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私の勇者様 ~勇者育成計画~  作者: 荒木 リザ
第三章 ロベリア受難編
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第四十八話 

 竜也は、エレーナが生徒指導室に呼ばれた後も、サーキットトレーニングをずっと続けていた。


 腕立て伏せ十回、腹筋十回、背筋十回、スクワット十回を一セットとして、それを十セット。その後に小休止が挟まれるのだが、もはやその小休止をいったい何回したのかすら分からなくなっていた。


 いったいどれくらいの時間がたったのか、いつ終わるのかも不明であった。

 体力の限界が近い時に、いったいどこまでやれば良いのか分からないというのは、かなりの精神的負担になる。もう倒れても誰も文句は言わないんじゃないかと、何度も思いながら必死にトレーニングを続けていた。


 サバティーが、エレーナとドリーヌを連れて生徒指導室に向かったので、カウントを数える役は、ジェレミーから時計回りに順番がまわっていた。それすら、いったい何回まわって来たのかも分からなくなっていた。

 腕立て伏せは顔を伏せた方が楽なような気がするのだが、真正面にいるジュリアのおっぱいが気になって、ずっと顔は上げたままだった。


 最初は弾む胸を好奇の眼で見ていたのだが、見ている内にだんだん腹が立ってきた。腕を少し曲げると、すぐに地面に胸がつっかえてしまい、その弾力を利用して腕を立てているのだ。


 よく見てみると、周りの全員がそのようにして腕立て伏せをおこなっていた。

 スクワットが終わって腕立て伏せの時に、竜也がカウントを数える役が回って来た。素早く腕立て伏せの姿勢を取る。


「ひぃ~っつい」


 『いち』が悲鳴になってしまった。そのまま突っ伏してしまう。皆もずっこけたように一緒になって突っ伏す。皆は暖かい眼で竜也を見守る。中には熱い眼差しを送っている者もいる。冷たい眼差しを送っている者の方が、少なくなっていた。


 A班に合流しているエレーナは、これからタツヤにちょっかいを掛けそうな要注意人物を素早くチェックしていた。


「ドリーヌさん。回復の魔法をタツヤ殿にお願いします」


 素早くジェレミーが指示を出す。


「パブリナさん。カウントを数える役を、タツヤ殿に代わってお願いします」


 竜也を飛ばして次の順番のパブリナが、カウントを数えはじめる。すぐさま皆は腕立て伏せを再開する。


 ドリーヌが、竜也の腕に手の平を当てて回復の魔法を唱えだす。淡い光に包まれた腕から焼けつくような痛みが薄れていくが、腰の時のように完全に治りはしなかった。


太腿ふとももも、もう限界が近いかも……」


 竜也の要請にドリーヌは太腿ふとももにも手の平を当てて回復の魔法を唱える。しかし太腿ふとももの疲労は取れなかった。最初の背筋の時と同様、やはり限界が近いだけでは魔法は効果を発揮してくれない様だった。


「今、ふと気になる事を思い付いたんだけど、魔法で回復するってのは、どういう状態にする事なのかな? 例えば経験値がトレーニングを積んだ分だけ溜まっている状態で、治癒魔法を掛けて疲労を取ったら、トレーニングした分の経験値がまるまる無くなるようなら、いくらトレーニングしても無駄になっちゃうんじゃないの?」


 竜也の指摘にドリーヌは、思案顔でジェレミーに視線を送る。ジェレミーもお手上げというように肩をすくめてみせた。


「このような事で治癒魔法を使う事は今までに経験が無いので、どのような結果が出るのかは未知です。

 しばらくこの方法でトレーニングを続けてみて、一切効果が表れない等の不都合な結果が現れるようでしたら、別の方法を考えるしかありません」


 竜也はジェレミーの返答に眉根を寄せる。ただでさえ時間が無いのに、できれば無駄な事はしたくなかった。


「では、トレーニングを再開して下さい」


 ジェレミーの指示に、竜也は皆に合流してトレーニングを続ける。

 腕の筋力は心なしか余裕が出来たような気がする。その事には安堵あんどするが、トレーニング自体が楽になった訳では無かった。このいつ終わるとも知れないトレーニングは、確実に数値に現れない精神力を削っていった。



 それから延々とトレーニングを続けていき、竜也が再び動けなくなったのは、腹筋の時だった。レイラのカウントを数える掛け声に身体を起こそうとするのだが、身体はまったくいう事を聞いてはくれなかった。


 竜也が大の字に転がって動かなくなったのを見届けたロベリアが、素早くドリーヌに治癒魔法の要請を出す。


 ドリーヌは、竜也の腹部に手を当てて回復の魔法を唱える。淡く光る暖かい光に照らされて幾何いくばくかは回復したように思えるのだが、腕の時より更に回復量が少ないように感じられた。

