03. 野望と陰謀
「私はまだ生まれてすらいない時代の話ですが、最初の火人であるハイデロスは『狩猟の種族』の長――つまりは戦闘を担当していたと伝え聞いております。ハイデロスは火神様より、彼の後に生み出された始祖達と彼等が従える種族を取り纏めるよう神命を受けました。実質、彼こそが全火人族の王であった訳ですな。当時は火神様の神名の一部をお借りした『ペレナディア』という姓も、ハイデロス王の直系のみが名乗ることを許されておりました。戦神でもあられる火神様が火人族に望まれたのは、兵士としての役割であったのだと私は推察しております」
情感を込めてナルテロは語る。ハイデロスと近い時代を生きたシャンセ達にとっては既知の内容だ。しかし、これから打ち明ける話の前提として必要と考え、ナルテロは敢えてその話をした。
「武器の製造を行っていた我々鍛冶の種族は狩猟の種族とは繋がりが深く、長の一族は王佐の役目も担っておりました。しかし、王でありながら前線に出ることを好んだハイデロス王が神戦で戦死し、戦が終わって狩猟の種族が以前ほどには必要とされなくなると、他の種族が勢力を伸ばし始めます。中でも成長が目覚ましかったのは、ヴリエの父ヴェルチェが率いていた『焼物の種族』でした」
ナルテロは無意識に、膝の横に置いた剣を見た。鍛冶の種族にとって、自らが製作した武器は誇りであり心の支えでもある。彼の行動は抑え切れない不安定な内心の表れだった。
「焼物の種族は元々火人族の中では末席にありましたが、自らが生み出した陶磁器を用いて様々な料理や食材を開発し、やがて商業担当であった『交易の種族』と手を結んで、火界外との取引を積極的に行うようになります。また、奴等は大勢の技術者を他界へと派遣し続けました。そういった交流の中で奴等が獲得したのは人脈と技術です。戦闘の技術、鍛冶の技術、交易の技術……火人族の協定を破り、焼物の種族は全てを手に入れました。要するに、奴等は外部の手を借りて火人族の主導権を奪い取ったのですよ」
「ええ、覚えていますよ。ナルテロ殿は不服でしょうが、火界の外では『上手くやったものだ』とヴェルチェ王の手腕を称える声も上がっていました。貴方がたの主神である火神様も彼をお認めになり、火人族の王となることを許された」
「そのやり方は卑怯と言うのだ! 火人本来の性質ではない!」
世間一般の評価とほぼ同じシャンセの言葉をナルテロは声を荒らげて否定した。だが、言い終わった後ではっと目を見開き、ややあって決まりが悪そうに謝罪した。
「失礼、取り乱しました。話を続けます。火神様がヴェルチェに騙されて奴に王位をお与えになってから、他の種族は徐々に火界の中央から締め出されて行きました。嘗ては王族として称えられたハイデロスの一族でさえもです。それはヴェルチェが病死し、娘のヴリエが後を継いでからも変わりませんでした。我等鍛冶の種族が追いやられた辺境の地は《火》の種族にとっても過酷な環境でした。この地では、人族は長く生き続けることが出来ません。長の世代交代が早いのもその為です。それでも、我々は辛うじて現在まで子孫を絶やすことなく過ごしてきました」
「だから反逆を、と?」
「ええ。当然、我々は何時までも大人しくこの状況を受け入れ続けるつもりはありません」
「他の種族は何と? 『ペレナディア』の姓を名乗られたということは、鍛冶の種族が火人族を主導するということでしょう。狩猟の種族は何も言わなかったのですか?」
「彼方への弾圧は、鍛冶の種族の比ではありませんでした。最早虫の息なのですよ。使いは出しましたが、全て此方に任せるという返答でした。他の種族も我等の計画に前向きに協力してくれています。有難いことです」
