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機械仕掛けの神の国  作者: 壷家つほ
第二章 埋没都市
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25. 灼熱の地

 夕焼けの様な朱色の空、時折火花を巻き散らす赤黒い大地、そして肌を焼く様な熱風。その地に到達した直後、一同は夫々目を閉じたり顔を覆ったりした。

「ここは……」

「暑い……。痛い」

 冷静に周囲を観察するシャンセとは異なり、アミュは初めて訪れた土地の過酷な環境に思いっ切り顔を顰めた。一方、精霊であるマティアヌス達はこの土地の熱気の影響を受け難いらしく、汗一つ流さない。しかしながら、困惑した表情を浮かべてはいた。

「ねえ、ここってまさか……」

「火界のようだな」

 光精達にとっては予想通りの言葉をシャンセが返す。キロネは声を荒らげた。

「何で!? 前回来た時に物凄く頑張って、命からがら追手から逃げ延びたのに!」

「不味いな。シャンセ、回収した〈祭具〉は?」

 マティアヌスの表情も暗い。彼の問いに応じてシャンセは身の回りを確認した。

「大半は入れ物ごと地上界だ。手持ちはこれと――」

「ああ、分けて持ってたのか。九死に一生、かな?」

「どうだろうな。この小型の収納に入る程度の物だから」

 シャンセは懐から小箱の形をした〈祭具〉を取り出した。機能については何時も持ち歩いていた鞄型〈祭具〉と同じだが、入れられる量は格段に少ない。箱の中身を改めて確認し、彼は溜息を吐いた。

「今迄の苦労は一体何だったのよ……」

「全くな。だが、命拾いはできた。誰のお陰かは知らないが」

 再び肉眼で辺りを見回した後、シャンセは〈遠見〉を発動した。

「皆、まだ警戒を緩めるなよ。火界に引き込まれる直前、《火》の気配を感じた気がする。我々を転移させたのが火界の住人の仕業なら、関係者が近くにいる可能性は高い」

「シャンセ」

 何かに気付いたマティアヌスがシャンセの肩を掴む。マティアヌスの視線の先を追って、シャンセは背後を振り返った。

 すると黒く大きな岩山の傍らに、炎の様な赤色の髪を持った人々が数名、武器を携えて立っているのが見えた。〈術〉か〈祭具〉で姿と気配を隠していたのだろう。シャンセでさえも今の今迄全く彼等の存在に気が付かなかった。

「火人族か」

「シャンセ・ローウェン・ヌッツィーリナ様と同行者様でいらっしゃいますね。我々には、貴方がたに対して危害を加える意志は御座いません。どうかご安心を。我等の長がシャンセ様との面会を求めております。ご同行頂けますか?」

「長? ヴリエ殿が私に何用か?」

「あの女狐は、長ではない!」

 突然声を上げる若者。彼の仲間も含めて、皆静まり返った。

 暫くして会話を再開したのは、常に空気を読まない傲慢なキロネであった。

「どういうこと? 貴方達は火人族なのでしょう?」

「ああ、成程。そういうことか。面倒だな」

 シャンセには思い当たる節があったようで、眉間の皺を揉んでいた。

「どういうことよ?」

「後で説明してやるよ」

 シャンセが答えるより先に返事をしたのはマティアヌスであった。直ぐ様答えを得られないことを不満に思ったのか、キロネは子供の様に膨れっ面をした。

 額に於いた手を今度は口元へ持って行き、シャンセは思案する。

(手持ちの〈祭具〉だけでも倒せないことはないが、先程の空間移動に用いられた手段は気になる。火人族の〈術〉の特性ではないし、であれば〈祭具〉か? 《顕現》世界を跨ぐ程の規模の物を彼等が?)

