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3話 俺の記憶 2

 扉を開き、一斉に部屋に突入すると、学校の体育館程の広さの空間に出た。入る前に予想した通り、ここが魔王の部屋だとすぐにわかった。

 こんな部屋で三日月形の寝椅子に横たわり、優雅に本を読んでいる人物など、城の主以外に考えられないからだ。

 その人物はオーロラのような捉えどころのない色の服をふわりと揺らし、ゆっくり立ち上がると、読んでいた本をパタリと閉じた。


 まるで日常の一幕のような動作に一瞬毒気を抜かれたが、奥歯にグッと力を込め、気を引き締め直した。


「お前が魔王だな!」


『そういうあなたは勇者マサトさんですね』


 頭の中に直接響く声に一瞬ギョッとしたが、顔には出なかったと思う。

 俺は動揺を隠す為に語気を強めた。


「質問に答えろ」


 突き出した剣を握る手にじわりと汗がにじむ。


『確かに最近、私のことを“魔王”と呼ぶ方は増えました。私自身でそう名乗ったことは一度もないのですが』


「そんなことはどうでもいい。“魔王”がお前のことを指すなら、それだけで十分だ。お前を殺す。その為に来た」


『人の家に無断で侵入し、家人達を殺し、あまつさえ家の主まで手にかけるというのですね? あなた方のどこにそんな権利があるというんです?』


「平和な町や村を蹂躙(じゅうりん)し、罪もない人々を殺す、その闇の軍勢を率いている奴を悪と言い、それを成敗するのに権利は必要ない」


『私は(けが)れを浄化し――』

「黙れ! これ以上話す必要はない。行くぞ!」


 魔王との会話を打ち切り、戦闘を開始する為に踏み出そうとした時だった。


『降りかかる火の粉は払います』


 奴はそう一言告げると、片手の人差し指をスッと立て、だらりと下げていた片腕をこちらに向けた。


 その瞬間。


 ピィィィン!


 という高い音が耳元で聞こえ、顔の横を熱風が通り過ぎたのと同時に、ビリッという感触が全身に走り、俺の体は硬直した。


 まずい! 奴の術か!? 手足が動かない!!!

 みんな!? 無事か!?


 声を出そうとしたが、声にならない。


 そのまま後ろに倒れ込み、動かない体で仲間の方に目をやった。


 4人の先頭に立ち、紫色に光る1本の細い糸のようなものを剣で受け止め、それを左右に切り分けるゲイルの姿が見える。


 あんなレーザーみたいな魔法俺は知らない……。

 俺はあれをくらったのか……全く見えなかった……。

 すごいなゲイルは、馬鹿じゃなかったらとっくに俺を超えてた。


 糸の威力に押し負けそうなゲイルを、後ろでニアが支えているのが見える。切り分けられた糸は激しくうねり、俺達がさっき通った扉やその横に続く石壁を瞬時に切り裂いて、みるみるうちに瓦礫に変えていった。


 ニアの後ろで小さくうずくまるミコットの姿が見える。


 まずい! ミコットがやられた!


 ミコットの片腕が切断され、傷口を押さえる手の間からボタボタと血が噴き出していた。


 何やってんだ先生! 早くミコットの治療を!


 そう思って先生の方を見ると、先生がこちらを向き、目を見開いて固まっていた。


 仲間達に目をやり、状況を確認するにつれて俺の中で膨らんでいった漠然とした不安。


 後ろの瓦礫、ミコットの腕、こちらを見る先生の表情、それらの情報が俺に何が起きたかを理解させた。


 術で手足が動かないんじゃない……。



 


 切られたんだ……。





 俺は右のわき腹から左の肩にかけて胴体を切断されていた。

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