ナルテロの説明を聞いたシャンセは、口元に手を当てて俯いた。他の種族は敗戦した際の責任を鍛冶の種族に押し付けようとしているのでは、と考えたのだ。勝ったら勝ったで結果が出た後に擦り寄れば良い。そう考えると現在同盟関係にある種族が、どの程度当てになるかは怪しい所であった。
思案した後、シャンセは別の質問を行った。今迄の話を聞いていて引っ掛かった部分だ。
「先程私の手を借りたいと仰ったが、知っての通り私は天人族。つまり外部の人間です。貴方がたの忌み嫌う焼物の種族と同じ手法を使う事になりますよ」
「毒を以て毒を制すということです。ああ否、流石にこの言い方はシャンセ殿に失礼ですな。謝罪致します。正直な所、手段を選んでいる余裕がないのです。また、火神様は火人族を大層厭われるようになったと聞き及んでおります。それが証拠に長らく火侍が火人族から選定されておらぬでしょう。全ては王の資質を持たないヴリエの過失。手段を選び時間を掛けて奴に猶予を与えるべきではないとも思うておるのです」
「それは……」
矛盾した回答だ。火神がヴリエの手法を嫌っているなら、当然同じ手法で伸し上がったナルテロのことも忌避する筈だ。にも拘らず、彼は自分だけは大丈夫だと信じ切っている。どうやら立身出世に目が眩み、冷静な判断が出来ていない様だ。
「私が王位を得た暁には、貴方が黒天人族の王族に復帰できるよう尽力致します。悪い条件ではないとは思うのですが」
「その交換条件が実際に守られるかどうかという疑いもあるが……ふむ」
鍛冶の種族に味方するか否かの結論は既にシャンセの中では出ていたが、今この場でどういう言葉を返すのが安全かについては悩んでいた。だが、暫くして彼は口上を定める。
「ナルテロ殿の許まで話が伝わっているかは分かりませんが、私は現在渾侍と行動を共にしています。つまりは渾神の管理下にあるということです。貴方がたと協力するにしても、彼の女神との交渉が必要となるでしょう。ですが、火界へ来た際に渾侍は行方知れずとなってしまいました。当然、渾神は彼女を追った筈です。故に、申し訳ないがナルテロ殿の要請に対し即答は致しかねます」
邪神とは言え火神よりも高位にある神を出されては、ナルテロも引き下がるしかないかった。人間同士の問題ならば自身の努力で切り抜けれられると彼は確信しているが、神が関与してくるならば少なくとも今の彼の実力では状況を制御し切ることは不可能だろう。既に手遅れかもしれないが、なるべく刺激しない方が良い。
「渾侍の件については報告を受けております。成程、そういう事情であるならば仕方がない。承知しました。返答は後日ということに。ですが、渾侍が見付かるまでシャンセ殿にはこの里に留まって頂きます。宜しいですね」
「ええ」
「シャンセ殿」
より真剣な眼差しでナルテロはシャンセの目を見詰めた。敵意はないが、注意を逸らすことを許さないという意志が感じられる。
「我々は誠意の証として貴方がたの武器を取り上げません。その点も是非考慮していて頂きたい」
「逃げても良いと?」
「火界全土を敵に回したいので? 大人しくして頂ければ、返答がどうあれ渾侍が合流するまで我々は貴方がたに危害を加えるつもりはありませんよ」
シャンセは黙り込んだ。次の発言内容を考えている様な態度であったが、ナルテロは彼に喋らせなかった。
「一先ず、貴方がたの仮の住まいへ案内させましょう」
ナルテロは背後に座って居た側近へと視線を送った。すると側近は立ち上がって天幕の入口へ向かい、外で控えていた護衛に指示を出す。それを確認したナルテロはシャンセ達に外へ出るよう促し、自らもまた後に続いた。
(結局、私達を無理矢理里へ連れて来たことについての謝罪は無かったな。嘗められたものだ)
