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19話 運命を越えて

 周囲を確認し、わたしは現状を把握した。

 先程まで頭の中を覆っていた霧は消え去っており、思考がハッキリしている。

 おそらく今まで見ていた光景は幻覚だ。謎の声の主がわたしに見せたものと考えて間違いないだろう。

 声の主が何者か、どういう意図があったかはわからないけど、おそらくそういう事だ。

 わたしが見たものが本当に起こるのか、精霊の悪質ないたずらなのかはわからない。


 だけどもうあんなのはごめんだ。


 最高に最悪な気分だけど、あれを防げるかもしれないと思うと、不思議と喜びの感情が湧いてきた。


 いたずらならそれでもいい!


 あれが起きないなら!


 あれを防げるなら!


 何者の仕業かはわからないけど、



 いいだろう! 手のひらで踊ってやる!



 そう決めると、わたしは立ち上がり走り出した。


「レア! どうしたの!?」


「ごめん! エレナちゃん! 明日説明する!」


 走って一緒についてきたエレナちゃんが、会話を続ける。


「それはいいけど、急に何があったの? 勇者関係の理由?」


「そう! わかんないけどたぶん勇者関係!」


「わかった! 行ってきな! がんばれ! 勇者レア!」


 そう言われると、なんだか勇気が湧いてきた気がした。

 エレナちゃんありがとう!


「うん! 行ってくる! エレナちゃん、速度上げるね!」 


 エレナちゃんにそう告げると、わたしは加速の魔法を発動した。


「わかっ――」


 エレナちゃんをぐんぐん引き離し、土埃(つちぼこり)を上げながら家への道を駆ける。

 気になって後ろをちらっと確認すると、エレナちゃんが大きく手を振っているのが見えた。


 前へ向きなおすと目の前に木が迫っていて、危うくぶつかりそうになった。ぎりぎりで(かわ)したけど今のは危なかった……。

 けっこう威力を調節してかけた加速魔法だったけど、かなりピーキーなバランスで調整が難しい。

 全力で加速魔法をかけたら瞬時に交通事故で死ぬかも……。

 危険でも今は頼らざるをえない。


 住宅地を抜けて、家までの一本道に出た時、わたしは魔力を調節しさらに加速した。先程と違い考え事をする暇などない。

 家まであと5秒というところで、聞き覚えのある「ガシャン!」という音が聞こえた。


 さっきの幻覚が現実を()していることがハッキリした。



「ママァァァーーー!」



 加速したまま開きっぱなしの玄関に飛び込んだ。

 テーブルに突っ込み、上に乗っている物共々飛び散らせてしまったけど、そんなのどうでもいい!


 起き上がり顔を上げると、手に火球を作り尖兵と対峙しているママがいた。

 魔物の鋭い爪で肩を切られて、服が血で(にじ)んでいた。


「レア! 来ちゃダメ! 逃げて!」


 魔物がより小さくて狩りやすい獲物に標的を変え、わたしに襲いかかってきた。


「やめてぇーーー!」

 ママが叫んだ。



    大丈夫だよ。ママ。


 魔物はわたしを貫こうと、まっすぐ鋭い爪で突いてきた。


    こんなのすぐに


 加速魔法を発動したまま重心を低くし、魔物の爪をくぐって(かわ)すと、そのまま後ろに回り込んだ。


    終わらせる!


 風の魔法で手の先に刃を作り、魔物の体を股の間から真上に切り裂いた。


 ビシャっと天井に血が飛び散り、頬にポトリと垂れた。


 ドサッと魔物が崩れ落ちたのを確認し、真上に挙げた手を下ろして風の刃を解くと、手に(まと)っていた風の力がふわっと霧散(むさん)した。


 すぐママの方に駆け寄り、切り裂かれて血が出ている場所に手を当てた。


「ママ! 今治すから!」


 治癒の魔法を発動すると、手のまわりが(あわ)く光り、みるみるうちに傷口がふさがっていく。大きく裂けて血で染まった服以外はすぐに元通りになった。


 良かった……これで……。


 全てを終えて安堵(あんど)し、ママの方を見る。


 ママは先程魔物と対峙していた際手に浮かべていた火球を、何故か出したままにしていた。

 目つきは鋭く、わたしを(いぶか)しむように見て、


 そして……


「あなた……誰?」


 ママはわたしにそう言った。

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