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25話 開戦

 わたしとママは息を切らせながら森を走った。


「ママ! ここ足もと気をつけてね!」


「えぇ!」


 わたしはママに先行し、木の根や石ころを位置を指示しながらママに声をかける。

 最初はついて来ているかたまに確認するだけだったんだけど、だんだんとママの転ぶ回数が増えて時間を食うようになったのだ。 


 よく考えてみると、ママが本気で走っている姿を見るのは今日が初めてかもしれない。


 普段の小走り程度では気付かなかったけど、なるほど「運動とか他のことはからっきし」と言っていた意味がわかった。

 ママは運痴(うんどうおんち)だ……。


 さっきは戦う能力も高いと予想したけど、たぶんダメかも……。

 わたしがフォローしてあげないと、たぶんすぐ死ぬ。

 確かに合成魔法はすごかったけど、戦場には出せないタイプだ。


 そんなことを考えていると、ドサッという音と共に、本日何回目かの「イタッ!」という声がまた背後から聞こえた。




 * * * *




 村に近づくにつれて、視界を覆う木々の数が減っていった。

 木々の間から見えていたオレンジ色の光が、建物を燃やす炎だと、もうはっきり見て取れる。


 村が……燃えてる……。


 さっきまで予想や伝聞にすぎなかった事が、現実として突き付けられる。

 心の中にあった漠然とした焦燥感が鮮明になり、より明確にわたしを()かした。

 心拍数の増加は息切れによるものか、心を支配する不安による物だろうか。


 村からの炎に照らされ、足元の視界が良くなったことで、道はさっきより走りやすくなっていた。

 もう村を囲む柵まであと少し。

 わたしは乱れる息に構うことなく、森の終わりを駆け抜けた。


 森と村の境目に到着し、柵を潜り抜ける。

 周囲を見渡すと、わたしは背筋が「ぞくり」とするのを感じた。


 たくさんの崩れた家屋、視野のほとんどを占める激しい炎。

 荒らされた畑、家畜の血で汚れた畜舎(ちくしゃ)

 略奪(りゃくだつ)や奴隷狩りを目的としない本物の虐殺(ぎゃくさつ)


 村は既に人間の手から離れ、魔物が我が物顔で闊歩(かっぽ)していた。

 建物に顔を突っ込んで何かを(むさぼ)っている者や、屋根の上に登って周囲を警戒する者。ただ道を歩いているだけの者。

 おそらく炎を出す魔物もどこかにいるはずだ。

 

 そして、そこかしこに横たわる人の死体。


 今、目に入るだけでも5人……。

 確かめなくても死んでいるとわかる。

 首がないのだ。

 

 魔物は人間を襲うと、真っ先に頭を引きちぎって頭蓋をかじりとり、その中の脳髄を(すす)る。


 いつ見ても最悪の光景だ……。

 マサトだった頃から幾度(いくど)も見てきてけど、慣れることはない。

 ましてや今回は自分の生まれた村だ、心の中で焦りがどんどん膨らんでいく。


 今こうしている間にも村人が……。

 幻覚の中で見た半分に(えぐ)られたママの顔が脳裏(のうり)をかすめた。


「ママ。これから村に入るから、もし魔物とか生存者を見かけたら、すぐわたしに知らせて」


 ママが単独で戦わないように釘を刺しておく。


「私も手伝うわ。魔物との距離さえあれば魔法で攻撃できるから」


「ううん。ママは周りを見ることに専念して。何をやるにしても儀式と呪文が必要ないわたしがやった方がたぶん早いから。だから気が付いたことがあったらすぐに教えて」


「ええ……わかったわ」


 ママが心配そうな顔でわたしを見た。


 わたしにとってママは最優先で守りたい人物なのだ。戦いには出したくない。

 たぶんママもわたしに対して同じことを考えてるだろうけど。実力の問題だから辛抱(しんぼう)してもらうしかない。

 本来ならママを安全な場所に置いてきたかった。でもそんな場所は思い付かないし、たぶん無い。

 現時点ではわたしの目の届く範囲が一番安全な場所のはずだ。


 村の状況は考えていたより(ひど)い。

 パパとエレナちゃんも心配だ。

 戦力の(とぼ)しい二人は、あらかじめ決めてあったという、避難場所までたどり着けるだろうか……。

 いっそ村へ入るのを諦めて、魔物のいない方角へ逃げてくれていればいいんだけど。


 不安でしょうがない……でも心配してるだけじゃ何も解決しないのは確かだ。

 今わたしに出来ることをするしかない!

 まずは今視界に入っている魔物を殺そう。


「1、2、3……」そう口に出して魔物を数えると、わたしはゆらりと一歩を踏み出した


 開戦だ。


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