つみきのまち
「吹雪警報、吹雪警報!」
綿々と雪が降り注ぐ中、馴鹿どもに引かせた橇に乗って町を駆け巡りながら、お役人さんがそう叫びました。
町の人々はというと、道を歩いていた者は立ち止まり、家の中にいた者は窓から顔を出しました。皆、あゝまた吹雪が訪れるのかと云いたげな、心底うんざりしたような諦めきったような表情をしてお役人さんを見ました。
お役人さんはそこら一帯に響き渡るような大声で叫んでおりました。
「吹雪警報、吹雪警報。これから数日の後より、凡そ一週間、吹雪が此方に訪れます。皆さん、新しい上の家に引っ越して、暫くの間は外出を控えるようお願い致します。繰り返します。吹雪警報、吹雪警報−−……」
「まあ、そういうこった。旅人のアンタ達も暫くはこの村に滞在しなあかんぞ」
「そのようですね。宿屋を探さないといけませんね」
今の時間帯はあまり客の入っていない喫茶店の中。注文されたホットチョコレートのカップを差し出しながら、店主は、目の前のカウンター席に腰掛ける二人組の旅人に話しかけました。
一人は痩せっぽちの少年。年の頃は十四、五歳でしょうか。室内だというのに、灰色のフードを目深に被っています。フードから零れる髪は真っ黒で、その髪の下にある眼も黒曜石のような艶やかな黒でした。
もう一人は小柄な少女。これが鄙には稀な、お姫様のような綺麗な姿をしていました。若葉色の長い髪、薄桃色の瞳。一見少年と同じ年頃に思われましたが、彼より少し幼いようにも、はたまた恐ろしく年上のようにも見えました。今は甘いチョコレートを飲んで、うっとりとして幸せそうな笑みを浮かべています。
「おお、厭だ厭だ。今の家を積み上げてからまだふた月と経っちゃいないのに、どうしてこうも早く雪が降り積もるんだ」
未だ外から聞こえてくる吹雪警報に、店主はあたかも寒がるように大袈裟に身を揺すって云いました。
「最近は、この町の近くで“異端児”が目撃されたとも聞くし……ここ数年で雪の量が増えてきているのも、きっと異端児どものせいに違いねえ!」
その言葉を聞いて、カップを口元に持っていこうとした少年の手が止まりました。少年が、カップをカウンターの上に置いて、ゆっくりと顔を上げました。
「ん?どうした、坊ちゃん」
「……おじさんは、どうして、異端児のせいだって思うんですか」
「え?そりゃ奴等は『悪魔がばら撒いた鏡の破片から造られた存在』と聞くからな、人から生まれたにも関わらず体に獣の部位を持つなんて悪魔の仕業とみて間違いないだろう。中には人間離れした〈異能〉を持つ個体までいるらしいし」
「……ああ、そうか、そうですよね」
「さっさと奴隷商人にでも狩られちまえば良いんだ、あんな得体の知れない恐ろしい連中は。まあ、俺達にとっちゃ関わりがないのが一番だけどな」
「−−お金、此処に置きますね」
まだカップの中には半分以上飲み物が残っているにも関わらず、唐突に、少年が席を立ちました。少女も慌ててチョコレートを飲み干すと、同じように立ち上がって少年に寄り添いました。
「ご馳走様でした。さよなら」
「お、おう。さよなら」
慌ただしく喫茶店を出て行く二人を、ともすれば酷く怯えているように見えた少年の姿を、店主は怪訝に思いました。しかし、ドアに手を掛けた少年の後ろ姿に優しく声をかけました。
「二人も吹雪と異端児には気を付けるんだぞ。そして、それはそうと、良い旅を!」
その言葉に少年が振り向いて、ぎこちなく微笑みました。それからこの奇妙な旅人達は、外の、何処までも白く凍てついた世界へと飛び出して行ってしまいました。
☆
家々が建ち並ぶ町の通り。その中を、喫茶店から出た少年と少女……カガミとハルは、衾雪を踏みしめながら、あてもなく歩いておりました。
「カガミ。カガミ。さっきのことですけど、その、」
「……大丈夫だよ、ハル。ああいった偏見を持つ人は決して少なくないし、もう慣れたよ」
「カガミ……」
そう云いつつも、カガミは頭に被っているフードの端をきつく握りしめました。それから気を紛らわそうと、隣を歩くハルに新しい話題を振りました。
「ところで、ハルはもうこの常冬の国には慣れたかい?」
「そうですね……やはり未だに、建物の様子には驚かされますね!私が長い間過ごした常春の国とはまるで違っていますから……」
「だろうねえ」
それもその筈です。この国の建造物は皆、とても不思議な造りをしていました。
なんてたって、住んでいる家の上に、もう一軒家が建てられているのです!
