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私の勇者様 ~勇者育成計画~  作者: 荒木 リザ
第二章 竜也受難編
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第二十八話 

 竜也は、エレーナの落胆した思念で意識を取り戻した。天井が遥か彼方に高い。いったいここは何処なのかと、いまだ朦朧もうろうとする意識の下でしばし考える。


 そうだ! 地下迷宮ダンジョンで、ジャイアント・キャタピラーこと通称『芋』と戦闘していたのだ。その後、疲労と悲観から意識を失ってしまった所まで思い出す。


 上半身を起こして辺りを見回す。すぐ隣にはロベリアがくつろいだ様子で座り込んでいた。他の四人は『芋』の大量虐殺に勤しんでいる。


「気が付きましたか?」


 ロベリアが、起き上がって辺りを見回している竜也に声を掛ける。


「うん……。皆は何をやっているの?」


 辺りを見回し、あれだけ無数にいた『芋』がほとんど絶滅している事に唖然あぜんとする。いったいどれくらいの時間のあいだ気を失っていたのかは不明だが、四人でドーム球場ほどもある面積に無数にいた『芋』を、あらかた倒してしまっているとは尋常では無い。


 エレーナとセシルは、長衣ローブから軽鎧ライトアーマに着替えていた。エレーナは、細剣レイピアを操り『芋』を瞬く間に穴だらけにしている。セシルは大剣を携え、豪快に『芋』を粉砕していく。

 ジェレミーとドリーヌも、それぞれの獲物で瞬く間に『芋』をほふっていた。


「ジャイアント・キャタピラーの大量虐殺ですね」


 ロベリアが、見れば分かる事を言う。


 竜也が意識を取り戻した事に気付いたエレーナは、戦闘を一区切りさせてロベリア達の居る場所に戻って来た。


 純白の短衣チュニックに最小限の板金で要点だけを補強してあるの軽鎧ライトアーマは『芋』の薄黄色の体液でべっとりと汚れていて、見方によっては卑猥ひわいにも見える。


 エレーナは、腰の鞘に細剣レイピアを戻しながら、竜也の心中を読んだのか、少し恥ずかしそうに衣服に付いている汚れを拭った。


「いったい、これは何をやってるの?」


 竜也は再度エレーナに、この尋常でない光景の説明を求める。


「ジャイアント・キャタピラーのリンクの検証です。どうしても上手く行かなくて気が付けば大半の『芋』を倒してしまいましたね」


 エレーナは、背後に死屍累々と転がる『芋』の死骸を顧みて、やり過ぎてしまった事に反省の色を浮かばせる。


 なるほど、それでリンクの謎が分からずに、落胆した思念が伝わって来たのかと、竜也は納得する。


「普通に攻撃して他の『芋』に接触するように誘導しても全くリンクを起こさないのです。やはり触角を斬り落とさないと駄目なのかと色々試してみましたが、私がどれだけ素早く狙っても避けられてしまうのです。タツヤは、どうやって触角を斬り飛ばしたのです?」


 竜也は、走馬灯を見る寸前の場面を思い起こしてみる。無我夢中で何をしたのかはっきりと覚えていない。


「よくわかんない……」


 正直に答える。


「エレーナさんの針の穴をも通す正確さと、学年一を誇る俊敏さでかわされるのですから、私達がただ闇雲にやっても駄目なようです」


 ジェレミー達も一段落ついたようで、みんな集まって来た。


「タツヤ殿が触角を斬り飛ばした時、『芋』とは戦闘状態でしたよね? 不意打ちでは無く、戦闘状態になってから触角を狙ってみました?」

「それは勿論もちろんですわ」

「タツヤ殿より遥かにスピードの速いエレーナさんの攻撃が、かわされるという事から考えられる事は……」


 ジェレミーが思案顔で呟く。


「タツヤ様が戦っていた『芋』が、恐ろしく『どんくさい芋』だった、とか?」


 ドリーヌの意見は、全員に黙殺された。


「タツヤ殿は、『芋』が口を開けて攻撃している時に、カウンターで触角を斬り飛ばしています。他の皆さんの戦闘を見ていましたが、『芋』の間合いの完全に外からの攻撃で、一方的に虐殺しているだけです」


