第四十六話
翌日、一時限目は三階のトレーニングルームでウエイトトレーニング、サーキットトレーニングの実施だった。A班、B班に分かれてA班はウエイトトレーニング、B班はサーキットトレーニングといった具合だ。
設備も、元の世界のマシンジムによく似た造りだった。ただしウエイトの表示が妙な数字で書かれていて、いったい何kgのウエイトの物なのか想像が付かなかった。
竜也はB班という事で、教室の壁を三つ程ぶち破った程の広さの空間でサーキットトレーニングを行う事になった。
サーキットトレーニングとは、一連の種目(腕立て伏せや腹筋)などを組み合わせて、間隔を開けずに次々に行い、再び最初の種目に戻ってトレーニングを繰り返し行うものなのだ。
「とりあえずは十セットを、普通にやってみましょう。腕立て伏せ十回、腹筋十回、背筋十回、スクワット十回で一セットです。
サバティー先生の笛の音にタイミングを合わせて実施して下さい。タツヤ殿のデータ上の体力、筋力は減りませんが、たぶん途中でへばると思います。
十セット終了時に魔法で回復してみて、もしも症状が回復しない場合は別の案でいきましょう」
ロベリアの説明に、竜也は頷きながらB班の皆を見回した。B班は竜也を入れて十二名で構成されていた。その十二名が円を描くように内側を向いて並んでいて、その真ん中にサバティーが佇んでいた。
「腕立て伏せ用意!」
サバティーの号令に皆はサッと腕立て伏せの体勢を取る。竜也も慌てて従った。
—— ピッ、ピッ、ピッ、……
サバティーの笛の音に合わせて皆は腕立て伏せを始める。タイミングは思っていたより早かった。十回はすぐさま終了する。皆は、すぐさま仰向けに転がる。
—— ピッ。ピッ。ピッ。……
腹筋用意という号令は無かった。皆は当たり前のように腹筋を始める。竜也も必死について行く。十回はまだまだ楽勝だった。皆は、すぐさまうつ伏せになる。
—— ピッ、ピッ、ピッ、……
背筋は、どこまで身体を反らせば良いのか分からなかった。というより、反らす事が出来ずに、適当にもがいているだけだった。皆は、すぐさま立ち上がる。
—— ピッ。ピッ。ピッ。……
スクワットが始まる。一セット目で息が上がっていた。これを後十回繰り返さないといけないのだ。
思っていたよりハードだった。ペースが早くてすぐに疲れてきたが、一セットが十回という少ない回数なので、なんとか皆に付いていけているという状態だった。
途中でへばって動かなくなるだろうと予想していたロベリアであったが、竜也は十セットをなんとか付いて来ていた。なかなか根性も付いて来たようだ。
「ドリーヌさん。タツヤ殿に治癒魔法を掛けてあげて下さい」
ロベリアの要請にドリーヌは、竜也の胸に手の平を当てて回復の魔法を唱える。しかし竜也の様子に変化は無かった。
竜也は、仰向けに転がったまま荒い息を吐いている。
「これで動けるようになるんだったら、今までに他の者が実施してるんやじゃないの?」
竜也は腕の筋肉を摩りながら様子を確かめる。飽和状態で熱を持ったままで、これ以上トレーニングを続けると焼けつくような痛みに代わってしまうだろう。魔法の効果を受けているようには見えなかった。
「お忘れですか? 私達は治癒魔法による副作用で、しばらく動けなくなるのです。タツヤ殿の特異体質があればこその計画だったのです」
しかし、これでこの計画は断念せざるを得ない。次の計画に移るしかないようだ。しかし、その前に……。
「タツヤ殿は背筋が弱いように見受けられます。うつ伏せになったままジタバタと、もがいているだけのように見えましたよ」
ロベリアに指摘され、竜也は渋い顔をする。確かに自覚はあった。腕立て伏せや腹筋、スクワットは何とかなっていたのだが、背筋だけはどうも苦手だった。
「背筋を鍛える取って置きの方法がありますよ」
ドリーヌが、横から口を挟んできた。顔は悪戯っ子のように輝いている。微かな妖艶さも交じっていて、何とも言えない魅惑が彼女にはあった。
「まずは、うつ伏せに寝そべって下さい」
竜也はドリーヌの言う通りに、うつ伏せに転がり直る。
「ロベリアさんは、タツヤ様の足を押さえていて下さい」
ロベリアが竜也の足を押さえると、ドリーヌは竜也の頭上に立った。
「私の掛け声に合わせて背筋を行って下さい。では行きます。いーち」
竜也は背筋を思いっきり反らす。今回は足が固定されているので、それなりに反らせる事が出来た。
—— おおおお……。
そして頭上に立つドリーヌの下乳を目前に見やり、心の中で感嘆の呻きを上げる。
「にー。さーん。しー。ごー」
ドリーヌの下乳目当てで竜也は必死に頑張る。足が固定されているせいもあって、いくらでも出来るような気がしていた。
しかし、実際に延々に出来る訳では無い。五十を超えた辺りから、ドリーヌの下乳が一瞬しか見えなくなってしまった。もうダメかなと思った時だった。
「タツヤ様、がんばって!」
