42話 英雄は遅れて
前回のお話の同じ時点の主人公視点の話です。
お話が進まなくて申し訳ないです。
「レアァァァァァァァ!」
わたしを呼ぶ声が聞こえた瞬間、咄嗟に窓枠に足をかけた。
そのまま足に魔力を纏わせ身を乗り出すと、込めた魔力を一気に放出しながら窓枠を蹴る。
ガランと窓枠が崩れる音を後方に置き去りにして、わたしは弾丸のように上空に飛び上がった。
「──痛ったぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
魔力を込めて飛び上がった時の衝撃をもろに足に受けて、たぶん足の骨は砕けた。
叫ぶことで痛みをごまかしながら、後ろ手で足に治癒の魔法をかける。
足を触って魔法をかけているはずなのに、触った部分が足の形をしてない。
振り返って後ろを見ることはできないけど、見えなくて正解なのかも。
今は緊急事態だから使ったけど、跳ぶ魔法は足が痛すぎる!
しかも前世の頃より体が細く脆いので、魔力量の調整も間違ったし、履いてるのもただの靴なので想定してたよりもずっと痛い。
目から次々とあふれる涙が風で流れてそのまま後ろに吹き飛んでいく。
高速で飛びながら薄目を開けて、声が聞こえた方向を探すと、涙でにじんだ視界の中にぼんやりと見覚えのある人影を見つけた。
捉えた!
目に入る風のせいで形はよく見えないけど、二つ連なる人影の髪色の組み合わせは、わたしに確信を持たせるのには十分だった。
そして二人の近くの物体を魔物と断定し照準を定める。
魔物がパパに覆いかぶさるような体制になっていて、一刻の猶予もないと思ったわたしは即座に決断した。
頭の中で風の精霊に指示を出し、空中でぐるりと体勢を変えると、標的の方にかかとを向けて両手を頭の上に掲げる。
頭上の手に魔力を溜め始めると、意識の集中のためにわたしは声を上げた。
「タァーーーーーツゥーーーーー!」
球状の魔力が人の頭ほどの大きさになり、碧い光を放つ。
「マァーーーーーキィーーーーー!」
つま先の周囲に風の力が渦巻き、静かに音を立てながら風が回り始める。
「キィーーーーーーーーーーーーック!」
わたしの掛け声が合図になり、頭上の魔力が強力な光を放ちながら弾け、わたしを地上に向かってバレーボールのように撃ち出した。
加えて、足の周りに纏った魔力がそのままスクリューに似た役割りをして、地上に吸い込まれるかのように降下速度が加速していく。
降下しながら狙いを定め、わたしは魔物の脳天に蹴りを見舞った。魔物はズドンと地面にたたきつけられ、わたしの足を覆う魔力がドリルのように魔物を地面ごとがりがりと削って散らす。
周囲を魔物の血肉と土埃が舞い、魔力のドリルが動きを止める頃には、視界が煙で塞がっていた。
地面に片膝をつきながら「散!」と風の精霊に指示を出すと、わたしを中心に風が巻き起こり、あたりの土煙を瞬時に散らした。
立ち上がって振り返ると、そこにはパパとエレナちゃんの姿があり、わたしは胸をなでおろした。
よかった……間に合ったぁ……。
目が合ったエレナちゃんは今にも泣きだしそうな顔でこちらを見ていた。
なにか安心させるような言葉をかけないと。
そう思いわたしは口を開いた。
「颯爽ゲホッゲホッ登ゲホッ場!」
少し煙を吸い込んでむせた……締まらない……。
「レアッ!」
格好がつかずバツの悪いわたしに構わず、嬉しそうにエレナちゃんがわたしを呼んだ。
「エレナちゃん! パパ! ゲホッ……遅くなってごめん、おまたせ!」
わたしがそう声をかけると、エレナちゃんが袖でなみだを拭いながら首を横に振った。
「ううん、ヒーローはね、遅れて来るんだよ」
確かにそうだ……じゃあヒーローらしく!
わたしはそう心に決めてうなずき、残った魔物の方に向きなおすと、魔力の剣を纏い、構えた。