天幕の入口を潜りながら、シャンセはその様なことを考えて眉を寄せた。
◇◇◇
シャンセ達が案内されたのは、集落の端にある比較的大きく小綺麗な天幕だった。煉瓦造りの建物の方が宿に選ばれなかったのは、他種族に対する侮蔑の情の表れなのか、或いはその方が監視しやすいからなのか。ともあれ天幕に到着すると案内役の戦士が、男女の天幕を分けた方が良かったか、と聞いてきた。嘗ては光神プロトリシカのお手付きの侍女であったキロネと同室になるのは――今迄共に旅をしてきて何事も起こらなかったにしても――世間の目を考えると少々躊躇われたが、一番戦闘力の低い彼女を敵地で一人にするのはやはり心配である。したがって、部屋は分けずに仕切りだけ設けてほしい、とシャンセは答えた。
「何かございましたら、外に控えている者にお申し付け下さい。可能な限り対応致します」
「感謝する」
客人の謝辞を聞くと、案内役の戦士は退室の挨拶をして天幕から出て行った。その後に扉代わりの垂布が外側から下ろされる。しかし、垂布の向こう側には人の気配がぴったりと貼り付いていた。
暫くは室内の全員が入口の方を見ていたが、短気なキロネが真っ先にシャンセの方を向いて尋ねた。
「で、どうするのよ?」
「待て。その前に」
シャンセは片手を上げて彼女を制し、音声を遮断する効果のある〈守秘陣〉と言う〈術〉を発動させる。ややあって外の物音が消え、室内はしんと静まり返った。
「これで盗み聞きは防げる筈だ。喋っても良いぞ」
「迂闊」
マティアヌスがキロネを小突く。すると、彼女は子供の様に頬を膨らませた。
「悪かったわね。で、本当にどうするのよ。まさか手を貸す訳じゃないでしょうね。絶対裏切るでしょ、あれ」
「その根拠は?」
「女の勘」
つまり、合理的な説明は出来ないということだ。聞くだけ無駄だった。男二人は、ほぼ同時に苦い顔をした。
「話にならんな。だが、裏切りについては同意だ。火界内部の出来事であればナルテロの提案も意味を持ったのかもしれないが、我々を罪人に仕立て上げたのは火神ではなく天帝だ。あの男が宣言通りに火人族の王となったとしても、天界と事を構える程の力を得る訳ではない。また、火界を犠牲にしてまで争う理由もない。王座を得た時点で私は用済みとなるのだからな」
「まあ、そうだよな」
マティアヌスは腕を組んで俯いた。それでもシャンセは名声と技術力に利用価値がある分、まだ救いがある。問題はマティアヌスとキロネだ。ナルテロが王となるまで生かしておいてもらえるかどうか。
シャンセは話を続ける。
「だとしても、今の時点であからさまに拒絶の姿勢を見せるのは危険だ。少なくとも彼等の戦力を把握するまでは。特に我々を火界へ移動させた手段は知っておきたい」
「〈術〉か〈祭具〉か」
「〈祭具〉だな、恐らくは。空間操作系が不得手な《火》の種族が使った〈術〉にしては、あまりに威力が強過ぎる。神気は感じなかったから神族の関与もないだろうし。だが、そうなると次は〈祭具〉の出所が問題となってくる訳だ」
〈祭具〉は〈術〉を搭載した道具である。その内包されている〈術〉が《火》の種族の物ではないということは、火界の住人以外の《顕現》世界の住人が〈祭具〉製作に関わったということだ。素直に考えれば輸入品であろうが、他界の者が彼等に武器を与えて火界の内乱に介入しようとしている可能性もある。どちらの陣営に利するつもりでいるのかは分からないが。
「空間操作系の〈術〉は、確か白天人族と《風》の種族と――」
思い当たる種族の名をマティアヌスが挙げていく。すると、シャンセが眉を寄せて言った。
「他にも使える者はいるが、その顔触れに白天人族が含まれているのが気になる所だ」
