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機械仕掛けの神の国  作者: 壷家つほ
第三章 赤き眷族
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25. 偏執

 風神は疾風の如く駆け抜ける。狭い場所であるから本来の速度は出せないものの、それでも他者を全く寄せ付けない程だ。渾神は何度も彼女を見失った。しかし相手の神気を感じ取り、辛うじて居場所を知ることは出来た。風神は不可視化の〈神術〉を維持する程度の正気は保っていたが、気配の抑制までは意識が及んでいなかった。渾神にとっては都合良くもあり、不味い状況でもあった。

(見付けた!)

 やや離れた場所から風神の呟きが聞こえた。同時に彼女の神気の動きも止まる。渾神は足を速め、漸く相手に追い付いた。

 風神は隠し部屋ではない場所にいた。先程確認した時、空き部屋が散見された区画だ。彼女はその内の一室の入口に突っ立って、室内を凝視していた。

 肉眼で風神の状態を確認すると、渾神は思わず舌打ちをした。次いで、風神の肩を乱暴に掴む。

(ちょっと、考えなしに突っ走らないの! 何が起こるか分からないのに――)

 そこで風神の様子に違和感を覚え、渾神の頭が急速に冷える。

(どうしたの?)

 尋ねた後に、渾神は室内へと視線を向ける。雑然と箱が幾つか置かれていた部屋であった。内装から昔は研究室として利用されていたと思われるが、現在は役割を終えて物置となっていた。その部屋に先程確認した時にはなかったものが存在した。

(やはり、罠か)

 気配は感じない。風神とは違って神気を抑えるだけの冷静さを持ち合わせているのか、或いは別の理由か。

(迂闊だった。樹木に覆われたこの場所は「彼女」の体内同然。気配が同化して、普段より感じ難くなっていてもおかしくはない)

 苛立ちの混じった笑みを浮かべ、渾神は相手を睨み付けた。だが、相手は渾神を見ない。間を置かず、その者は風神に向かって話し出した。

「直接会うのは何年振りでしょうね、アエタ。前回は神宴後に開かれた緊急会議だったかしら?」

「イスターシャ……」

 風神もまた怒りを宿した顔を眼前の相手――木神イスターシャへと向ける。だが、風神の心情を木神は歯牙にも掛けなかった。続いて、木神は無表情のまま光精マティアヌスの〈人形殻〉を被る渾神に視線を移す。

「其方は貴女の部下ですか? 何処かで見掛けた記憶があるのですけれど。昇神、でしょうか?」

 返答をしたのは渾神だ。

「この外見は〈祭具〉の効果よ、イスターシャ。私は渾神ヴァルガヴェリーテ。久方振りね。覚えてる?」

 発せられた声はマティアヌスに寄せたものではなく、明らかに別人と分かる女声だ。自身の正体を明かす為に、渾神は敢えて声と話し方を変えなかったのだ。

 木神はやや不機嫌さを表出させた。

「成程、私が想像していたよりも深刻な状況の様ですね。でも、正体を明かしてしまっても良かったのですか? 貴女と手を組んだアエタの立場が悪くなるかもしれませんよ」

 渾神は風神の肩に置いていた手を少し引き、相手の意識を自身に向ける。二柱の女神は短い時間目を交わした。そうして両者共、再度木神を見た。

「止む無し、よ。此方は高位神が二人。地の利があるとは言え、優位に立っているとは思わないでね」

「私がアエタに危害を加えると? 有り得ません。植物とは総じて安定した地盤の上で生きるもの。私もまた安定と、その為に必要な調和を望んでいるのです。もし万一手を出すとしてたら、それは彼女を諫める為に他なりません」