それは、この国ではいつまで経っても冬が終わらず、雪が延々と降り続けているからでした。
大雪や吹雪によって住んでいた家が雪の中に埋もれてしまうと、その家の上に新しい家を造ります。
もう何十年もの間そうやって、積み木のように、上へ上へと積み重ねているのです。
(それにしても、困ったな。あの店主さんの発言から考えて、この町は他の場所と比べても異端児に対する印象が悪いみたいだ。何処かの宿屋に泊まったとして、もし、僕の正体がバレてしまったら……)
それでも、泊まる場所は確保しなくてはなりません。
居場所を失くして彷徨い歩く二人の元にも、この町にも。刻一刻と、恐ろしい吹雪は迫り来ているのでした……。
☆
町の外れの小さな家は、この町の他の建造物と違って、新しい“上の家”が建てられておりませんでした。
そんな家の扉をカガミとハルは叩いたのでした。
「こんにちは。中に入れて下さいな」
果たして、内から嗄れた声で返事がありました。
「鍵は掛かっておらんから勝手にお入り。扉もまだ雪に埋もれてはいないじゃろう」
二人が玄関を上がって行きますと、すぐ入り口の室で、この家の主が白い巾を被って寝んでいました。
百歳を超えているのではないかと思われる、酷く年取った男でした。皺の深く刻まれた顔はくしゃくしゃの紙屑のようです。その顔の垂れた眼ぶたの下にある目は、鉛の玉のように白く濁ってしまっていました。
「僕達は旅人です。申し訳ありませんが、吹雪の間、僕達を此処に泊めて頂けませんか?」
「なんと。宿屋には行ったのかい?」
「それが、空いている室がなかったんです。他に行く所もなくて……。お願いします、お金は払いますから」
「ああ、いいともいいとも。お金も要らん。吹雪の間、この家は好きに使ってくれて構わんぞ」
お爺さんが実にあっさりとカガミとハルの滞在を許したものですから、二人は逆に拍子抜けしてしまいました。しかしすぐに、喜んで何度も何度もお礼を云いました。
こうして、その日から吹雪が去るまでの、十日余りの、三人の共同生活が始まったのでした。
☆
さて、ハルは家事をよくこなしましたし、カガミは盲目の上に殆ど寝たきりであるお爺さんを甲斐甲斐しく世話しました。食事の介助をし、体を拭き、暇さえあれば話し相手になりました。
「カガミといったか、ありがとう。それにしてもお主は介護が上手いのう、慣れているようじゃが……」
そのような感謝の言葉を述べつつ、一方でお爺さんは、自分の様々な体験談や知識をカガミに語って聞かせてくれたのでした。
かつて、この国でも季節が廻っていた頃のお話。季節廻る国の童話。
そして、この大陸全土を巻き込んだ戦争のお話。世界を襲った悲劇。
それは、少年の心を大きく揺さぶるものでした。
「ハル、君の力でお爺さんを助けて欲しいんだ」
二人がこの家で暮らし始めて二日目の夕方。お爺さんの居ない場所で、カガミはハルにそう頼みました。
「もうすぐ吹雪が来るのに“上の家”を建てていないということは、お爺さんはもう自分のことを分かっているんだと思う……。だけど、僕はこの短い時間でも、あの人の話を聞いてその悲しい『過去』を知ってしまったんだ。お爺さんには幸せになって欲しいし、もっと長生きして欲しいんだ」
「……それは無理ですよ、カガミ」
ハルは哀しく首を横に振りました。
「確かに私は、傷も病も癒すことが出来ます。しかし、それでも、寿命ばかりはどうしようもないのです……」
その時、隣の室から声が聞こえてきました。
「カガミ、ハル、一寸こっちにおいで」
