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24話 そんなのは後回し

「待って、レア!」


 急いで走り出したわたしは、ママの一言で急停止した。

 しまった、急ぎすぎた。

 魔物の攻撃を避けた時どこかケガしてたのかも。

 そう思ってママの方を振り向いた。


「ごめんママ、どっか痛かった?」


「ううん、大丈夫。そうじゃなくて、パパとエレナちゃんもレアを探しに森に入ってて、レアを見つけたら合図するように決めてあるの」


「エレナちゃんも!?」


 さっき知ったばかりだけどパパは王族の護衛をしてたらしいから、万が一襲われても多少は戦えるだろうし、危なくなったら逃げるくらいはできるかもしれない。

 でもエレナちゃんが魔物に襲われてたら大変だ!


 わたしが手をバタバタさせてあわてていると、ママは呆れたように口を開いた。


「レア、あなたが何を想像したか手に取るようにわかるけど、エレナちゃんを一人で森に行かせるわけないでしょ? パパも一緒よ」


「そっかぁー」と、ほっと息をついたところで、わたしはレア捜索隊の人員配分に違和感があることに気付いた。


 じゃあママは……?


 パパと違って魔物と戦えないママはなんで一人で?

 パパはどうしてママを一人で行かせるように振り分けたんだろう?

 パパが一人で、ママとエレナちゃんをチームにした方がバランスがいいし、魔物に遭遇した場合のそれぞれの生存率も高いはずだ。


 ママを捨て駒にするみたいな配分に疑問を覚え、首をかしげて考えていると、わたしを呼ぶママの声に気付いた。


「レア! パパに合図をするから少し離れてて!」


「えっ? うん」と戸惑うわたしを気にする様子もなく、ママは呪文を唱え始めた。


 大人しくママの唱える呪文に耳を傾けていると、耳慣れない言葉の並びに少し違和感を覚えた。


 あれ? なんだこの呪文?


 前世で一緒に旅をしたニアは、かなり若いにもかかわらず熟練の魔法使いだった。まぁハーフエルフだったので、自己申告の19歳が本当かどうかはわからないけど……。

 あれから8年経つから、もう27歳になっているってことかぁ。次に会ったときに設定がぶれてなければいいけどね。


 そのニアと旅をする中で、わたしは彼女の使うたくさんの魔法を見てきた。だから呪文を聞けば何の魔法かは大体わかる。

 戦いの最中に誰が何をしようとしているのか把握しようとしていたら、いつのまにか自然にわかるようになったのだ。


 自分で唱えられるわけじゃないけど……必要もないし。

 スマホの変換機能のおかげで漢字は使えるけど、自分で書くことはできないのと同じような感じかな?


 と、まぁ呪文の識別(しきべつ)には一家言(いっかげん)ある風味のわたしが、今ママが唱えている呪文は聞いたことがない。

 それぞれの単語には聞き覚えはあったのに、馴染みのない順番で組み合わさっていた。


 わたしが死んでからの8年間にできた技術なのかな?


 呪文の方に気を取られていたわたしが、ふとママの手元に目をやると、さすがのわたしもちょっとビックリした。

 ママは左右の手で空中に別々の紋を描き、それぞれ別の精霊の儀式をやっていたのだ。


 これたぶん新技術とかじゃない!


 ママがすごいんだ!


 じゃあさっきから唱えてる聞き馴染みのない呪文も、それぞれの精霊に伝える為に、別々の呪文をまぜてあるってこと!?


 儀式と呪文を同時に終えたママは、こちらを向いてニコッと微笑み「じゃあ出すわね」と一言告げた。

 その瞬間、光の玉が風を(まと)って打ち上がり、高空でバシュンと弾けた。


 信号弾……。


 確かにあの高さは光の精霊単独では上げられない。

 風の魔法で推進力を出さないと。


 わたしが勝手に合成魔法と呼んでいる技術……使えるのは精霊とリンクしているわたしだけかと思ってた……。


 たぶんこの魔法は普通の人だったら二人がかりで、しかも息がピッタリ合わないとできない。


 だから捜索隊はママが一人なんだ。


 たぶん戦う力もママは……。


 光の玉が飛んで行った方角を向いて玉が弾けるのを確認したママは、こちらに向き直し、驚いた表情のわたしを見て楽しそうに話し始めた。


「ママね、運動とか他のことはからっきしだけど魔法だけは上手なのよ」


 明らかに上手の範疇(はんちゅう)を越えている魔法を披露(ひろう)し、ニコニコと笑っているママは、思いだしたように言葉を続ける。


「あ、でもあんまり近距離から襲われたら魔法を出す時間がなくて、抵抗できずにやられちゃうから、よろしくね、レア」


「わ、わかった……」


 今わたしの頭の上には、たぶん黒いモヤモヤが浮いているに違いない。


 ママに事情を聞こうか迷っているわたしに再び告げられた「そんなのは後回し」の一言で、わたしたちは村への道を急ぐことにした。

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