「罠か。火界に対してか、あんたに対してかは分からないが」
「何れにしても、なるべく早くこの地を去った方が良いのは間違いない。もし火界に対しての罠だとしたら、最悪の場合、天界と火界の戦争に巻き込まれることになる」
「かと言って、嬢ちゃんを置いては行けないぞ。渾神の不興を買うのは必至だ」
暫く口を開いていなかったキロネが、ここで漸く会話に割り込んできた。
「今更じゃないの? 私達、結構あの子に酷いことしてきた気がするけど」
「主にお前がな。また前みたいに渾神から鉄拳制裁を食らうのは避けたい所だ」
「今度は殴る蹴るだけでは済まないかもしれないがな。ともあれ『アミュの回収』が鍛冶の種族に対する時間稼ぎの最終期限となる。それまでに対策は考えておく。魔神や殺神の動向も気になるが……まずは情報収集からだな」
「了解。それにしても、ヴリエ姫が少々気の毒だな。彼女は彼女なりに火界を良くしようと必死に頑張っているつもりなんだろうに」
「それが火人族の本能であり習性だからな。しかし、『十八世代』か……」
今度はシャンセが腕を組んで考え込んだ。他の者は言葉の意味を図りかねて一様に彼の顔を見る。
「どうした?」
マティアヌスが尋ねると、シャンセは「信憑性に欠ける話だが」と前置きた上で語り始めた。
「私が天界に居た頃に『人族は代を重ねる毎に劣化していく』という流説があったんだよ。今どう言われているのかは知らないがね。人の誕生時に実は軽微な不具合が生じていてそれが蓄積されていくからとか、交雑が原因でその種の本来の設定が狂うとか、色々あったな。地上人族の能力が低いのも、寿命が短く世代交代が速い為なんだそうな。まあ、あれに限っては初期段階から失敗していたのだと察しを付けているが」
「実際に検証した奴は居なかったのか?」
「さあ。居たのかもしれないが、少なくとも私の耳には届いていないな。ただ、ナルテロが誰の為に動いているのかと考えて、ふとその噂を思い出したんだ」
シャンセは目を伏せて、感覚を研ぎ澄ませる。〈術〉を使用すれば火人達に察知され不審がられるであろうから、体感だけでナルテロの居場所を探る。だが、彼の気配は里に居る他の火人と殆ど変わらず、見付け出すことが出来なかった。
里中を軽く探して諦めたシャンセは、再び目を開いた。
「昔、天帝から『実は人族の最初の一人は、試験作ではなく唯の手遊びで創った』という碌でもない内緒話を聞かされたことがあるのだが、恐らくはそれが唯一の例外で、以降に人族の祖となった者達は公式発表通りに既存の知性体の補助役として生み出されている筈なんだよ。故に、明言はされていないが基本的に人族の行動原理は『奉仕』若しくは『補完』に設定されているものと推察出来る訳だ。しかし、だとしたらナルテロの行動は一体誰に対する奉仕や補完なのだと思う?」
「うーん、強いて挙げるなら自分の治める種族に対しての奉仕か、或る意味焼物の種族に対する補完もあるのだろうが、少々我が強過ぎるような……」
「〈星読〉にはどう出ているのよ。て言うか、ぶっちゃけ反乱は成功するの?」
〈星読〉を得意とする黒天人族の元王太子を前にして、過去に散々「〈星読〉は信頼性が低い」という暴言を吐いてきておきながら、事も無げにこの様な質問をしてきたキロネに対し、シャンセは露骨に嫌そうな顔を向ける。けれども、悪態を吐くことなく彼はこう返答した。
「少なくとも向こう数百年、火界は平和だよ。尤も、ここ最近私は〈星読〉を外している――と言うより裏を掛かれて痛い目を見ているから、余り当てにはするなよ」
「否、多分今回は当たりだわ」
珍しくあっさりとキロネはシャンセの言を認めた。何を根拠にその結論に至ったのか。また「女の勘」とか言い出したら今度こそ滅してやろうか、とシャンセはキロネを睨み付けた。