カガミとハルがお爺さんの元に行きますと、お爺さんは、赤い光るものをカガミの前に出して、薄い烟のようなハンケチを解きました。それはトチの実ぐらいあるまんまるの玉で、中では赤い火がちらちら燃えているのです。
「これは蛋白石と呼ばれる宝石で、貝の火とも呼ばれるものだ。家宝じゃったが……儂にはもう持っていても必要のないものだから、お主らにやろうと思ってな」
二人は驚愕するやら恐縮するやら、カガミが慌てて云いました。
「お爺さん、僕こんなもの要りませんよ。お爺さんが持っていて下さい。だってお爺さんの大切なものでしょう」
「いいや、そうと云わず受け取っておくれ。お主らには本当に良くして貰ってるからその礼でもあるし、それに……お主らが受け取ってくれないと、近いうちにこの珠は、儂と共に雪に埋もれてしまうじゃろう?」
「……近いうちに雪に埋もれるなんて……何てことを云うんです、気をしっかり持って下さい!」
「いや、もう、自分でも分かっているのじゃよ」
お爺さんの目は、手元の蛋白石に向けられているようでその実何も映してはいないのでした。もう長いこと光を映さないその瞳は何処までも白く凍てついていて、まるで本物の雪のようでした。
そしてお爺さんは、続けてどこか諦観したように呟いたのです。
「この世界ではもう、過去の哀しみも今の喜びも、何もかもが雪に埋もれて消えてしまうのじゃから……」
−−かつて、季節は一年を通して廻るものであり、その中で生命もまた廻り巡るものでした。
春に芽生え、夏にはその瑞々しい生を謳歌し、秋には徐々に衰えていき、冬には眠りにつく。しかし、春にはまた新しい命が芽吹くのです。
そうやって、何年も何百万年も命は巡ってきたのでした。
「……それが、儂ら人類の起こした戦争によって全て壊れてしまった。儂の仲間も沢山死んだし、軍隊に入った儂も生き残る為に大勢を殺した。ただ国に命じられるまま世論に流されるまま、互いに対立し憎み合い、不毛な殺し合いを続けたのじゃ……」
懺悔のように、或いは訴えかけるように、お爺さんはカガミとハルに語りました。
「季節を司る女神達も、このような人類に失望し、この世界に愛想を尽かしてしまわれたのじゃろう。今やこの国では季節は廻らず、故に生命も巡らない。ただ終わらぬ冬の中で……何もかもが凍てついて死んでいく」
忘れてはいけない過去の戦火の哀しみも、今を生きる者どもの喜びも、何もかもが白く冷たい雪に埋もれて消えていく。積み上げてきたものは全て、降り注ぐ雪によって覆われて隠されて、すぐに見えなくなってしまう。
それがこの世界の現状なのだ、とお爺さんは云うのです。
「儂もまた、これ程までに長く生きてきて、一体何が残せたというのか……もしかしたらこれもまた、戦時中に人を殺した罰なのかも知れぬのう……」
最後にそう呟いて、お爺さんは眠りにつきました。
暫くの間、カガミもハルも口を開かず、二人は氷のように沈黙していました。カガミは、お爺さんの紙屑みたいな顔や枯れ枝のような手をじっと見つめておりました。
☆
風はだんだん強くなり、足元の雪は、さらさらさらさら後ろに流れます。いよいよ吹雪が近付いてきたのです。
そんな中、カガミは扉を開けて家の外に出ました。
カガミは、お爺さんから半ば押し付けるように渡された蛋白石の宝珠を、懐から取り出して見つめました。
玉は紅や黄金の焔を上げて、せわしなくせわしなく燃えているように見えますが、実はやはり冷たく美しく澄んでいるのです。戦火と生命の色だ、とカガミは思いました。ところが目に当てて空に透かして見ると、もう焔はなく、白く濁った空が見えるばかりです。
