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4話 俺の記憶 3

 手練(てだ)れの剣士の絶妙な技で切られた時、体を構成する細胞が分断されたことに気付かず、しばらく何事も無かったように生き続ける、というエピソードを何かで読んだことがある。


 あの魔王の放ったレーザーのような魔法は手練れの技。




 なら俺の体は……。




 永遠のようにも感じた魔王の攻撃が止んだ。


 時間は10秒も経ってない。


 美術館で気になる絵を同行者に指し示す。


 その程度の動きだった。


 たったそれだけで絶望の(ふち)に叩き込まれた。


 化物……。


 次の攻撃による「死」を確信した。


 しかし追撃はなかった。


 ヤツはただ立ってこちらを見ているだけ。




「ゴフッ!」


 体の中から込み上げてくるものが抑えきれず、口から血が溢れ出した。


 体が、細胞が、気付いた。


「っーーーぐっーーっがっ……ぁぁぁがぁぁ」


 切られた肺からは空気を送り出す機能が失われ、

 声を上げているつもりでも叫び声が音にならない!


 意識を……保っていられない!

 俺が……消える……。


「マサトォォォォ!」


 今にも消えてしまいそうな意識を誰かの声が繋ぎ止めた。

 閉じかけのまぶたに力を込めて目を開くと、ニアが走ってこちらに来るのがぼんやりと見える。


「マサト! 先生! マサトを!」


 ニアが後ろを振り返り、先生に治療を促す。

 しかし先生は眉間にしわを寄せて首を横に振った。


「マサト! マサト! マサトォォォォ!」


 もう意識がなくなる。

 袈裟懸(けさが)けに両断された俺の体は断面が大きすぎて、流れ出した血が水溜まりのように地面をヒタヒタにしていた。


 不思議と痛みは感じない。


 そんなに泣くなよ。

 そう思い、俺は最後の力を振り絞って、仲間にこの場から早く逃げるように促した。


「おま……は……にげ……ゴフッ!」


 もう俺はわずかな音を出すのが精一杯になっていた。

 その音も込み上げてくる血液に遮られる。


 俺に残された片腕を伸ばし、最後にニアの頬を撫でるつもりだったが、その腕も手首から先がなくなっていて、噴き出す血をニアの長く綺麗な髪につけてしまった。

 金色の髪についた赤い汚れが、ぼやけた目でもはっきりわかる。


 ニアが涙でぐしゃぐしゃの顔をさらにゆがめた。


 さすがのニアも泣いてる顔は不細工だな。

 そんなとりとめのないことが脳裏に浮かび、頬の筋肉が緩む。

 人生最後に見たものが好きな女の顔で良かったなんて思いながら、そのまま目を閉じようとした時だった。


 唇を噛み締め、ニアが何かを決意したように表情を変えた。


「先生! マサトをもたせて! 1分でいい! 命をつないで!」


「なにか考えがあるんですね。わかりました」


 先生が治癒の魔法を俺にかけ続ける。

 魔力の放出量がすごい。

 1分間で全部の魔力を精霊に食わせる気だ。


「マサト聞こえる!? 返事が出来ないならまばたきして!」


 確かにもう返事をするのは無理だった。

 自由の利かないまぶたでなんとかまばたきをすると、うなづいたニアが言葉を続ける。


「マサト! よく聞いて! 王都を目指すの! そこで......待ってる! 何年でも......何十年でもっ!」


 途中から涙を止められなくなったニアの顔は、またぐしゃぐしゃになっている。


「あなたがどんな姿でも……必ず……見つけるから!」


 どういう意味かはわからないけど、まばたきで返事をした。

 それを確認したニアは腰から短剣を取りだし、首から下げていた青い魔石のようなものを、ペンダントごと引きちぎった。


 そして俺に理解できない言葉で呪文を唱え、青い魔石に魔力を流し始めた。

 すると青い魔石はドロリとした液体になり、ニアの手から腕に一筋垂れる。

 握った手の中に青い液体を貯めたままニアがこう告げた。


「ごめん……」


 次の瞬間ニアは俺の胸にバシンと手を当て、その手ごと短剣で俺の胸を刺した。


「マサト……あいし」



 次に目を開けた時、俺はわたしになっていた。

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