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「・・・はっ!!今一番見たくないやつに会っちまったぜ。」
俺はまだ少しふらつく体を頑張って倒れないように制御しながら、自分を見下す紫の髪の少女に不敵に笑って見せた。まあ、見栄を張ってるだけなのは見え見えのようで案の定フン、と鼻で笑い飛ばされた。
「あんな、腑抜けた操縦をしておきながらよくもそんな口が利けたものですわね。しかもその様、目も当てられないですわ。特急犯罪者の腑抜けなんて、どれだけ役立たずなのかしらと笑いに来たつもりでしたのでしたけれど、気がそがれましたわ。ではご機嫌よう。」
アシュリーはくるりとその場で回転して、歩き出そうとしたが俺はその手をつかんだ。ピタッとアシュリーの動きが止まり、首だけをこちらに向けて俺に向かって、にっこりと笑う。背筋が凍りつくような笑みだった。その瞬間に俺は思い出す。彼女の異名を。『死神。区長などの特記戦力だけが持つ戦い方や機体から名付けられる二つ名。アシュリーが細められた目をすっと開く。先ほどまでとは違う冷酷な光が宿っているのを一番近くにいる俺が見逃すはずもなかった。
「どうしたのですか?何か言いたいことがあるなあらば聞いてあげましょう。まあ、その前にこの手を放してくれると嬉しいのだけれど。」
俺はばっと手を放す。その瞬間に心臓をつかまれるような悪寒から解放されたことに気が付く。
「あ、あの凪とかいう女どうにかしてくれよ!!あいつのせいで訳も分からず、特急犯罪者になんかされて何の訓練もしたことないのいきなり戦場に狩り出されたんだ!俺は何にも悪いことなんかしてない!!」
今まで感じたことのない圧力に俺は押し負けてプライドで言わんとしてきた本心をすべてまき散らしてしまった。俺の言葉が終わる当時に先ほどまで場を支配していた謎の圧力が嘘であったかのように掻き消える。
「わしからも頼みたいものだな、アシュリー区長。こいつは大災害の生き残りで先の戦闘を見る限り、トラウマからまだ解放されていないみたいだ。過保護だと言われればそれまでかもしれんがこれ以上追い込めば・・・あとはわかるな?」
爺さんが何を言いたいのかは分かった。俺が自殺するとでも思っているのだろうか。ただしないと言い切れるのは冷静になった自分だからださっきのような状態なら何をしでかしてもおかしくない。アシュリーは大災害というワードにピクリと反応すると、来た時のような険しい顔をしなくなった。
「そうですね。艦長とは気が合わないのは確かですし、拓真さんにも悪いことをしてしまったようですね。申し訳ありません。ではさっそく艦長室に行ってまいりますので、今度こそ本当にご機嫌よう。」
アシュリーは紫の髪をたなびかせて歩いて行った。俺はなぜだか、なぜだか自分でもわからないがアシュリーから与えられた同情に無性に腹がたった。