不穏な空気を察したマティアヌスは、声を上擦らせて間に入った。
「まっ、まあ、兎も角まずは情報収集なんだな。キロネ、お前腕っぷしは頼れないんだから、あんまりうろちょろするなよ」
「むうっ。分かったわよ。大人しくしてます」
キロネも自分の実力と現在の緊迫した状況は理解出来たので、今回ばかりは素直に従う姿勢を見せた。
マティアヌスから送られてくる窘める様な視線で頭が冷えたシャンセは、小さく溜息を吐いて組んでいた腕を下ろし、別のことを考え始めた。今この場には居ないアミュ――否、彼女を守っている渾神についてである。
(我々にとっては災難だが、変革を好む渾神にとっては喜ばしい展開なのだろうな。要らぬ介入をしなければ良いが)
宙を彷徨う視線は、同じ火界の地に居るであろう渾神ヴァルガヴェリーテの影を追っていた。
◇◇◇
同じ頃、ナルテロはこの里にしては立派な造りの建物の一室で酒を煽っていた。ふと、窓の外を見ると空が紺色に染まり掛けている。直に夜が来るのだ。
彼にしては珍しくぼんやりと外を眺めていると、室内扉の向こう側から呼び掛ける声がした。ナルテロは傍らで空いた杯に酒を注いでいた従者に目配せをし、応対させる。室外に居る者達と僅かばかり言葉の遣り取りをした後、従者は扉を開いて訪問者を招き入れた。その者はシャンセ達を監視させていた戦士の一人であった。
「シャンセ達の様子は如何だ?」
杯を揺らしながら、ナルテロは尋ねる。酔っている為か彼の機嫌は良かったが、監視役の戦士の顔は蒼白だ。
「申し訳ございません。〈術〉で音声を遮断されて内部の様子を伺うことは出来ませんでした。反逆者とは言え天人族の高貴な出自の方故、無理に止める訳にも行かず……」
「作戦会議か。だが、この先ずっと〈術〉を発動し続けるということはあるまい。引き続き監視を怠るな」
「はっ!」
予想よりに反して叱責を受けなかったので、戦士はほっと胸を撫で下ろした。しかしながら、何時ナルテロの機嫌が変わるか分からない。長居を嫌った戦士は主君と彼の従者達に退室の挨拶をし、足早に部屋から離れた。
「どう出て来るでしょうか?」
主君が発言する前に従者が尋ねた。礼を欠いた振る舞いであったが、ナルテロは気に留めない。それだけ彼と従者は気安い仲だった。焼物の種族以外の火人族は何れも落ちぶれ、今やその数は非常に少ない。そして、少数であるが故に人々は寄り添う様に暮らさざるを得ない。その結果、王と臣下という立場の差があるにも拘らず、彼等は隣人や家族の様に親密な間柄となったのだ。
卓上にあった酒瓶を取り、自分で杯に酒を注ぎながらナルテロは思ったことを率直に述べた。
「さてな。だが、奴等がどの様に動こうと我等が取るべき行動は然程変わるまい。協力する意志を見せたなら、利用出来るだけ利用し尽くして儂が王座を得た後に天帝へ献上する。拒絶するなら、即座に天界へ突き出して婆共の不手際を火界内外に喧伝する。何、見てくれだけは若く見えても、実際にはヴリエ婆よりも年嵩の行った老体よ。御するのは容易かろう。伝承では神族に及ぶ程の強者とされているが、どうやら黒天人族の度の過ぎた虚栄心の表れ――唯の作り話であった様だな。我等に難なく捕らえられたのがその証拠」
「確かに、仰る通りで御座いましょう」
従者は微笑む。ナルテロも声を上げて笑う。漸く運が自分に向いて来た。彼はそう確信していた。
「賢者も天界も恐るるに足らず。何れは全ての《顕現》世界を我等が主神へ献上しようぞ」
過去に幾度同じ仕草をしたであろうか。ナルテロは、鍛冶の種族が手に入れられる物の中で最も上質な酒が注がれた杯を火神が住まう宮殿の方向へ掲げた。