 ロベリアの意見に皆は、なる程と相槌あいづちを打つ。


「もう一度検証してみますね」


 エレーナが颯爽さっそう細剣レイピアを抜き放つと、一番近くに居る(といっても、ドームの向こう縁だが……)『芋』に向かって走って行った。


 一撃を放ってその場に留まり、『芋』が間近に迫ってくるのを待つ。大口を開けて襲い掛かってきた所をカウンターで触角を突き刺す。思惑通り事が運び、『芋』はギイギイと奇怪な声で泣き喚きながら他の『芋』に突っ込んで行った。


 リンクは上手く行った。ドリーヌが歓声を上げる。『芋』はドーム内に居た最後の一匹をも巻き込んでエレーナを追い掛けだした。


 エレーナが皆の居る場所へ走って帰ってくる。

 ジェレミーとドリーヌ、セシルは各獲物を持ってエレーナが連れてきた『芋』の集団を迎え撃つ。


 一時の乱戦の後、ほどなく全ての『芋』が狩りつくされた。あとは、触覚を斬られてあらぬ方向で暴れている一匹のみだ。


 その一匹に向かって歩を進めようとしたエレーナは、ピタリと足を止める。皆の顔にも警戒の色が浮かぶ。

 のんびりとくつろいでいたロベリアまでもが立ち上がった。一瞬にして場の空気が緊張に包まれるのを感じて、竜也は慌てふためいていた。


 『芋』は、出鱈目に暴れ回っていたが、不意に水溜りにでも落ちたかのように体半分が地面に沈み込んだ。より一層激しい奇声を上げている『芋』は、必死にい上がろうともがき回ったが、徐々に地面に沈んでいき、やがてすべてが消え去ってしまった。


