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18話 分かれ道

グロいです!

覚悟して読んでください。

 なんか頭がボーッとする…。


 さっきの変な声を聞いてから、頭の中が霧に覆われたみたいだ。

 思考が定まらない……。


「レア、大丈夫? やっぱりどっか悪いんじゃない? 治療師の先生に診てもらいなよ? あたしも一緒に行ってあげるから」


「ううん。大丈夫。ちょっと休めば良くなるよ。少し早いけど帰って寝るね」


「うん。それがいい。ちょっとでも悪化したらすぐにおばさんに言って、先生の所に連れていってもらいなよ?」


「うん。そうする」


「仲直り作戦、明日やるって言ったけど、あたしの方はいつでも大丈夫だから、もし辛かったら明日は中止にしよ?」


 本当に11才とは思えない気遣いっぷりだなぁ。

 当面の目標はエレナちゃんみたいな女性に決めた。


「うん。もしそうなったらごめんね」

「いいよ。気にしないで。じゃあ気をつけて帰りな」

「うん。じゃあね」

「じゃあね」


 いつものように挨拶を交わし、それぞれの家へ続く方向へと別れた。


 今日はいろいろあったせいか、いつもより別れが名残惜しい気がした。


 わたしの家は住宅が集まった場所から離れており、村の中でも端っこの方だ。


 住宅地から出ると、畑や放牧地の囲いなどが増え、人の数もぐっと減っていく。


 寂しげな雰囲気の道が続き、その間をしばらく抜けていくと、わたしの家が見えてきた。


 あと少しで我が家だ。


 あと少しとは言っても実はまだ5分くらいかかる。


 大人の認識と子供の歩幅のせいで、距離と時間の感覚がずれてるのに最近気づいた。


 なんだか頭が重い……。


 早く帰って寝たいな……。


 一人で歩く帰り道は、いつも考え事が多くなる。


 今日も明日からのことを考えていた。


 テテスちゃんと仲直りしたら、そのまま一緒に遊びに行こう。お菓子も食べに行こう。

 エレナちゃんの家に遊びに行くときは、今度からはテテスちゃんも連れて行こう。

 そうしないとエレナちゃんに何されるかわからないし……。

 テテスちゃんにも正体を明かすわけだから、もう遠慮はいらない。


 きっと明日からは楽しくなるぞ!


 そんなことを考えながら歩いていると、どこかで


「ガシャン!」


 という音がした。


 何の音だろ?


 近くに建物はない。


 わたしの家から?


 ママが何か落としたかな?


 わたしは少し足を早めた。


 モヤモヤとした不安が徐々に心を支配していく。


 家まで20メートル程まで近づいたところで

「バガン!」という音と共に、家の中から木片が飛び散った。


 おかしい!

 何かあったんだ!


 わたしは8才の小さな足を必死に動かし、家へと駆け込んだ。


「ママ!」




 家の中は……。


 赤く染まっていた……。




「マ……マ……?」


 台所の床には血が広がっており、散乱した作りかけの夕食と、ドロッとした血で赤黒くなった石のようなものがゴロゴロと落ちている。


 その一つには、赤茶色の……


 髪が……。



 ドクンッ!


 心臓に冷たい鉄を刺し込まれたような感覚が走った。


 ドクンッ!ドクンッ!

 ドクンッ!ドクンッ!

 ドクンッ!ドクンッ!


 心臓が痛い!


 はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ


 息が整わない!


 わたしは立っていることができなかった。

 

 心臓が破裂しそう!



「ピチャ……」



 奥の部屋で何か音がした。


 ヨロヨロとテーブルに手をつきながら奥の部屋へと歩いた。



 いやだ……。


 見たくない……。


 知りたくない……。



 奥の部屋には紫色の体をした一匹の魔物がいた。


 尖兵(せんぺい)と呼ばれる下級の魔物だった。


 人間と同程度の身長だが、大きな手には鋭く長い爪がついており、大きな口には鋭い牙がびっしりと生えている。


 魔物は大きな手に持っていた何かをガブリとかじり、バリボリと咀嚼(そしゃく)していた。


 魔物の指の間から見える何かは血で赤黒く染まり、何を(つか)んでいるのかよく分からない。


 口に入れているものを飲み込んだ魔物は、指をペロリと舐め、その大きな舌は一緒に手に持っていた何かも同時に拭った。


 魔物の指の間には……


 半分になった……


 ママの……


 顔が……



「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」


 瞬間的に駆け出し、風の魔法で作った刃で魔物を切りつけた。


 パァンという音と共に魔物が弾け、バシャアと辺りに魔物の血が飛び散った。


 ゴロンと床に落ちたママの頭からは、血と脳漿(のうしょう)がドロッと垂れた。


「ママァァァァァァァァァァ!」


 波打つほどの血液の海の中に、ママの破片や臓物がごろごろと浮いている。

 わたしは床に散らばったママだったものを必死にかき集めた。


 意味が無いことはわかっていた。


「ママ、ママ、ママ、ママ、ママ、ママ、ママ!」


 魔物の血、床の汚れ、作りかけの夕食が混ざってしまった「それ」は、灰色に薄汚れていた。


 まるで……




 わたしはただ呆然としていた。

 涙は出なかった。


 "それ"の前に座り込み、ただ見つめる。


 "それ"に混ざった芋の欠片に気付いた。


 今日の晩御飯お芋だったんだ……。



 ママの笑顔が頭をよぎった


 ママの笑い声


 ママとパパとわたしの3人で囲む食卓


 3人で手をつないで歩く道


 真ん中がわたし


 頭を撫でてくれた優しい手


 抱き締めてくれた時の温もり……。


 


 変わってしまった。


 それは……


 まるで……


 (なま)ゴ――――ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!



 あたりが真っ白になっていき、何も聞こえなくなった。

 静まり返った世界。

 このまま何も考えず、ずっとこのままでいたいと思った。


「…………ァ……」


 何か聞こえる……。


「…………ア……」


 もうどうでもいい……。


「………レア……」


 ほっといて……。


「レア!!!」


 肩をガシッと掴まれて、わたしは我に返った。


「レア! ねえレア! 大丈夫? 返事してよ!」


 エレナちゃんがいた。


「エ……エレナ……ちゃん?」


「気がついた!」


「……なんで……ここに?」

 全く状況がわからず、わたしは尋ねた。


「なんで?ってあんたが呼び出したんじゃない。学校の裏庭へ」


「裏……庭?」


「明日の作戦会議、一緒にしたでしょ?」


 ここは……。

 あたりを見回すと学校の裏庭だった。

 魔法で砕いた大岩に生徒が集まり始めている。


「レア、大丈夫? やっぱりどっか悪いんじゃない? 治療師の先生に診てもらいなよ? あたしも一緒に行ってあげるから」


 呆然とするわたしに、エレナちゃんがついさっき学校で言ったのと同じ言葉を発した。


 これは……。


 時間が……もどってる……。


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