「さっき、立場がどうのと言っていたのは何だったのよ?」

「貴女にアエタを害する意図が見られたから、彼女の前で糺す必要があったというだけです。私自身がアエタを陥れる話ではありません」

「なら、ペレナイカには? 平穏や調和を重んじるなら、どうしてあんなことを?」

「恋郷について言っているのですか? 勿論、それも平和の為です」

 余りにも潔い口振りに、渾神も風神も言葉を詰まらせた。期待交じりの推測は外れていた。今回の騒動の黒幕は木神だった。善良な淑女の顔は仮面に過ぎなかった。不意打ちを食らった渾神は僅かに気勢を削がれたが、同陣営の味方である風神はそれだけで終わらせる訳にはいかない。木神との会話は彼女が引き継いだ。

「認めるのね」

「はい」

「恋郷を使って鍛冶の種族を操り、火界で内乱が起こるように仕向けた?」

「はい、私が命じました。尤も、火界の反抗勢力には地界の支援もあった様ですね。其方は既にご存知でしょう? 諜報部より砂神が拘束されたとの報告が上がっておりました」

「『諜報部』……。物騒ね。何時の間にそんなものを……」

 風神の表情は一層険しさを増した。《光》側世界に於いて、そういった役割は《風》の種族や天人族が担ってきた。神戦前より続く暗黙の取り決めである。無論、裏では各神が似た様な役割の眷族を抱えているのだろう。だとしても、正規の担当者を前にしてよくも悪びれもせず言えたものだ、と風神は思った。木神の外面にそぐわない行動でもある為、違和感を通り越して嫌悪感が湧いた。

 けれども、木神は善人面でこう言い切った。

「平和の為には必要なのです」

「平和の為に戦を起こすの?」

「ええ、そうです」

 声色に迷いはなかったが、言葉を返した後に木神は眉を寄せて俯いた。

「私達《木》に属する者は弱い。《理》を呪う程に。平時であっても、私達の命は事も無げに刈り取られてしまう。ましてや戦時ともなれば……。だからこそ、世界には平和であってもらわねば困るのです。その為ならば、如何なる犠牲も厭いはしません。食料として物作りの材料として、同胞の命を提供することにも耐えましょう。少数の犠牲でより多くを救えるのなら」

「ペレナイカが不和の種だと言いたいの? 確かに彼女は戦神だけど、意図的に戦争を起こしたことなんてなかったでしょう」

「そう見えますか? 誤認識です。改めるべきですよ、アエタ。《火》の本質とは争いと連れ添う災厄そのもの。火があるから兵器が生まれる。火があるから家や命が燃える。破壊の《元素》、その《顕現》。実際、ペレナイカは現体制にも反発しているでしょう」

「反体制的と言うなら、オルデリヒド兄さんの方が悪質じゃない。どうして、ペレナイカなの? 《火》は《木》を燃やすけど、《土》は《木》を育むから? それは私情ではないの?」

「違います。《地》は万物の居所にして資材の源泉。破壊が本質ではないと《理》も認めているのですから。故に私はオルデリヒドにも寄り添い、天帝様との対立をなくしたいと思っているのです」

 そこで渾神の苦笑が響いた。

「ああ、成程。火界を共通の敵に仕立て上げて、彼等を団結させようとしたのね。加えて、貴女にとって邪魔なペレナイカの排除も出来るし。それには忍耐力のある焼物の種族よりも、闘争心が強い鍛冶の種族が敵の中央にいた方が都合が良かった訳だ」

 悪意の混じった言葉に、木神は一瞬不機嫌な顔になる。だが、直ぐに彼女は心中の分からない無表情へと戻った。

「火界の戦力を必要分消費させる目的もありました。その上で火界の統治権を奪った鍛冶の種族に、他界へ侵攻させようと考えたのです」

 木神は平然と語るが、話の内容は深刻だ。渾神も風神も同時に緊張を表出させ、続いて風神が憤怒の形相へと変わった。

「貴女、何てことを!」

「アエタこそ、好い加減に目を覚まして下さい。貴女も本当は分かっているのでしょう? 私達、正神六柱の中で最も有害なのは彼女であると」

 声を荒らげる風神に対し、木神は憂いを帯びた目で訴える。悪役に堕ちた元友人の改心を図る演劇の女主人公宛らに。つまりは彼女に悪行を成している自覚は全くないのだ。ここまで常軌を逸した行動をしておきながら、である。風神の苛立ちは募るばかりであった。彼女にとって大切な相手が被害に遭っているのだから尚更だ。