 火人達の様子を伺うと、相手はシャンセを無言で見詰めていた。受諾か拒絶か、シャンセが決断するのを待っているのだ。有無を言わせず、という態度は今のところ取ってはいない。

 彼等の真の目的は不明だが、何れにせよこの過酷な場所にずっと居続る訳にもいかない。マティアヌスと互いに目配せをした後、シャンセは火人族へ返答した。

「我々から武器を取り上げないなら、応じよう。しかし、それが保障されないのであれば――」

「畏まりました。その様に致します」

 火人達は少しほっとした様な表情を浮かべて、シャンセ達を囲った。彼等の隊の頭らしき男が「拠点へ案内します」と言って一同の前に立つ。誰も彼もが男の指し示す前方を向く中で、しかしながら一人だけ後退りする者がいた。

(火界……。私を殺した女神様の世界……)

 嘗て火神ペレナイカに焼かれて自らが命を落としたことを思い出したアミュは、がたがたと震えながら口を両手で抑えた。

「早く逃げないと……」

 そう呟いた後、彼女は姿勢を低くして後方へと駆け出した。

「アミュ!?」

「あ、ちょっと!」

 小さな子供の身体が、火人の戦士達の屈強な肉体の隙間をするすると擦り抜ける。火人達もシャンセ達も皆慌てた。

「追え!」

 火人の戦士がアミュに危害を加えるような素振りを見せたので、シャンセは張り上げて制止した。

「彼女を傷付けるな! あの娘は渾侍だ!」

「何ですと!?」

「お馬鹿、シャンセ!」

「言わない所為で事が起こってしまう方が問題だろう!」

 遠くから聞こえてくる口論をアミュが意識することはない。只々、一心不乱に逃げ続けた。



 その様子を一人の男性が少し離れた場所にある崖の上から眺めていた。地上人族の王子シドガルド――否、彼の肉体を乗っ取った魔神シドガルドである。

「渾神は付いてこなかったのか。まあ、直に追いかけてくるだろうけども」

 彼はふと身体を痛め付けんとする熱い微風に思考を向ける。次に、腕を軽く持ち上げて手首をぱたぱたと曲げてみせた。

「ふむ、火界の環境にも耐え得るか。君の肉体も随分と神の依代に相応しくなってきたね。時間を掛けた甲斐があったというものだ。これならば、きっと彼にも――」

 ぶつぶつと独り言を呟いた後、魔神は再び下を向いた。そして、にやりと笑うと助走を付けることなく崖から飛び降りた。

「あと少しだけ調整と耐久試験に付き合ってもらおう。何事も慎重を期すに越したことはないのだから」

 下方から吹き付けてくる空気が少しだけ涼しくなったように感じ、彼はそれを心地良く思った。



   ◇◇◇



 一方その頃、地上界では――。

「ちっ、逃がしたか……」

 カンブランタ王国跡に取り残された殺神リリャッタが、苛々しながら大鎌の柄の先を地面に叩き付けていた。乾いた土が少しだけ抉れる。

 対象の気配は、彼女の周囲から完全に消えていた。遠距離転送の〈術〉か〈祭具〉を使ったのだろうと殺神は推測した。面倒なことである。

 だが、不意打ちで襲われるようなことはもうないだろう。彼女は暫く腕を組み目を閉じた。身体と頭の熱が冷めた頃、殺神は深々と溜息を吐いて大鎌を消し去った。

(舌打ちだなんて、私も随分と品のない行動を取るようになったものね)

 殺神はシャンセが残していった〈祭具〉らしき鞄を拾い上げた。

(これは智界で解析してもらおう)

〈神術〉で死精を呼び出し、拾った〈祭具〉を持たせて冥界へと送る。自身は冥界へは帰還せず、引き続きアミュを追うつもりであった。戦果なしで帰る訳にはいかない。それでは今の彼女の主人である冥神の顔が立たない。

 そこでふと、殺神は先程自らが吐いた言葉の数々を思い出した。

「地上人族の為、か……」

 彼女は苦笑した。

(本当はもう一つ目的がある)

 その事実を少しだけ不純である様に感じながらも、殺神は冥神の顔を脳裏に浮かべた。

(ザクラメフィを支えたい。私を量産型昇神にする計画を聞いた時、彼は私の為に怒ってくれた。私を維持する為に自分の一部を削って分け与えてくれた。その恩を返したい)

 そして、今度は照れくさそうに微笑んだ。

「内緒だけどね」

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