ドリーヌが体操服の裾を、少したくし上げた。可愛らしい御臍が少しだけ見えた。むっちむちのお腹は思ったよりも締まっていて霜降りのお肉のようだった。エレーナのような赤身のお肉は甘くない。脂身だらけのお肉は論外だ。この霜降り肉のような美味しそうなお腹を見て竜也は復活した。以前にも増して滞空時間が増えた。しかし、それでも延々と続ける事は出来ない。徐々に力尽きてくる。
「あと二十五回、合計で百回できたらご褒美を上げるわ」
ドリーヌは、一回ごとに体操服の裾を徐々にたくし上げていく。これには竜也も死ぬ気で気力を振り絞った。
八十五回でブラジャーがチラリと見えた。九十回でブラのトップ部分までが露出された。九十五回でブラは完全に露出されていた。九十六回、ブラが少したくし上げられた。生の下乳に竜也は釘付けになる。九十七回、九十八回、九十九回。核弾頭の翳りがうっすらと見え隠れする。ボルテージは最高潮に達しようとしていた。
百回、竜也は最後の力を振り絞って顔を引き上げた。すぐに力尽きてしまわないように、ありったけの気力と体力を注ぎ込んでいだ。
そしてそこに見たものは、ドリーヌの背後からエレーナが、肝心な部分を両手で隠している姿だった。ドリーヌの巨乳はエレーナの手の平では完全には覆えないほど大きい。ムチムチの肢体の大半がさらけ出されているのに、肝心な部分が見えなかった。
「こんな大勢が見ている前で、なんて破廉恥な事をしているのですか!」
エレーナの冷やかな視線に、ドリーヌは逃げ腰でロベリアの陰に隠れる。
「ロベリアさんが付いていながら、このような事を許すなんて、これは監督不行届きですよ!」
「タツヤ殿の筋力トレーニングに有効な手段だと判断しました。できれば私がその役を変わってやりたかった位です」
その発言にエレーナは、怒りが沸々と込み上げてくる衝動を抑えきれないでいた。
「タツヤは私のものです。誘惑などは一切やめて下さい。有効な手段だというのなら、その役は私が代わって致します」
エレーナは竜也の頭上に立つ。
「さぁ、訓練の続きをやりましょう。はい、いーち……」
エレーナの掛け声に、竜也は突っ伏したままピクリとも動かなかった。誰かが耐え切れずに失笑を漏らした。
エレーナは、周りに居る者達をギロリと睨み倒す。
竜也が何かを呻いている。エレーナは竜也の顔に自分の顔を近付けて、何を言っているのか聞き取ろうとする。
「ご褒美……」
エレーナは徐に立ち上がると、竜也の顔面を足で踏みつけた。
—— 私がご褒美を上げるわ。
エレーナの顔が、微かに愉悦に輝く。
—— 前にも言ったけど、それはご褒美じゃないから! 僕にそんな趣味は無いよ!
竜也は足蹴にされて必死にもがこうと試みるが、腰砕けになった状況で全く動く事が出来なかった。
あまりにも抵抗が弱々しいので、エレーナは不審に思いながら竜也の様子を窺い見る。
竜也は、必死に起き上がろうともがいているが、立ち上がる事が出来ないでいる様だった。
「なにかタツヤの様子がおかしいわ」
エレーナの指摘にロベリアは、竜也の腰に手を当てて様子を探る。
「最後無理していましたからね……。ぎっくり腰でしょう。いまなら魔法で回復できるのではありませんか?」
さっそくドリーヌが、竜也の腰に手を当てて回復の魔法を掛ける。
竜也は何とか立ち上がると、腰を捻ったりして様子を確認する。何とも無さそうだった。
「やはりタツヤ様が、ぶっ倒れるまで訓練をしてもらって、動けなくなったら治癒魔法を掛けるというトレーニング方法が使えるのではありませんか?」
ドリーヌの発言に、皆は頷いている。竜也だけがふて腐れていた。
「ご褒美は?」
「私があげます」
竜也は、エレーナの胸を見て、あからさまに不満そうな顔をした。
「ドリーヌの胸の為なら動けなくなるまで訓練できても、私の為、この国の為には出来ないっていうの?」
「できない事は無いと思うけど、やっぱり目の前に極上のご褒美をぶら下げられた方が、やる気が出るのは確かだよ」
竜也のあからさまな要求に、エレーナは眉をひくつかせる。
「私の胸では、ご褒美にならないと言うの?」
竜也は素直に頷く。
「でも!」
エレーナの顔が怒りの様相を見せる前に、竜也はすかさず言葉を継ぎ足す。
「報酬には、エレーナ自身を欲しいな」
この発言には、周りでその様子を窺っていた者達の方が浮き足立つ。ヒソヒソと静かなざわめきが広がっていく。
エレーナは公衆の面前の為、どう返事したものかと考えあぐねる。心情的には差し支えなかった。期待している面もある。ロベリアやドリーヌに取られたくもなかった。
「そこ! 何をやっているのですか?」
A班の方へ行っていたサバティーが、此方に帰って来た。
「私が何も見てなかったとでも思っているのですか? ドリーヌさん、エレーナさん、生徒指導室まで来て下さい」
—— えっ? 私まで?
ドリーヌは公衆の面前で、あれだけ破廉恥な行いを仕出かしたのだから当然として、なぜ自分まで呼ばれたのかエレーナには分からなかった。