「そんなの、思ったこともないわ! 少なくとも今一番有害なのは、ペレナイカじゃなく貴女よ! あんな危ない物を作って」

「平和の為に必要と判断したから作ったのです」

「この……!」

 風神が怒りの余り言葉を詰まらせた所で、比較的冷静な渾神が割って入った。

「どうやら話は平行線のままの様ね」

「ええ。ですが、私は説得を諦めません。ペレナイカは消えるべきですが、アエタは違います。彼女の喪失は世界にとっては大き過ぎる犠牲です」

 第三者を意識に入れて、木神もやや落ち着きを取り戻す。しかし、主張に変更はない。渾神は腕を組み、片方の眉を釣り上げた。

(その匙加減、私情が絡んでない?)

 胸の内でそう思うも、渾神は遠からず自身が行うであろう対応を見越して口には出さなかった。そして、本心の代わりに別の言葉で間を埋めた。

「それは前向きなこと。ところでイスターシャ、後二つ三つ聞きたいのだけれど、オイロセは恋郷の効果や貴女の計画について知っていたの? もし知っていたのなら、彼はその件について何と言っていた? それとも、もしかして貴女は何も知らない彼を利用したの?」

 木神は即答した。

「勿論、彼も知っていましたよ。と言うより、そもそもは彼が上申してきた計画です」

 木神の言葉を聞いて目を剥いたのは風神だけだった。彼女は火神に寄り添い過ぎていた。まるで火神自身であるかの様に衝撃を受け、動揺を示した。木神も彼女の心中には気付いていたが、無意味な行為と悟って相手を労わらず、渾神への返答だけを行う。

「部屋の奥――荷物で塞がれていますが、後ろに扉が見えるでしょう。向こう側にはもう一つ部屋があります。そこは嘗て実験室として使用されていました」

「知ってる。さっき来た時、調べさせてもらったわ」

 応じたのは渾神だ。明かされた事実は既知のものであったのか、木神は不快感を見せることなく頷く。

「オイロセが生まれたのは、正にその実験室でした。研究所の職員が南方の原生林で偶然新種の樹木を見付け、一部を持ち帰ったのです。報告を受けて足を運んだ私の目の前で、彼は分析用〈祭具〉の中に入った試料を介して《顕現》しました」

 木神は背後を振り返る。渾神と風神も釣られて彼女の視線の先にある室内扉を見た。

「当時の彼は試料の樹木と似た特性を有し、尚且つ赤ん坊の様に自我がありませんでした。故に、彼は暫く実験動物同然の扱いを受けてました。しかし研究の一環か、或いは良心の呵責に耐えられなかった者がいたのでしょうね。次に私が面会した時には、彼は年相応の知識を得ていました。それを見て、私は彼を研究所の外に出して高度な知識を与えてみようと思い立ったのです。どういった変化を見せるのか、知りたかったから」

 小さな笑声を漏らし、木神は再び正面を向く。視線を送られた女神達は共にびくりと身体を震わせた。そんな相手の反応を木神は満足気に眺め、声を出さずにまた笑った。

「研究所を出る際に『オイロセ』と名付けられたその木精は、私にとても感謝していました。『貴女のお陰で自由と人並みの生活を手に入れることが出来た』と言って。実際には監視付きだったのですが、彼は知る由もありません。だからこそ、彼は『何時か恩返しがしたい』などと言えたのでしょう。この計画を立案した理由もきっと恩返し。彼は私をよく見ていましたからね。私が胸の内に秘めた思いも含めて。そして、共に《火》を憎んだ」

