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第八十八話 

 竜也が再びサラスナポスの町に到着したのは、ゲーム内の時間で一日半後の事だった。


 一日くらい寝なくでも平気で走り通す事が出来るようになったものの、敵との遭遇を回避する事に精神力を極限まで削られてフラフラになっていた。


 どの敵がアクティブな敵かも分からないので、すべての敵の合間を掻い潜っていたのだ。よく見つからずに此処ここまでたどり着けたと自分でも感心する程だった。


 今度は、どの敵がアクティブな敵なのかくらいは調べておこうと決意する。


 そのような事を考えながら、竜也はサラスナポスの町の入口の手前から、町の様子をうかがっていた。再びレクス・エールーカが出て来ないかと警戒しているのだ。もしも、また戦闘があるのなら、もう少し休憩が欲しい所だった。


 しばらく町の様子を窺っていると、町の中から数人の男女が姿を現した。一つのパーティーと思しき集団は、そのまま何事も無く東のコルネホ山脈の方角へ消えていく。


 竜也は意を決して町の入口に近付いていった。懸念していた戦闘は無く、すんなりと町中に入る事が出来た。


 以前はゴーストタウンと見紛う程に人通りが無かったのだが、現在は露店が並びプレイヤーの人通りもかなりの人数が見受けられた。


 どうやら町が解放された事で、復興が進んでいる様だった。半壊した家々を修繕する為に、土工や左官職人が忙しそうに動き回っている。


 竜也は、その様子を見回しながら町の中央通りを西に進んでいった。


 やがて町外れにある学生寮にたどり着く。学生寮は半壊状態のまま放置されていた。学生がエレーナ一人になってしまったので、修復は後回しになっているのかも知れなかった。


 相変わらず人気のまったく感じ取れない学生寮に入っていく。エレーナの部屋にたどり着くと部屋のドアをノックする。


 返事が無い。留守にしているのかと、しばらく様子をうかがっていると、急に背後に人の気配を感じて振り返った。


 背後には、エレーナが警戒した様子でたたずんでいた。竜也は、まず初めに深々と頭を下げた。


「この前は不埒ふらちな行いをしてしまって、申し訳ありませんでした」


 先日の行為は、ラサエルに指摘されるまでもなく、行き過ぎた行為だと反省していたのだ。


 エレーナは、それでも警戒した様子を解かずに一定距離を保ったまま、竜也の様子を観察するように凝視していた。


「でも、これだけは理解しておいてもらいたいのは、僕は本当に異世界でエレーナとは知り合いだったという事です。この前キミに触れた瞬間に、向こうの世界のエレーナと心が繋がったのです。どうか異世界に居るエレーナと連絡を取る為に、手を握らせて貰えないでしょうか?」

「嫌です!」


 即答が帰って来た。


「私にとって貴方は、初対面で破廉恥な行為を仕出かす無法者です。貴方の言葉は信用が出来ません」


 竜也は、エレーナの強い拒絶の言葉に神妙に項垂れる。それだけの事をやってしまったのだから止むを得ない。まずは信用を取り戻す事から始めなければならない。


「ところで魔界の軍勢がコスタクルタ王国に攻め込んで来たのは、神聖魔法暦二二七三年の何月何日なの?」


 エレーナの様子から一切を取り合ってくれないと踏んだ竜也は、いったん別の話を振る事にした。


「二二七三年、十月二十八日氷曜日です」


 竜也は、その日付を胸の深くに刻み込む。異世界に居るエレーナと通信が出来たのなら、必ず伝えておかなくてはならない重要事項だった。


「魔界の軍勢がコスタクルタ王国を襲ってから、もう三年も経っているんだね。使い魔の召喚は年に一度できる筈だけど、再び使い魔の召喚はしていないの?」

「使い魔の召喚には、特殊な魔法陣が必要となります。セント・エバスティール魔法学院にある魔法陣か、セント・プロペータ大聖堂にある魔法陣でないと召喚の儀を行えないので、この地に足止めされていた私は使い魔召喚が出来なかったのです」