「アルゲントゥム・ウィーウム、通称『銀のスライム』よ」


 ロベリアの顔に焦りが見える。これは只事ただごとでは無い。


 よく見ると『芋』が消えた辺りに揺らぎが見える。水が地面に染み渡るように広がっていく。その水溜りに『芋』は溶かされたのだ。


「セシル! 精霊獣で足止めできる?」

長杖ロッドを持って無いから、長時間は無理よ」


 セシルが魔法を唱えると、体長六メートルくらいの火竜イグニスが現れた。日本古来の龍といった感じの細長い姿フォルムで全身が炎で包まれている。


 『銀のスライム』は、まるで窓ガラスを伝い落ちる水滴のような勢いで、此方こちらに向かってきた。

 間近に迫った『銀のスライム』は、火竜に跳び付いた。その、てらてらと銀色に光り輝く様子は、まるで水銀だった。触手のように伸ばした仮足を火竜に巻き付ける。


「今よ! 退却!」


 ロベリアの号令のもと、皆は一目散に出入口に向かって走り出した。竜也も、こればかりは質問も文句も言わずに従った。


 元々、入口近くに居た事から、すぐに地下迷宮ダンジョンを脱出する事が出来た。皆は、荒い息を吐きながら女子更衣室に入って行く。竜也も後に続いた。


「あのスライムは、ここまで追って来ないの?」


 竜也の質問に、誰も答えない。思案顔で顔を見合わせている。


「元々アルゲントゥム・ウィーウムは、地下十階に生息しているモンスターなのです。

 ノトーリアス・モンスター、通称『NM(エヌエム)』と言って通常種に比べてかなり凶悪な存在でもあります。

 なぜ地下一階に現れたのか不明ですが、それ故にここまで来ないという保証もありません」


 ジェレミーの説明に、皆の顔が強張る。


「地下一階に現れたのは『芋』の体液の匂いに引き寄せられたのでしょう。しばらくは……。食物である『芋』の死骸を食べ尽すまでは、あのドーム広場に居座るでしょうね」


 ロベリアの説明を聞き、皆の顔が更に強張る。食物である『芋』の死骸は、文字通り腐るほどあるのだ。


「明日の一時限目って、地下迷宮ダンジョンに潜る学年ありましたっけ?」

「確か中等部の一年生が、研修で潜るような……」


 そして更に皆の顔が強張る。非常にまずいと慌てふためく。


「倒すしかないでしょうね」

「六人で? 最低十二人は居るわ。それでも死人が出るかもしれないのよ」


 皆は竜也を見つめる。戦力にならない事は明らかだった。実質戦力は五人だ。


「六人って、私も人数に入っているのです?」


 ロベリアが、ここにきて間抜けな事をほざきだす。地下迷宮に潜ってからの名推理っぷりが台無しだ。竜也は、さすがは脳筋と心の中で呟いた。


「当然です!」


 四人の言葉がハモった。

 ロベリアは、眉根を寄せて渋面になる。


「だから『芋』のリンク検証実験には反対だったのです……」

「いまさら言っても仕方ありません。どうにか倒す方法を考えましょう」


 ジェレミーの呼びかけに、皆は押し黙る。


「剣の攻撃で倒すのは不可能。通常のスライムなら炎系の魔法で焼く事が出来るけど、金属属性のアルゲントゥム・ウィーウムには炎の魔法さえ効かないのよ。十二人で雷系の魔法連射でも死人が出た事があるのに、六人では無理よ」


 ドリーヌの言葉に、皆は更に沈んでいく。

 竜也は、はるか昔に見た古い映画を思い出していた。液体金属で出来た不死身と言って良い敵が、街中を大暴れするやつだ。たしか液体窒素で凍らせて粉々に砕いていたと記憶している。


「凍らせたら駄目なの?」


 竜也の発言に、皆は不審な眼を向ける。


「この世界に液体窒素は無いと思うけど、その代わり魔法があるんだからガチガチに凍らせて叩き壊せば良いんだよ」

「エキタイチッソ?」


 また不可解な言葉が出てきた事に、エレーナは小首を傾げる。竜也の元居た世界の情報をいろいろ聞き及び、この世界と全く異なる文明を持っている事を理解しているつもりだが、この世界と違いモンスターも居ず、おおむね平和な世界に暮らしていた竜也に、あの凶悪なモンスターの倒し方が分かるのかという疑問が脳裏に浮かぶ。


「金属は凍りません」


 ジェレミーが、にべもなく言い放つ。


「零度くらいじゃ駄目だよ。マイナス二百度くらいなら凍ると思うよ」


 皆は互いに顔を見合わせる。マイナス二百度が、いったいどの位の物なのか推し量っているようだった。


「試してみる価値はあると思います。セシルさんの召喚した精霊獣をおとりに全員で氷系魔法連射、凍り付いたら叩き壊す方法でどうです?」

「そのまま叩き壊しても小さく分裂するだけだと思うので、雷系魔法で電気分解が確実なのでは?」

「では、その作戦で行ってみましょう」

「タツヤ殿は、念のために長方形の盾(タワーシールド)を装備、武器は要らないので防御面を充実させて下さい。皆さんは、魔法系装備に着替えて下さい。氷系の魔法の威力が上がるアイテム等がある人は、それをお願いします」

「氷の杖なら人数分揃えられるわ」


 皆がてきぱきと意見を言い合い、指示を出し合って準備を始める。


 竜也は、再び奥の部屋へ連れていかれた。板金鎧プレートアーマを着せられかけたが、重量に付いていけず、身軽に動ける事を優先して硬革ハードレザー装備で身を固めた。盾も軽量化の為、硬革ハードレザーに金属の補強が付いている最大の大きさの物を選ぶ。


 程なくして皆の準備が整った。皆の装備は灰色の長衣ローブ姿だ。杖先に大きな水色の宝石が付いた長杖ロッドを持っている。


「では行きましょう」


 みんな緊張した面持ちで、地下迷宮ダンジョンに足を踏み入れた。ドーム型の広場までの道筋、皆はずっと無言だった。神経質な程、辺りを気にしている。


 やがてドーム型の広場に出る。用心深く広場の出入口で様子をうかがう。ドームの中は大量虐殺された『芋』の死骸で埋め尽くされ『銀のスライム』の様子はうかがえない。


「敵探知お願い」

「私のヒロシに任せて」


ロベリアの指示に、セシルは使い魔のフクロウを呼び出した。ヒロシはセシルの腕からサッと飛び立ち、上空より敵探知を行う。


「邪魔な『芋』の死骸を片付けるわ」


 ジェレミーがモグラのユウスケを呼び出す。ユウスケは地面をくり抜いて姿を現すと、皆に挨拶をするようにヒョイと手を上げた。


 ジェレミーの —— 早くしなさい! という思念にヤレヤレと耳の裏をくような仕草をした後、土に潜り一番手前の『芋』の死骸めがけて掘り進んで行く。地面すれすれに潜っているので、掘り進んでいる場所が盛り上がっていくので丸分かりだ。


