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35話 密談

 説明を始めようとするが、何から話すか、どう話すかが頭の中でぐるぐる回り始め、一向に話が前に進んでいかない。

 説明しなくちゃならないことがあると切り出した矢先のしどろもどろっぷりに、テテスちゃんが首を(かし)げている。


「あのさ……う~ん、え~と……あのね」


 全く進んでいかない話とは裏腹に、明らかに”話しづらいことがある”と主張するかのような、身振り手振りを交えたわたしの困惑を見て、次第にテテスちゃんの態度も怪訝なものになっていく。


「レアちゃん……? どうしたの? 頭打ったの?」


 ちょっとヒドい物言いだけど、テテスちゃんは馬鹿にしているわけじゃなく、本気で心配してくれている。


 まぁ頭は本当に打ってるんだけどね……。


 わたしは迷っていた。

 テテスちゃんはこのままだと"無能力者"として一生を送ることになってしまう。

 そうなる原因を作ったのはわたしだし、責任をとるという意味でもボーちゃんに頼んで、魔力のバイパスを作ってもらう。

 そのために全てを説明するべき。それはわかってる。

 でも、テテスちゃんが目覚める前にボーちゃんが口にした一言が、わたしの中にチクチクと刺さるトゲのようにずっと引っかかっていた。


"君は勇者を増やせる"


 テテスちゃんが目覚めたことで、ボーちゃんに詳しく問いただす機会を失ってしまったけど、たぶん聞き直すまでもない。

 おそらくわたしの想像どおりの答えが返ってくるだけだろう。

 無尽蔵とも言えるわたしの魔力を、わたしが許可する限り自由に使える上に、精霊との関係もわたしが取り持つのだ。

 そうなれば出来上がる人物はもう"勇者"と言ってもなんら差し(つか)えない。


 そして……"勇者"と呼ばれる人物が必要とされる場所は……。


 その選択がもたらす結果がテテスちゃんにとって幸福であると、わたしには思うことができないのだ。


 テテスちゃんが争いごとを好む様子は今まで見たことがないし、クラス内でテストの点数を競った時ですら、1番になったことを先生に褒められ、迷惑そうな顔をして落ち着かない様子だった。


 おとなしくて、引っ込み思案で、優しくて……。

 そして、なにより責任感が強い。


 魔王の軍勢が進行を続ける今、戦う力は最優先で必要とされている。

 もしその力が露呈(ろてい)すれば、多くの人に救いを求められることになるだろう。

 争いごとの嫌いなテテスちゃんは、人々との軋轢(あつれき)を避け、その強い責任感から、人々の希望を跳ね除けることができず、ずるずるとその身を戦いの中に投じることになる。

 わたしは、わたしの知っているテテスちゃんならそうなる気がしてならないのだ。

 直感がテテスちゃんを勇者にしたくない、してはならないとしきりに訴えている。


 考え込むわたしを見てか、テテスちゃんの顔色が先ほどの怪訝なものから、わたしを心配するような表情に変わり始めたのが目に入り、安心させようと無理やりに笑顔を作ってニコッと微笑んだ。


「レアちゃん、大丈夫? やっぱり頭打ってない?」


 慣れない気遣いはわたしの怪しさを倍増させた……。


「あ……いや……大丈夫です……」


 うじうじしてても解決はしないだろうと思ったわたしは、気をとり直して再びボーちゃんに思念を送った。


(ボーちゃん……わたしやっぱりテテスちゃんを勇者なんかにしたくない)


(どうしてだい? 君は勇者として生きて、そして死ぬまでの間に多くの人を助けて、感謝され、そのときのことを思い出すと心が温かいもので満たされるじゃないか。僕ら精霊にもそれが伝わってきているんだよ?)


 感情まで筒抜けだという新事実に一瞬もやっとしたものを感じたけど、とりあえず飲み込んでおく!


 (でもイヤなものもいっぱい見たし、辛い経験もたくさんしたんだよ。わたしはその時は大人だったから耐えられたけど、まだ8才のテテスちゃんにはあんな経験して欲しくない。それにわたしが殺されたのだって、言ってみれば勇者の使命を全うしようとしたことが原因だし)


(君だって今は8才の女の子じゃないか)

(わたしはいーの!)


(まぁ君がそう言うなら、その意見を尊重しよう。でもそうするとあの子は魔力を使えないままになるよ?)


(だからこうして相談してるんじゃん! もともと魔法に必要な呪文って、魔法の規模も内容に含まれてるんでしょ? それならわたしの魔力を利用して魔法を使ったとしても 呪文を通してさえいれば、その呪文どおりの強さになるってことじゃない?)


(確かに、呪文に威力を指定する文言が含まれる魔法は多いね)


(だったらテテスちゃんには精霊のこととか何も伝えないで、わたしとの魔力のバイパスだけ作っちゃえば、ただの魔力が多い子に見えるだけで済むんじゃない? 儀式と呪文が必要なくなったことを伝えなければさ?)


(まぁそう言えなくもないけど、威力の調節を術者がする魔法もあるし、なにより君の魔力で出す魔法が、呪文で指定した規模どおりに出ると思わない方がいい。君の魔力は濃厚で本当においしいんだ。それこそ1滴くれるだけで何でもしてあげたくなるくらいにね。少なく見積もっても、指定した威力の倍くらいにはなるものと思っておくべきだね)


(なんだかブレーキの壊れたレーシングカーみたい……。でも2倍程度の威力で済むなら、テテスちゃんの力が王国に目をつけられる前になんとかできるかもしれない)


(何を"なんとかする"んだい)


(テテスちゃんが勇者として祭り上げられる前に、わたしが魔王を倒し、戦いを終わらせる!)


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