表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
機械仕掛けの神の国  作者: 壷家つほ
第一章 地神の箱庭
17/77

17. 名の呪縛

 シャンセが隠し持っていた鞄の中から出てきたのは、大量の〈祭具〉の武器であった。

 それを見たキロネは怒り狂う。

「あんたねえ、こんな強力な〈祭具〉を隠し持ってたんなら、もっと早く出しなさいよ! 何で今迄私達、あんなにも怖い思いをして色んな《顕現》世界を逃げ回らなきゃならなかった訳?」

「違うな、キロネ。あれだけ怖い思いをしたからこそ、今俺達の手元に強力な〈祭具〉があるのさ。そうだろう、王子様?」

「え?」

 マティアヌスの問いかけに、シャンセはにやりと笑って答えた。

「ああ、我々の最終目標は天帝の排除だ。これ迄の旅も、奴との戦いに備えて各《顕現》世界に存在する対神族〈祭具〉を回収する為のものだったのだよ。地上界に来たのも同様の理由さ」

 ここ数年の過酷な旅の真実を漸く知ったキロネは、ふらふらとした足取りで後退りし、やがて椅子に当たった所でぺたりと尻餅を突いた。

「何で、それを、今迄言わなかったの」

「俺は気付いてたぞ」

「阿呆に与えてやる知識なぞない」

「うがあああっ!」

「しっ! 外に聞こえる」

 マティアヌスは慌ててキロネの口を押えた。だが、怒りが収まらないキロネはもごもごと何事かを訴えながら、がむしゃらにもがく。

 そんな二人を見て、シャンセは他人事のように笑いを堪えていた。

 後日食事を奢る約束をして、何とかキロネを宥めたマティアヌスは、その後シャンセの許へ行き耳打ちをした。

「だが、今ある〈祭具〉だけで間に合うか? 何せ奴は……」

「無理だな。だから何度も言っているように、直接対決は絶対に避けろ。奴の相手は『我々の切り札』にやらせるんだ。恐らくは奴も彼女に興味があって、聖都に居座っているのだろうし」

 シャンセはアミュの方に視線を向ける。マティアヌスもそれに続く。

 当のアミュは話題にされていることには全く気付かず、不思議そうに〈祭具〉の鞄を眺めていた。明らかに鞄の大きさに見合わない量の荷物が中から出てきたので、驚いているのだろう。

 この時点でもまだ、アミュには正確な作戦内容が伝えられていない。ただ、渾神の強大な神力を盾に、敵と交渉するぐらいにしか思っていない筈だ。

 シャンセがその方が都合が良いと判断し、敢えて詳細は説明しないでおいたのだ。口の軽そうなキロネにもしっかりと口止めをしておいた。

 何せ彼の作戦は、アミュを危機に陥らせた上で渾神を誘き寄せ、件の神とぶつけ合わせるというものだ。その事実にアミュが気付けば、抵抗される可能性は高い。

「下衆い作戦だが、理解はしている」

「なら良い」

 事前の確認が済んだ後、男達は武器の選別を始めた。



   ◇◇◇



 それから、四半刻程経った頃だ。

「もし、こちらは暁神の神子様とその近侍の方々の御部屋ですか?」

 そう尋ねる男性の声が、扉の外から聞こえてきた。

「まずは所属と名前を言いなさい」

 控室の外で立っていた警護役の王宮兵が、男を叱り付ける。

「ああ、失礼致しました。私は第一王子殿下の近侍で、名をアルカと申します」

「え?」

「第一王子殿下の?」

 王宮兵達は怪訝な表情でお互いの顔を見合った。精神の病を患い失脚同然の王子が、一体何の企みがあって暁神の神子に接触を図っているのか、と。

 しかしそのやり取りを部屋の中で聞いていたアミュは、「あっ」と声を上げてシャンセ達に事情を説明する。

 話を聞き終えたシャンセは少々迷う素振りを見せたが、取り敢えずアルカの話を聞いてみることに決め、王宮兵達にその旨を伝えた。

 簡易な身体検査を受け、室内に入ったアルカは、アミュの顔を確認すると安堵の表情を浮かべて跪いた。

「お久しぶりで御座います、アミュ様。ご無事で何よりです」

「ありがとうございます。その節は大変お世話になりました」

「いいえ。立場上のことがあったとは言え、大した助力もできずに申し訳ございませんでした」

 両者が一通りの挨拶を済ませた後、待ち切れなかったとばかりにシャンセが話を切り出した。

「私は神子様の従者代表、シャンセと申します。それで、アルカ殿。我々にどういった御用向きでしょう?」

「急な話で大変恐縮なのですが、神子様が陛下に謁見されるまでまだ暫く時間が御座いますので、その前にお会いしたいと殿下が仰っておりまして」

「第一王子殿下が、ですか?」

 シャンセは相手にも分かるように困惑の表情を浮かべてみせた。

 背後では、マティアヌスとキロネが声を潜めて内緒話を始める。

(狙いは何だ? 報酬でも要求しているのか、自らの威光を示す為か?)

(ただの世間話って落ちだったら、笑うけどね)

 アルカを監視する為に彼と共に室内へ入った王宮兵も、困ったような顔でシャンセを見た。

「どう致しましょう」

「王宮側で問題ないと判断されたのであれば、我々も構いませんよ」

「かしこまりました。上に問い合わせますので、少々お待ち下さい」

 そう言って立ち去った王宮兵の一人が官吏を数人伴って戻ってくるのに、約半刻程度の時間を要した。きっと裏では揉めに揉めたに違いない。

「神子様方がそのようになさりたいのであれば、先にお会いになられても構わないとのことでした。但し、陛下への謁見の時間までずれ込みそうであれば、早目に御連絡頂きたいと」

 高官らしき男はそうシャンセに伝えてから、アミュの様子を窺った。

「どうなさいます?」

 シャンセは従者らしく敬語でアミュに尋ねた。

「お会いしたいです。助けて頂いたお礼も申し上げなければなりませんし」

「では、その様に伝えておきます。アルカ殿、くれぐれも失礼のないように」

 文官達は残念そうに肩を落として、去っていった。きっと王子の我儘のお陰で大幅な予定変更を余儀なくされたのだ。

 しかしながら第一王子の臣下であるアルカは、彼等の苦労を憐れむことも労うこともなく嬉々として立ち上がった。

「お許しを頂き有難う御座います。では早速、『シドガルド』第一王子殿下の離宮へご案内致しましょう」

「……っ!」

 その言葉を聞くなり、シャンセは軽く口を開けて絶句した。

 光精二人は心中で叫ぶ。

(しまった、そう来たか!)

(いやあああああ!!)

 彼等の反応を見たアミュも、鈍感な彼女にしては珍しく何が起こったのかに気付き、思わず目を見開いた。

(まさか――)

 思い起こされるのは過去の記憶。マーヤトリナがアミュに語った言葉だ。



『そうね、私は“シド殿下派”かしら。』

『“シド殿下”?』

『貴女を助けて下さった方がシドガルド様よ。この国の第一王子であらせられる』



 その名を呼べば縁が出来る。聞いても駄目。逃げられなくなる。呪われる。――それが〈名呪〉。

 アミュにとっては未知の存在である「シドガルド」神の生み出した〈神術〉だ。

(私、あの時から〈名呪〉に掛かっていた?)

 その事実に気付き、全身が総毛立つ。

 ならば、あの王子の正体は――。

 出会ったあの時から既にアミュの素性は知られていて、初めから彼の掌の上で踊らされていたのだとしたら――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