 不審に思いながらもトレーニングを再開する。


 このように何度も倒れながらトレーニングは、一時限目終了のチャイムが鳴るまで続けられた。竜也は突っ伏したままで、ドリーヌの治癒魔法を受けてもピクリとも動かなくなっていた。


 心配気にエレーナが、竜也の顔を覗き込む。思念で呼び掛けてみるが応答は無かった。竜也は、やりきったという達成感から気を失っている様であった。


 エレーナは、竜也の頭をそっと抱き寄せて自分の膝の上に乗せる。安らかな寝顔を見せている竜也の顔を覗き込みながら思念で呼び掛ける。幾度目かの呼び掛けに竜也は薄らと眼を開けた。


 竜也は目前にある小さなふくらみに手を伸ばす。

 エレーナは、その手を素早く捕まえると周りに視線を走らせる。休憩時間ではあるが、二時限目もトレーニングルームでの授業なので、結構な人数の生徒達がこの教室に残っていた。


 その誰もが、こっそりと自分達の様子を探っているのだ。ここで毅然きぜんとした態度で竜也に接して、皆の手本となる行動を示さなければいけないと頭では分かっているのだが、竜也の顔を見ているとついつい感情が緩んでしまう。


「ご褒美は?」


 竜也の強請ねだるような上目使いに思念で —— あとでね。と答えてしまう。


 竜也は、安らいだ表情で膝枕を堪能しながら、ご褒美の内容を考えていた。


 —— エッチなご褒美は駄目です。

 —— えええっ! それ以外に、どんなご褒美があるっていうの?


 二人が思念で会話をしだすと、周りで様子をこっそり観察している者達から羨望せんぼうの溜め息が漏れる。結局、皆のお手本として振る舞う事は出来ていなかった。


「治癒魔法の補助があったとはいえ、タツヤ殿はよく頑張りましたね」


 エレーナは、声の主を見上げる。声を掛けて来たのはジェレミーだった。その後ろにはロベリアとドリーヌがたたずんでいた。


 エレーナは竜也の頭をかき抱きながら警戒の色をにじませる。これ以上竜也に色目を使う者が増える事を恐れているように見受けられた。


 ジェレミーは、ヤレヤレというように肩をすくめてみせる。


「別に貴女の大事な使い魔であり、彼氏でもあるタツヤ殿を取ろうなんて考えていませんわ」

「べ、別に彼氏では……」


 エレーナは、小声で何やらモゴモゴと呟く。


「取られたくないのでしたら、ちゃんと皆に宣言しておきなさい。それと他の女の所へ尻尾を振って寄って行かないように首輪でもつけて、しっかりしつけもしておく事ね」


 エレーナはジェレミーを睨み付ける。喧嘩を売りにわさわさ声を掛けて来たのかと、その眼が物語っていた。


 ジェレミーは軽く肩をすくめる。


「別にタツヤ殿にちょっかいを掛けに来た訳でも、貴女に喧嘩を売りに来た訳でもありませんわ。今回のトレーニング方法の成果の程をタツヤ殿に確認しに来ただけです」


 竜也は、名残惜しそうに膝枕から起き上がる。


「最後は倒れられていたみたいですが、具合の方はどうです?」


 ジェレミーの問い掛けに、竜也は身体の彼方此方あちらこちらの様子を確認していく。


「腕の筋肉が限界に近い状態だけど、この状況では魔法で治癒は出来ないしね……。それに筋力が上がっているようにも見えないんだけど……。それ以外は問題ないかな」


 竜也は正直に答える。


「次の授業でタツヤ殿には、ウエイトトレーニングをやってもらいます」


 ロベリアが一歩進み出て発言する。


「このトレーニングでも、へばったら治癒魔法を掛けて再びトレーニングをしてもらう事を繰り返し行ってもらいますが、このトレーニングで確実に現在のトレーニング方法が合っているのかどうかが分かると思います。そして次の授業が終わりましたら、私からタツヤ殿にご褒美を差し上げます。ですので全力で頑張って下さい」


 竜也はロベリアのおっぱいを凝視しながら、ご褒美の内容を想像する。


 エレーナが竜也の脇腹をつねり上げるが、竜也は想像の世界にトリップしてしまって戻ってこなかった。


 エレーナは、ロベリアを睨み付ける。


「タツヤは私のものですと、先ほど申し上げましたよね? 余計なちょっかいは掛けないで頂けますか?」


 ロベリアは、その問いには答えずきびすを返すと教室を出て行った。


 エレーナは、その後姿を炎でも吹き出しそうな威圧を込めて睨め付けていた。


 エレーナとロベリアの女の戦いを、周りの皆は興味津々という様子で眺めていた。

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