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28話 歪み

 周囲を見回すと、ほとんどの家が倒壊ないし半壊していた。無事な建物はもうあまりない。

 本来あるはずのない家と家の隙間から、学校の3階部分が見える。

 3階の窓からは数人の生存者が顔を出していて、みんな一様に同じ方向を見ていた。


 やっぱりみんな学校に避難してる!

 まだ間に合う!


 村に入ってから初めて無事な人間を確認し、すり減るばかりだった心に少しの光明(こうみょう)がさした。



 その時だった。



 至近距離で轟音(ごうおん)が鳴り響いた。

 地面は揺れ、爆風と共に土煙(つちけむり)が舞う。


 軽い体重と疲労のせいで踏ん張りが利かず、吹き飛ばされそうになっているところをママに抱き止められ、そのまま一緒に地面に()せた。


 この音……森にいた時に聞こえてきた音だ!


 頭の中にまで直接響いてくる地鳴りのような音。

 至近距離で聞くと、バリバリと木材が折れる音が混ざっていることがわかる。


「ケホッ! ケホッ!」


 爆風は治まったけど、走り続けて乱れた息のせいで、周囲に舞う土埃(つちぼこり)を吸い込み、むせてしまった。


 息苦(いきぐる)しい……。


 伏せたまま風の精霊に頼んで、周囲数メートルの土煙をシュっと空間ごと瞬時にまとめると、ビー玉程度の大きさの土の玉になりコロンと地面に落ちた。


 立ち上がって視界が晴れているのを確認し、爆風がした方角に顔を向ける。


 たった今、何者かの手で倒壊したとおぼしき3(むね)程の家屋。もうそこに何が建っていたのかは判別できない。

 瓦礫(がれき)に変わったそれの上には、見上げるほど巨大な二足歩行の爬虫類のような化け物が、重そうな足をズシンと乗せていた。

 その姿は鱗で覆われており『怪獣』という言葉が頭をよぎる。


 で、でかい……。


 初めて見る魔物だった。

 3階建ての学校と見比べても遜色(そんしょく)のない巨体。こんなのが学校を襲ったらひとたまりもない。


 こいつを学校にやっちゃいけない……。


 尖兵ですら家を薙ぎ払えるくらいの力を持っているんだ。恐らくこいつの大きさなら、頑丈な学校といえど砂の城を崩すかのように破壊するだろう。

 でもこいつと戦っていたら、学校に避難してる人達の救助が間に合わないかもしれない。

 なにしろ初めてみる魔物で、正確な強さもわからないし、何をしてくるか行動が読めない。負けるとは思わないけど、倒すのに時間がかかれば、学校の方の状況は悪くなるはず


 幸いこの巨大な魔物には大した目的も無いようで、わたし達に目もくれず、(きびす)を返してズシンと歩きだした。

 こいつの気分が学校に向いた時が恐いけど、とりあえずは放っておいて大丈夫そうだ。

 今下手に刺激して襲いかかってこられるとまずい。

 こいつを倒すのは学校の安全を確立してからだ。

 小声でママに意図を伝え、わたし達は気付かれないよう隠れながらその場を後にした。






 何匹かの魔物を切りつけながら学校への道を駆ける。

 既に肉体の疲労を気合いで抑え込み、何とか走っている状態だ。


 想像以上に体力の消耗(しょうもう)が激しい……。

 基礎体力がマサトの頃より圧倒的に少ないのに、当時と同じような戦い方をしている。

 マサトとレアの身長差を埋める為に以前より高く跳び、狭い歩幅を(おぎな)う為に以前よりせわしなく足を動かしていた。

 負担が増しているのはかつての仲間がいないという理由だけじゃない。

 もうマサトの戦い方はわたしの体に合わなくなっていたのだ。

 魔力は有り余っているのに、8才の肉体に疲労の限界が近づいているのを感じる。


 ミコットの戦い方をもっと見ておけばよかった……。


 かつての仲間ミコットは前世のわたしよりも歳上だったけど、その見た目は10才くらいの女の子で、小さな体にもかかわらず、かつてのわたしやゲイルとも渡り合える格闘術の使い手だった。


 ミコットと再会したら稽古(けいこ)をつけてもらおう。

 めちゃくちゃ照れくさいけど必要なことだ。

 わたしの姿を見たミコットは笑うだろうか……。


 疲労と考え事でボーッとしながら走っていたわたしは、学校から聞こえる声で我に帰った。


「前列交代! 放て!」


 戦いの号令が聞こえる!

 やっぱり入口で魔物の進入を防いでるんだ!


 生存者がいたということを喜ぶあまり、わたしは不用意に飛び出してしまった。

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