 ジェレミーは少し恥ずかしそうに皆の様子をうかがう。個性溢れすぎる使い魔の様子に皆の視線が生暖かい。


「貴女だけには、何も言われたくはないわよ!」


 ジェレミーは、エレーナに食って掛かる。


「何も言ってないでしょう」

「ジャレている場合じゃないわ。ターゲット発見、二時の方向、距離七十五!」


 セシルの声に皆は、気を引き締め直して指定された方角を見やる。『芋』の死骸が多すぎで『銀のスライム』は見えない。

 ユウスケが、此方こちらと敵の直線状にある障害物を優先的に土に埋めていく。


 ドリーヌが頭上に手をかざすと何処からともなくカメが飛んできた。目にも止まらぬ速さで駆け寄ってくると、ドリーヌの手の平めがけて飛び上がったのだ。手の平に収まったカメは文字通り飛んできたように、皆の眼には見えた。


 驚いている皆を見回し、ドリーヌは悪戯が成功した子供のように破顔する。


 ドリーヌが、カメのリョウタにキスをしようと顔を近づける。リョウタは両手を突っ張ってドリーヌの顔を近付けまいとする。首は嫌々をするように、左右にバタバタと振られていたが、やがて力尽きたように大人しくなる。リョウタは、されるがままにキスの雨の洗礼を受けていた。


「リョウタくん、嫌がってない?」

「リョウタの事は、何でも御見通しよ。この子は照れ屋さんなのよ」


 リョウタは、眉根を吊り上げて違うと言わんばかりに右手をブンブンと振り回す。


「私の使い魔の特殊能力は、物理攻撃半減以外にもあるのよ」


 ドリーヌはリョウタを高々と掲げて、何やら魔法語ルーンを呟いた。

 途端に、皆の長衣ローブが一瞬だけ淡く光り輝く。


「物理防御力アップ譲渡。リョウタの物理防御能力を、皆に均等に分け与えられるのよ」

「これは有り難いわ。では、準備は良い? ユウスケが目前の『芋』をあらかた埋めたので、作戦開始と行くわよ」


 各々が長杖ロッドを片手に、にじり寄って行く。セシルが氷の精霊獣を呼び出した。雪女グラキエースだ。透き通るような真っ白な肌に水色の瞳と髪を持つ氷の美女だ。日本風の白い着物の合わせ目から覗く胸の谷間はかなりの物だった。


「おおおおお……」


 場もわきまえず、竜也が感嘆とした呻きを漏らす。

 雪女グラキエースが竜也を見据える。文字通りの氷のような冷たい視線だ。雪女グラキエースだけでなく、その場にいる全員の冷たい視線にさらされて、竜也はブルリと身を震わせた。M気質は無いのだが、この視線だけで『ありがとうございます!』と言いたくなる程の気高さが雪女グラキエースにはあった。


 雪女グラキエースが音もなく前進する。僅かに足は動かしているのだが、足裏は地面を捉えていない。微かに宙に浮いているのだ。そのまま『銀のスライム』に向かって行く。


 『銀のスライム』も此方こちらを感知したようで、スルスルとまるで窓ガラスを伝い落ちる水滴のような勢いで向かってきた。


 雪女グラキエースが手に掲げ持つ氷の槍で『銀のスライム』を突き刺す。『銀のスライム』は、触手のように伸ばした仮足で応戦する。触手は雪女グラキエースに巻き付き締め上げる。胸の下あたりを横一文字に拘束され締め上げられているため、着物のような衣服が乱れる。胸の谷間がよりさらけ出される。


