12話 親友
石造りの、少し冷たさを感じる教室で、わたしは窓側の自分の席に座っていた。
現代日本と同じく、授業時間以外は子供たちの甲高い話し声や笑い声でガヤガヤしている。
わたしは元々そんなに騒ぐタイプではなかったし、今や大人の雰囲気をまとった新生レアなのだ。
声は甲高いけど、子供のようにガヤガヤとはしゃいだりはしない。
3日前の給食の時は先生に「口の周りを拭いて、静かに席に座りなさい!」と叱られたが、あれは献立のせいなのでノーカンだ。
同級生の子たちも、わたしが大人っぽい雰囲気を纏っているからか、話しかけづらそうにしている。
ここは村の学校。
役場を除くと村で唯一の石造りの建物だ。3階建てで結構頑丈そうに見える。
記憶が甦ったあの日から、わたしは毎日きちんと学校に通っており、学校での生活にも慣れ始めてきていた。
魔法実技前の女子だけの着替えも、ここ数日でかなり慣れた。
クラスメイトの着替えを見るのに若干の罪悪感があるので、少し閉じぎみの薄目ではあるが……。
以前のように胸を張って「わたし女の子だもん!」とは、まだちょっと言えない。
そんなセリフを言う機会はまだ人生で一度もないけど。
結局わたしはパパから貰ったアドバイスを活かすことができず、考えがまとまらないまま、髪をくしゃくしゃにかきむしっていた。
前回パパが帰ってきた日から既に7日が経っており、3日後の夜またパパが町から帰ってくる。
このままじゃいけない。
そう考えるだけで一向に答えを見いだせず、わたしは焦っていた。
今日も考え事で上の空。
そんな時、誰かがおずおずと声をかけてきた。
「ねぇ、レアちゃん……」
不意を突かれて思わず
「んがっ」と無様な返事をしてしまった……。
声のした方に顔を向けると、目の前には同じクラスのテテスちゃんが立っていた。
もじもじと長い黒髪をいじりながら話しづらそうにしていたが、覚悟を決めたように口を開いた。
「ねぇ、レアちゃん。最近なんだか怒ってる?」
へっ?
と思って目を見開くと、テテスちゃんが話を続けた。
「あのね、最近レアちゃんいっつも机で恐そうな顔してて……私、何かしちゃったかなって……」
ああ、しまった……。
言われて初めて、わたしは自分のここ数日の態度を省みた。
休み時間に友達との会話に混ざらず、ただ机に座って、眉間にしわを寄せて、頭を掻き毟っている。
大人っぽい雰囲気だからじゃなかった……。
怒ってるように見えて話しかけづらかったんだ……。
実際わたしはイラついていた。
いくら考えても答えにたどり着けない現状。
パパの警告した通り、同じ考えがグルグル回るだけになっていた。
だけど、自分も同い年とはいえ8歳の女の子を不安にさせて、わたしは何をやってるんだ……。
「ごめんテテスちゃん、怒ってるわけじゃないの。ちょっと考え事してるだけで。不安にさせちゃってごめんね」
「ホント!? よかった……。私、レアちゃんに嫌われちゃったかと思って……」
そう言ったテテスちゃんの目は少し潤んで赤くなっていた。
ホントにごめんね……テテスちゃん。
「親友を嫌ったりなんかしないよ、ケンカもしてないのに」
「うん!」
テテスちゃんはホントにかわいいな。
テテスちゃんは安心したように笑って、わたしの手を引っぱった。
「レアちゃん、次は魔法実技の試験だよ! 早く着替えて一緒に行こ!」
着替えか……。
わたしが苦そうな顔をしたのをテテスちゃんは見逃さなかった。
「いや……かな……?」
そう言って少し悲しそうな表情を浮かべるテテスちゃんに抗う術は無かった。
「ううん。全然!?」
「じゃあ行こ!」と嬉しそうに駆け出すテテスちゃんの笑顔とは裏腹に、緊張を隠しきれない笑顔でわたしも更衣室へ歩き出した。
たぶん薄目も突っ込まれるな……。
この日、脳裏にハッキリと焼き付いた少女たちの滑らかな素肌を、羞恥心を伴わず想起できた時、わたしは胸を張って「わたし女の子だもん!」と言えるのかもしれない……。
試験の前からわたしは体力を消耗した。
そしてこの日、わたしはやらかしてしまったのだ。