カガミは家からちょうど十歩分歩きました。そして……
カガミはその場所を浅く掘ると、玉を置いて、その上に再び雪をかけて埋めてしまいました。
☆
空はすっかり白くなり、風はまるで切り裂くよう、いよいよ吹雪がやって来ました。そこらはまるで雪でいっぱいです。雪だか雲だかも分からないのです。
一方で、カガミ達の生活にも大きな変化が生じました。吹雪が激しさを増すのと反比例するかのように、お爺さんの体がどんどん弱ってきたのです。
浅く少なくなっていく呼吸、弱まっていく心臓の鼓動、長くなる眠り。
カガミもハルも必死の看病を続けましたが、それは、確実に近付いて来る死神の足に辛うじてしがみつくようなものでした……。
ある晩のことでした。
烈しい雪風が雪に埋もれかけた小さな家を揺さぶって、窓も壁もガタガタガタガタ顫えます。ハルはその音を遠くに聞きながら、寝台の近くの椅子に腰掛けて、眠るお爺さんにそっと声をかけました。
「お爺様。私達、人間に失望した訳でも、この世界に愛想を尽かした訳でもないのです」
そう囁いたハルの声音は恐ろしく大人びていて、それでいて、その端正な顔は親を見失った幼子のような言い様のない不安を湛えておりました。
俄かにお爺さんが目を開きました。
ハルはお爺さんを見つめて、続けて云いました。
「だから私はこの国に戻って来たのですし、きっと、【冬の女王様】も私と同じ気持ちの筈です。……なんたって彼女は、私の実のお姉様なんですから」
「……嗚呼……」
お爺さんは見えない目を見開いて、譫言のように云いました。
「初めてお会いした時から、不思議な少女だとは思っておりましたが……まさか本当に、貴女様が−−」
その時でした。ガタン、と一際大きな音が隣の室で立ったのです。
「……カガミ?」
ハルは、その音に何か不吉なものを感じて、あたかも寒がるようにぶるっと身を顫わせました。
扉は雪に埋もれて凍りつき、もうすっかり動かなくなっておりました。なのでカガミは、ガタガタガタガタ音を立てる窓の前に立って、その直後には勢いよく窓を開けました。
すると、どうです。雪混じりの風がどうっと室の中に入って来て、吹雪が少年の頬を強かに殴りました。
カガミは顔色も青ざめ、唇も結ばれ、フードも背中の方に飛んでしまいました。しかし、それでも、歯を食いしばって、這うようにして彼は外に出て行きました。
風と雪の中で、冷気まるで剣のようにカガミを刺しました。カガミは足先から“狐の耳”まですっかり痺れてしまいました。もうどこがが町だか雪煙だか空だかさえも分かりません。それなのにカガミは我武者羅に手足を動かして、目的地まで進みました。
やがて、其処まで辿り着いたカガミが雪の上に手を付けました。獣の耳を覆う毛がぶわっと逆立ち、黒曜石のような大きな眼が、鋭く燃えるように光りました。
次の瞬間、カガミの手のひらから燐のような青い火が噴き出して、下の雪を溶かし始めました。炎は彼の腕を包み込むように膨張し、裂くような吼えるような吹雪の中でさえも蒼く美しく輝いたのです。
カガミは、夜が明けて、遂に吹雪が去っていった頃まで、自らの異能で雪を溶かしては下へ下へと掘り進めたのでした。
☆
「お爺さん、お爺さん」
翌朝のことです。
カガミはお爺さんの枕元に立って、お爺さんに話しかけました。そのすぐそばをハルが寄り添っています。
「僕、お爺さんに、二つ謝らなくちゃならないことがあるんです」
「……ほう、それは何だいカガミ」
衰弱しきったお爺さんはもうぐったりとしていて、それでも、消え入りそうな声で先を促しました。
