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0話 日常が失われた日
全部思い出した……。
俺は死んだんだ。
敵わなかったんだ。
思い出した……。
それと同時に、焦り、不安、怒り、悔しさ、悲しみ、あらゆる感情が頭の中で渦を巻き、俺は立っていることができず、その場に座り込んでしまった。
「どうしたの? 突然こんなところに座って?」
上の方で聞こえた声に反応し、俺は顔を上げた。
「泣いてるの? ひどい顔。ほら、こっちを向いて」
そういって手提げから取り出した布でごしごし顔を拭いてくる。
「どうして泣いてるの?」
優しい声で問いかけられ、
つい「思いだし」と言いかけたが、思いとどまった。
この人には黙っていよう。
直感的にそう思った。
すべてを知れば、この人はきっと悲しむから。
「ん? どうしたの? 痛いの?」
優しく頬を撫でる手の感触に心地よさを感じ、その優しさを裏切っている罪悪感にギュっと胸を締め付けられたが、俺は言葉をふりしぼった。
「ううん。平気だよ。なんでもないの。ママ!」
「そうね。レアは強い子だもんね!」
そう言葉を交わし、ママとわたしは歩きだした。
そう……わたしはかつて俺だったんだ。