「オイロセはペレナイカに対して悪意を抱いていた?」

「ええ、それが彼の本心です。だから、私が彼の負傷を理由に計画の中断と撤退を命じた時、ペレナイカに対し『ああいう態度』を取った。もう、取り繕う必要がないと考えて。……ああ、貴女達はあの場にはいませんでしたね。私とリネルダスは立ち合いましたけれども」

 木神の認識には一部誤りがある。確かに渾神の方は火神とオイロセが決別した場にはいなかった。それは風神も同じだが、此方は〈千里眼〉を用いて遠方より現場を見ていたのだ。よって、彼女は当時の状況を知っている。

 風神は色褪せた記憶を呼び覚ました。火界の住人に重傷を負わされたオイロセは、犯人を厳しく罰した後、恋人を安心させようと声を掛けた火神に向かってこう言い放った。


 ――俺はもうあんたと関わりたくない! 顔も見たくない! 二度と近付かないでくれ!


 眷族達の犯行動機は火神の偏愛に対する不満であるから、元凶は彼女とも言える。故に火神自身も含めた神々は無力な彼を憐れみ、暴言については聞かなかったことにした。だが、そもそも彼の言動に火界を乱す意図があったならば――犯人の行動は擁護出来ないが――責任の所在が少し違ってくる。

 風神は声を震わせて木神に尋ねた。

「オイロセを引き上げさせた理由は? 何れは計画を再開させるつもりだったのでしょう? そのまま火界に置いておいた方が、再派遣の手間が省けたのではないの?」

「思いの外、オイロセの傷が重かったもので。火界で死なれて身体を調べられては困りますし、少し調べたいこともありました」

「『調べたいこと』?」

 木神は渋い表情になって「ええ」と相槌を打つ。

「オイロセを負傷させた火界の官吏達は、既に恋郷によって我々の支配下にありました。にも拘らず、反逆を成功させた。原因を突き止めなければなりませんでした」

「目的は達成出来たの?」

「大凡は。アエタ、貴女はオイロセが襲われる少し前、火界に滞在していましたね? 恐らくはそれが原因です。貴女が纏う神気を帯びた風が、恋郷の香りを〈術〉の効果ごと吹き飛ばしてしまったのです。だから彼等は正気に戻り、本来の性向に従ってオイロセに敵意を向けたのでしょう」

「どうだったかしら? 覚えてないわね。まあ、私はペレナイカの所へは良く行くから」

 木神は恨めし気な視線を向けるが、風神は意に介さない様子を見せ付ける。木神はむっと口を引き結んだ。その反応を見て風神も険しい表情になった。本当に不愉快な目に遭わされているのは此方だ、と。

 二柱の女神の睨み合いは沈黙に発展した。付き合いきれないと思った渾神は割って入る。

「つまり、恋郷は風に弱いってこと?」

 すると、木神は小さく体を震わせた後に感情を抑えた表情に戻り、渾神の質問に答えた。

「当時は、です。紫沼木の研究は現在も続けさせています。完璧とは言えないものの、その弱点もある程度改善されていますよ」

「執念深い」

 会話は再び途切れる。渾神の方は次の手を考えていたが、木神はそれが終わるのを待てなかった。彼女は情感を込めて風神の説得を試みた。

「アエタ、恐らく貴女は木界から去った後、火界へ行ってペレナイカに今聞いた話を伝えるつもりでいるのでしょう? であれば、私は直ぐにでも〈術〉の仕上げを行わなければなりません。しかし事を強引に推し進めると、双方にとって悲惨な結果となる恐れがあります。よって、貴女には計画について口を噤むか、全てが終わるまでここに留まってもらいたいのです」

「この〈術〉、まだ先の段階があるの?」

 驚きの声を返したのは渾神だ。話に水を注された訳であるが、木神は恋郷に格別な思い入れがあるらしく、不快そうな態度は取らない。彼女は誇る様に歌う様に語り出した。

「精神の完全支配、或いは破壊。そうなれば、自我は残りません。空虚な操り人形です。普段の彼等を知る者が見れば、明らかに不自然と感じるでしょうから、出来ればまだ出力を抑えておきたかったのですが」