 竜也はその様子を、もっとよく見ようと前へ進み出る。そしてエレーナに長杖ロッドでしばき倒された。


 ドリーヌが、そんな竜也に手を差し伸べてやる。


「命が掛かっているというのに、スケベ心が優先なのですか?」


 竜也を立たせてやりながら、妖艶に微笑んでみせる。


「タツヤ様は、きっと強くなります。私が教える格闘術ではそうさせてみせます」


 ドリーヌは、竜也の耳元でくすぐるように囁く。


「格闘術には、寝技もあるのですよ」


 竜也の吃驚びっくりしたような顔を覗き込み、妖しく誘うように微笑む。


 竜也は、エレーナの様子を盗み見た。『銀のスライム』に集中していて此方こちらの様子に気付いた形跡はない。そしてドリーヌをまじまじと見やる。自分の事を棚に上げて、こんな時に何を言い出すのかといぶかしむ。


 そうこうしている内に雪女グラキエースは、触手を引き千切り、手にした氷の槍で『銀のスライム』を突き刺し中空へ投げ飛ばした。


「今よ!」


 ロベリアの号令一下、氷系の魔法が『銀のスライム』を襲う。伸ばされた触手が凍り付き動きが止まる。その横からまた触手が突き出てきて此方こちらへ延びて来る。そしてまた途中で凍り付く。滑らかなゼリーのようだった本体の表面までもが凍り付いていく。その表面がひび割れ、そこから触手がまたしても生えてくる。

 しかし最初ほどの生命力は感じられない。やがてその触手も凍り付き動かなくなる。凍り付いた厚みが増したのか、少し手間取りながら次の触手が生まれる……。


 動きは鈍くなってきたが、着実に此方こちらに向かって触手をい進めてくる。


 皆の顔に焦りが見え始める。触手は凍れど次から次へと生えてくる。予め決めてあった撤退ラインまであと少ししかない。


 セシルは雪女グラキエースを帰還させ、雷獣トニトルスを召喚した。体長約四メートル、ライオンのようなたてがみがあり体躯たいくもよく似ているのだが、全身が紫色と非常にグロテスクだった。


「一か八か、雷攻撃いくわよ!」


 セシルの命令を受け、雷獣が咆哮ほうこうを上げる。たてがみが静電気に引き立てられるように逆立ち広がる。紫電がたてがみの中を縦横無尽に走り抜け『銀のスライム』めがけてほとばしる。

 『銀のスライム』は紫電に触れた瞬間に、非常に呆気なく四散してしまった。あまりに呆気なかったため、皆はまだその場にたたずんだまま警戒を怠らなかった程だ。


「アルゲントゥム・ウィーウムの消滅を確認!」


 ジェレミーの戦闘終了報告に、皆は歓声を上げる。誰一人死傷することなく戦闘を切り抜けられた喜びと、凶悪な『銀のスライム』の意外な倒し方の発見に皆の高揚は高まる。


 意外な発見と言えば、ジャイアント・キャタピラーのリンク騒動の件もだ。アラニス・オーイェルが生涯を掛けて研究しても分からなかった謎を解き明かしたのだ。この二つは凄い快挙だ。生物学誌に名前が載るかもしれない。


 一同は満足気に帰路に付く。一人取り残され気味の竜也は重い足取りで、皆の後に付いて帰った。


 自分の力ではジャイアント・キャタピラー一匹倒すので精一杯だったのだ。皆との力の差は歴然だ。走馬灯を垣間見るような戦闘を、これから何度経験しないといけないのか不安になる。


 —— お疲れ様。明日も頑張ってね。


 竜也はエレーナの思念を受けて、不安が解消され、心の底から癒されていく思いを実感していた。

 感謝の気持ちを込めて、エレーナの手を握りしめる。

 最後尾を歩いていて誰にも見られていない事を良い事に、エレーナは竜也の腕に自分の腕をからませた。そしてお互い見つめ合う。


「そこ! センサーが付いている事を忘れないように!」


 ロベリアがいきなり振り返り、二人に人差し指を突き付けた。

 エレーナは、ロベリアの指摘を受けて、慌てて腕を放す。

 そんなエレーナの様子に苦笑いを漏らしながら、竜也は今日一日とりあえず生き延びられた事を感謝する事にした。


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