22話(表) わたしのママ
村へ近づいて行くにつれて聞こえる音が大きくなっていく。
やっぱり村で何か起こっているみたいだ。
村へ急ぐために加速魔法を使いたいけど、森の木々が邪魔で不可能だった。
いっそ村までの木を魔法で薙ぎ払い一本道を作ろうかとも思ったけど、村で何かが起きているなら村から逃げてくる人もいるはずだ。
木々だけじゃなく避難してくる人まで消し炭にしてしまったら、それこそ正真正銘の討伐対象になる。
わたしは焦る心を抑えて、子供の歩幅にやきもきしながら必死に走った。村から離れる時と違い、嗚咽に乱されない分、息が続いた。これなら行きの半分の時間で村に着く。数分程走ると、木々の間から見える村の異常な明るさがハッキリわかった。聞こえてくる轟音に人の悲鳴が混ざっている。
たぶん魔物だ……あいつ1匹じゃなかったんだ……。
耳をすませて音を聞いていると、悲鳴や轟音の中に違う音が混ざっているのに気付いた。
森の中で聞こえる……女性の声……。
少しかすれているけど、聞きなれた……心が温まる声……。
だけどその声は、わたしの心にずぶりと入っていく針のような声でもあった。
会いたいのに会ってはいけない人……。
心の内に燻っていた悲しみが再び激しく燃え盛る。
……あれはママの声だ……。
「レア! ママよ! どこにいるの!? お願い出てきて!」
ママがわたしを探しに来たんだ!
でもどうして?
村に何が起きているのかはわからないけど、とてもわたしの討伐に人を割ける状態じゃないはずなのに。
木陰に隠れながら声のする方に近づいていくと、ママの姿を見つけた。
ママの周囲に人はいない。ママは一人だった。
「レア! 近くにいたら出てきて! お願い!」
強く握った手に汗がじわっと染み出すのを感じる。
わたしはママの真意をはかりかねていた。
そのままじっと座り、ママの言葉に耳を傾けた。
「レア! 出てきて! ママが間違ってた! あなたの話を無視して、一方的に決めつけて! お願い! 聞こえてたら出てきて!」
何度も同じ言葉を繰り返してるんだ……。
ママの声は枯れて、目の回りは赤く腫れていた。
濡れた瞼を擦りながらママは言葉を続ける。
「レア! ごめんなさい! あなたが悩んでいるのに気付けなかった! 私が……一番に気付かないといけなかったのに……。帰って……来て……私の……レア……」
消え入るような最後の一声……。
わたしがそう思いたかっただけかもしれないけど、その声にはママの本心があらわれている気がした。
ママが探しに来てくれた……。
"本物のレア"でも、その仇でもなく……。
わたしを……。
わたしは唇を噛み締め、覚悟を決めると立ち上がった。
ママと話そう……。
失うものはもう無い……。
そう思い一歩踏み出した時、ママの後ろの茂みがガサガサと音を立てた。
「レア? そこにいるの?」
ママがわたしに背を向けるように振り返った。
違う!
それはわたしじゃない!