浮かべるだけで会話できるので、普段はこれで意思の疎通ができるんだけど、今日はなぜか返事がない。
とにかく誰が現れたのか確認しようと、目を必死に肩の方に向けようと力を込めていると、左肩の方から声が聞こえてきた。
「やああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ! こおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんんんんんんんんんんなあああもんかな? あらためまして、やあ! ごちそうちゃん。なんだかとっても早口になったね!」
「よう! マサト──じゃなくてレアか! ひさしぶり! まぁこっちはおまえのことずっと見てたんだけどな! あはは!」
その声はボーちゃんとおみっちゃんか!
おみっちゃんは水の精霊で、ド派手なキャバ嬢を二頭身にデフォルメしたような姿をしている。そしてめちゃくちゃ口が悪い。
精霊の容姿や口調なんかは、すべて精霊を見ている側、つまりわたしの精霊へのイメージが反映されるので、水の精霊という言葉から水商売のイメージを思い浮かべてしまった、わたしの貧困な想像力が原因でこんな姿で現れるようになってしまった。
「あーそれそれ。レア子。おめーいつもの千倍くらいの速度で喋ってっけど、それ、わかっててやってる? つかそれ、どーやってやってる? マジ謎すぎるわ」
レア……子!? じゃなくて千倍!?
精霊すらどうやっているのかわからないという、時間に干渉する魔法。
短剣を握ったときに聞こえた、覚えのある声はやっぱりあの時の……?
以前気を失ったときに夢の中で会った謎の存在。
ただの夢かと思ってたけど、そうではないのかもしれない。
正体不明の何かに動かされているという実感が、わたしの心に暗い影を落とした。
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