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機械仕掛けの神の国  作者: 壷家つほ
第一章 地神の箱庭
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08. 神々の掌

 地上界の住人達の愚かな企みを遥か上方から見下ろす場所――天界の宮殿にて、物見台に一人佇む天帝は物思いに耽っていた。

「浮かないお顔をなさっていらっしゃる」

「カンディアか」

 背後から現れたのは日神カンディア――月神メーリリアと共に天帝の補佐的な役割を担っている女神だ。

「理由をお聞きしても?」

「……」

 天帝は一瞬迷ったようだったが、思っていたよりはあっさりと答えてくれた。

「お前にとっては思い出したくない過去かもしれないがな、八年前のことを考えていた」

「渾神が見つかったのですか?」

「いや。渾神はおろか、渾侍すら見つかってはいないよ。すまないな」

 いとも容易く謝罪してみせる神族の王に日神は苦笑した。

「いいえ。流石は渾神と言うべきでしょう。我々神族のみならず、数多くの者達が今尚彼女達を探し回っているというのに、未だ誰一人としてその足取りすら掴めていないのですから」

「渾侍が脱獄する直前までは、あの娘の居住地であったという村もこちらから確認することができていたのだがな。今はオルデリヒドの〈神術〉に阻まれて、地上界全体への接触自体が難しくなっている。まったく、下らない縄張り争いをしている場合ではないというのに……」

「地神が渾神と組んだ可能性もあります」

「それを見越して網を張ってはいるのだが、意外なことにまだ引っかかってはいないのだよ。だが、出し抜かれている可能性も否定は出来ない。後日、私が直接オルデリヒドの許に出向こうと思っている」

「なるほど。どうか、お気を付け下さいませ」

「ああ、その時は留守をよろしく頼む。……そう言えば、渾侍と一緒に脱獄したシャンセの方は時々話題に上っているようだな」

「本当に何をやっているのでしょうね、彼」

 謀反人シャンセ・ローウェン・ヌッツィーリナ一行は、方々の《顕現》世界に不法侵入しては現地住民と衝突を繰り返しているようだ。その都度、天界にも被害者となってしまった者達からの苦情が上がって来ていた。「奴はお前達の元眷族だろう。責任を取れ!」と。

「天界に対し反意を抱いているのは確実だが、奴は決して渾神寄りではない。恐らく、双方を叩き潰す奇策の種を探しているのだろう。際限なく兵器を量産し続けるあの強大な力が渾神側に渡らないと確定しているだけ、せめてもの救いと喜んだ方が良いのかな?」

「どうでしょうか。渾神は一見理性的な策士に見えて、その実極めて感情的なまるで子供のような女神です。全てが自分の思い通りでないと気がすまず、その都度方法は違えど、彼女は今迄他者を力尽くで従え続けてきました。故に、例えシャンセに渾神達と組む気がなかったとしても、渾神の方がその気ならば、彼は決してあの女神から逃れることは出来ないでしょう。……ですから、私は先にシャンセを潰した方が良いと考えます。死んでしまえば、利用も出来ませんからね」

「……なかなか恐ろしい言い様だな、カンディア」

「私も、八年前は渾神やシャンセ達の悪巧みの巻き添えで大変苦しみましたもの。当然ですわ」

 日神は悪びれることもなく、笑ってみせた。それこそ、日の光のように朗らかに。

「確かにな。それにしても、『子供のよう』か……。渾神に対してそのような解釈を述べた者は初めて見たぞ」

「皆、口には出さないだけで、それぞれに思う所はあるのだと思いますよ。ペレナイカなんて特にそう。彼女は情というものに対し拘りがありますから、渾神の歪んだ好意とは相容れなかったのではないでしょうか」

 地神とは異なる解釈ではあったが、日神もまた「火神は渾神と相容れず距離を置いた」と考えていた。

「氷精への恋着を装い渾神と距離を置いた、と?」

「いえ、半分以上は恋着ですけれどね。そういう価値観の差も少なからず存在していたのだと思います」

「確かに、ペレナイカらしい幼さだな」

「そうですね」

 それから暫く、天帝は頭の中を整理するのように押し黙ったが。

「分かった。シャンセの件は考えておこう」

 そう告げて踵を返した。

「お聞き入れ頂き、有難うございます。私、メーリリアやヌートレイナに恨まれてしまうかしら?」

「お前に非はない。お気に入りの管理も碌に出来ないあ奴等が悪いのだ」

「私も他人のことは言えませんけれどね」

 嘗て寵愛していた白天人族の王女アイシア・カンディアーナのことを引き合いに出し、彼女はまた苦笑いを浮かべるのだった。



   ◇◇◇



 まるで牢獄の様だ、と彼は思った。

 否、彼は決して閉じ込められている訳ではない。精神の一部をこの牢獄のような肉体に寄越してはいるけれど、彼の本体は別にあり、何時でも戻ることは出来た。

 だが、今彼が出たい扉はそちらではないのだ。

(困ったね、こんな時に。本当に我侭な王子様だ)

 この肉体の本当の主が、その所有権の引渡しを強く拒んでいる。無理矢理奪い取ることも出来るが、余り無理を重ねると相手は壊れてしまうかもしれない。それは彼の本意ではなかった。

(ならばここは地神を見習って、私も私の可愛い巫女にお願いしてみようかな)

 くつくつと彼は不穏に笑う。

(――そう、『神託』で)

 その笑顔は正に邪神と呼ばれるに相応しいものであった。

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