「セント・プロペータ大聖堂って?」


 セント・プロペータ大聖堂を知らない竜也は思わず聞き返す。


「王都コスタクルタにある大聖堂です。この国最大の大聖堂で、ビザンティン様式の最古の建造物としても有名です」


 建築様式に興味の無い竜也は、とりあえず名前だけを頭の片隅に置いておく事にする。


「今はこの町を見張っていた魔物を僕が退治したから、町の外にも出られる筈だよ。セント・エバスティール魔法学院の聖堂に行って、使い魔召喚の儀式を行なえば良いんじゃないかな?」


 たしか召喚の儀は星の並びが関係しているので、あと二週間は待たなくてはいけないが、それで使い魔を再召喚できる筈である。


「魔物を倒して下さった事には感謝いたします。ですが学院にもガーディアンが配置されている筈です」


 エレーナは、どうして良いか分からないという様に、戸惑いの表情を見せている。


 竜也は、そんなエレーナを当惑した思いで見やる。異世界のエレーナなら、自ら剣を持って真っ先に突撃していきそうなものなのだが、ゲーム世界のエレーナは少し性格が違うようだった。


 やはり自分の知っているエレーナじゃないと分かり、竜也は少し寂しそうに微笑んだ。NPCが勝手にガーディアンを倒しに行く筈が無いと、頭では分かっていても割り切れないものがあった。


「じゃあ、そのガーディアンを一緒に倒しに行こうよ」


 思い切って誘ってみる。NPCをパーティーに誘えるのかどうかは不明だったが、エレーナと一緒に行動できる可能性があるのなら形振なりふりなど構っていられなかった。


 エレーナは、大きく眼を見開いて驚きの表情を見せた。


 竜也は、どんな返答が帰って来るのかと緊張した面持ちでエレーナを見つめていた。まるで告白の返答を待つ気分で落ち着かなかった。


「ごめんなさい。貴方と一緒に行動は出来ません」


 エレーナは、申し訳なさそうに頭を下げる。

 竜也は理由を考えてみる。自分が信用のおけない無法者だから? NPCはプレイヤーとはパーティーが組めない仕様なのか? その他に理由があるのか……?


「理由を聞いても良いかな?」


 思い切って聞いてみる。


「私はパーティーを組めない事になっています」


 仕様だと聞いて少し安堵あんどする。しかし、やはり本物との違いに寂しさが込み上げてくる。


「じゃあ、そのガーディアンも僕が倒してみせるよ」


 竜也は、ここは一旦引き下がった方が賢明だと判断して、エレーナに別れの挨拶をして学生寮を後にした。


 再び町の大通りに出る。町を一刀のもとに横截おうせつしている大通りの片隅に立ちすくみ、これからどうすべきかを考える。


 西の方角を見やると、此処ここからでも見える小さな丘の上に、セント・エバスティール魔法学院を臨む事が出来た。そこにはガーディアンが、行く手を阻んでいるという。


 現状の自分のレベル等を考えて、ガーディアンとやらに勝てるのかを考えてみる。あまりにも敵の情報が無さ過ぎて考えようが無かった。


 自分のレベルが圧倒的に足りない事だけは分かっていた。レベルを上げる事と、敵の情報を収集する事のどちらを優先するかをしばし考え、先に敵の情報を収集する事にする。


 まずは現地に行ってセント・エバスティール魔法学院が、どんな状況になっているのか覗いてみようと町の西門へ向って歩き出した。



「おい……。今の初期装備の奴、レベル2だったぞ」

「しかもパーティーを組んでも居ないようだったし、絶好のカモだぜ」


 竜也が西門から出て行く様子を、こっそりと盗み見ている一つの集団があった。互いに目配せをして下劣に嫌らしく笑うと、竜也の後を付けるように町から出て行った。

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