「貴女の口振りを聞いて何となく思ったのだけれど、ひょっとして貴女自身が術者なの? 眷族の研究者ではなく?」

「ええ、そうです」

「相当制御が難しい代物の様ね」

「私にとって利点があったのも理由です。紫沼木は他の植物にはない長所を幾つか有していました。一つ目は、これが公には未知の種である点。つまりは紫沼木を利用して事を起こしても、真相発覚までに時間が掛かるということです。二つ目は、既存の種よりも強力な効能。これは紫沼木に内包されている思念との相乗効果と思われます。残念ながら既存の加工方法では神族の心身に影響を及ぼすまでには至りませんでしたが、三つ目の特徴を生かすことによって問題は解消されました」

 木神は視線を下げ、利き手を胸に当てる。

「そして三つ目、これは厳密にはオイロセの媒体のみに現れた性質ですが、私の肉体に移植した際の適合率が極めて高かったのです。紫沼木より生じた他の木精の苦悶が木々を他者にとって有害な物へと変質させた様に、彼もまた私に対する強い念によって無意識に己が媒体を作り変えたと推測されます」

「『念』? 話の流れから『恨み』ではないのは分かるけど」

「私と一つになりたい、力になりたい、という思いですね」

 渾神が態とらしく渋面を作るも、木神は相手の反応など気にも留めず、自身の衣服の胸元を開ける。初めそこには白い肌があったが、突如鎖骨の下辺りに紫色の太い血管が浮かぶ。間を置かず、その部分が樹皮で覆われ、数本の枝が突き出した。

 渾神と風神は驚愕し、身を強張らせる。生理的な嫌悪感が湧いて来た。木神らしくない――否、正気の沙汰ではない、と思った。

「彼の身体が貴女の中に?」

 質問役は渾神が買って出た。風神は口元を手で覆い、俯いてしまったから。

「冷静に。精霊は死体を残しません。オイロセの肉体も彼の死と共に消失しています。今、私の体内にあるのは媒体です。多少の改良は必要でしたが、彼の死後に残されていた枝の一部を移植し、無事肉体改造に成功しました。拒絶反応も見られません。またこの試みにより、先程述べた問題点はなくなりました。今の私は神化した恋郷と言っても差し支えないでしょう」

 神族の力は精霊の力とは比べ物にならない。だからこそ、神族たる火神をも害せたのだ。木神は興奮を抑え切れない様子を見せながら宣告する。

「高位神三柱の同時制御となれば、相当量の神力を消耗するでしょう。しかし、貴女達の足止めも一応は可能な筈ですよ」

 危険な内容だ。渾神は木神への警戒度を一気に引き上げた。

「それって要するに、恋郷が〈神術〉へと昇華されたってことでしょう! ――アエタ!」

 呼ばれた風神は両手を高く上げる。その手の間には小さな白色の壺が挟まっていた。〈封音器〉――壺や箱等の容器を生み出し、音声を閉じ込めて記録する〈神術〉である。

「ばっちり! 録音出来てる」

「私の手を握って。一旦、渾界へ退避するわよ」

「了解!」

 風神が渾神の手を掴むと同時に、彼女達の姿は木神の視界から消え去った。今度は不可視化ではなく、《顕現》世界間を移動する〈神術〉を使用している。渾神の思惑に気付いた木神が神気の放出を強めて「待ちなさい!」と叫ぶも、時既に遅しであった。

(逃がしたか)

 木神は忌々し気に渾神達が先程までいた場所を睨んだ。後を追うのは可能かもしれないが、相手に有利な上に得体の知れない土地に足を踏み入れるのは危険だ。よって、彼女は即座に渾界への侵入を諦めた。

「まあ、良いでしょう。次の行き先には見当が付きます」

 嘲笑の後にそう吐き捨てて、木神もまた部屋を出て行った。

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