「僕達がこの吹雪の間お爺さんに泊めて貰えるよう頼んだのは、宿屋が空いてなかったからじゃないんです。町の人からお爺さんが盲目だと聞いて、それなら僕が異端児だとばれることもないだろうって、そんな考えで僕達はこの家を訪れたんです」
「成る程、そうだったのかい……だがそんなこと、儂は全く気にせんよ」
お爺さんが枯れ枝のような腕を伸ばして、カガミの頭を撫でました。冷え切った指先が、あたたかな毛に覆われた狐の耳をなぞりました。
「それで、それからね」
カガミは泣きそうになりながら続けました。
「僕、お爺さんから貰った蛋白石を、一度雪の中に埋めて、何日か経ってからもう一度掘り返したんです。掘り返してたって見つからない可能性が大きかったのに。大切な宝物をそんな風に扱って、本当にごめんなさい」
「なんと。だが一体、どうしてそんなことを?」
「貴方は……この国では、全てが雪に埋もれて消えてしまうと云った。だけど。百年とたった六日を同列に考えるなんて酷く烏滸がましいことだけど、それでも、」
カガミは、しわくちゃなお爺さんの手のひらに玉を乗せて、その上に、凍傷と垢切れだらけになった自分の手を重ねました。
「また、掘り返せるよって。取り戻せるよって、証明したかったんです」
少年の言葉に、老人は目を大きく見開きました。
その目はやはり白く濁っていたけれど、お爺さんは、確かに見ました。それは忘れてはならない戦火の紅の色であり、廻り巡る生命の黄金の輝きでした。そして、燐の火ような星のような青い光だったのです。
それから、しばし沈黙が続きました。しかしそれは、決して氷のような絶望的な空白ではなく、じわりじわりと心に染み入るようなあたたかな静けさでした。
やがて、
ふと、お爺さんが口を開きました。
「……あゝそうか、こんな大切なことを見失っておったのじゃな、儂は」
紙屑のような顔は確かに笑っていて、盲目の瞳からはキラキラ涙を零しておりました。
「何度も見失って間違えて、しかし、それでも、確かに積み重ねてきたものがあったのです。そう、まるでこの、積み木の家のように……」
「……お爺さん!」
「春の女王よ、そして、心優しい獣の子よ。どうか、これからのことは宜しく頼みますぞ……」
「お爺さん⁉︎お爺さん‼︎」
「−−お爺様!」
その瞬間、玉は噴火のように燃え、夕日のように輝いて、目を閉じたお爺さんの顔を照らしました。ほんの一瞬の出来事でした。
そうして、お爺さんは、二度と目を覚まさなかったのです。
☆
完全に雪の中に埋もれてしまった小さな家から、カガミとハルがどうにかこうにか抜け出せた頃には、時刻は既に夜になっていました。
吹雪はもうすっかり止んで、素敵に灼きを入れた鋼鉄製の天の野原に銀河の水は音なく流れました。寒水石のように堅く凍った雪は、お星様に照らされてチカチカ青く光っています。
その雪の上を、北へ北へ、冬の女王様の住む塔を目指して、少年と少女は歩き始めました。
「お爺さん、僕達、貴方がくれたものを決して失くさないよ」
いよいよ町が見えなくなる時、カガミが、最後に振り向いて云いました。
「ハルと……春の女王様と一緒に、冬の女王様を見つけ出してみせるよ。この北の国にも春が訪れるように」
それはぎこちなさなど欠片もない、満面の笑みでした。
「さよなら」
こうして、春の女王様と、異端児と呼ばれた狐の子の旅は続くのでした。
〈おしまい〉
以下、パク……モチーフにした作品一覧
『貝の火』(宮沢賢治)、『水仙月の四日』(宮沢賢治)、『つみきのいえ』(加藤久仁監督による短編アニメーション映画)etc.