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機械仕掛けの神の国  作者: 壷家つほ
第一章 地神の箱庭
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14. 裏と表

 神託勝負の会場からアミュを連れ去ったシャンセ達は、一先ず自分達が泊まっている宿に戻り、部屋全体を不干渉効果のある〈結界〉系〈祭具〉で覆った。これによって、室外からは室内の様子を窺うことも、それ以前に内部に干渉したいと思い立つことすらも出来なくなる。

 ただし、あくまでシャンセよりも力の劣る相手に対してのみの話ではあるが。

「何てことをしてくれたんですか! 漸く、事態が解決の方向に向かってたっていうのに」

 一段落着いた後、アミュは彼女にしては珍しく激昂し狼藉者達を怒鳴り付けた。空気を読んで何も言わずにいたが、本当は移動中からずっと腸が煮えくり返る思いであったらしい。

 その様子に光精二人は思わず気圧された。

「それは……」

「ねえ……」

 互いに顔を見合わせた後、両者ともシャンセの方に目を遣る。

「本当にどういうつもりなのよ、シャンセ。私達もまだ何も聞かされてないんですけど」

 するとシャンセは一同の察しの悪さに、溜息を吐いた。

「確かに、あのまま行けば全て解決していたかも知れないね。君や私達にとって悪い方に」

「え?」

「忘れたのかい? 神託の巫女を操っていたのは神託、日神の神子を操っていたのもまた神託だ。両者の神は対立していて、結果神子側が勝ったというだけの話なんだよ、あれは」

「あ……」

 光精達は何かに気付いたようだったが、事情を知らないアミュにはそれが分からず、高圧的な彼の態度に眉を寄せるだけだった。

「しかも、この聖都に関わっている神族はかなり厄介だ。天帝と同位の神が一柱、天帝以上が二柱という面子だからな。しかも内二柱は性根が極悪ときている」

 そこで、漸くアミュも今回の件に「彼女」が関わっていることに気が付いた。

「天帝以上……一人は渾神様ですか?」

「ああ」

「じゃあ、もう一人は?」

「……」

 誰も答えない。

「あの……」

「その名を口にするのも憚られる。そういう相手だ。名前に〈名呪〉が掛かっていてな」

 最初に口を開いたのはマティアヌスだった。

「『めい』、何……?」

「〈名呪〉。〈神術〉の一種さ。そもそも古い神々の名には創世期の『神語』が使用されていて、元から〈神術〉のような特殊な力を持っているんだが、そいつはその特性を利用して新たな〈神術〉を作り上げた。その名を呼べば縁が出来る。聞いても駄目。逃げられなくなる。呪われる」

「……!」

 アミュには「神語」という単語に聞き覚えがあった。


 ――創世期の神語で『私は貴方の所有物である』という意味よ。貴女がまだこの世に生まれてくる前に、想いを込めて私が魂体にその真名を刻んだの。


 嘗て、渾神がアミュに放った言葉。

(お母さんが私に付けた「アルマカミュラ」の名前と同じ……)

 当時はその意味をよく理解できなかったが――。

 アミュに掛けられた「不変の呪い」に関係しているのは渾侍の肉体ではなく、実はこの真名の方なのだろうか。

「この子が王宮に連れて行かれたら、待ち構えているのはその神ってこと?」

「あの神気から言って、恐らくな。見ろよ。こちらの動きを察知して、最早隠しもしない。誘ってやがるんだ」

 マティアヌスが王宮のある方角を顎の動きで指し示す。促されるままキロネもそちらを向いて、次の瞬間ぎょっと目を剥いた。

 今迄は王宮内を穏やかに漂っているだけだった彼の神気が、今は燃え上がる大火の様に勢いを強めている。

「うわあ、ほんとだあ。最悪なんですけど。……ねえ、シャンセ。まさか、立ち向かう気じゃないでしょうね。これは逃げるべきでしょ」

 神族の王である天帝に対してさえ物怖じしないキロネが、本能的に「逃げ」の選択をしている。それ程に関わり合いになりたくない相手ということだ。

「逃げ続けても、既に奴はこちらを捕捉した。少なからず縁は出来てしまった。ここで一度何かしらの対処はやっておいた方が得策だ。幸いにも、アミュが一人で奴の巣穴へ飛び込む前に保護できたことだしね」

「なら、いっそのこと名前も呼んじまうか?」

「……」

 流石にそれには抵抗があるようだ。今はまだ蜘蛛の糸のように細い繋がりが、金属製の頑丈な拘束具に取って代わる様なものなのだから。

「なあ、王子様。幾らあんたが天才でも、流石にこれは単独では無理だろ。誰か――否、ある程度力のある神族の助けを呼べないなら、迷うことなく逃げた方が良い」

 すると、シャンセは「良い所に気付いたな」と笑った。

「ここには渾神が来ている。アミュや我々に付いた縁は奴に擦り付ける」

「え?」

「どうやって?」

 それが可能ならば最良の策だが、狡猾な彼の女神がそうそう彼等の思い通りに動いてくれるとは思えない。

「ふむ……」

 シャンセは腕を組み、アミュの方を向いた。続いて光精達もアミュを見る。

「……?」

 アミュは益々不愉快そうな表情を浮かべて首を傾げた。

 彼女は相変わらず話に付いていけないという様子だったが、光精達には正しくシャンセの考えが伝わっていた。そして、彼等はほぼ同時に溜息を吐いた。

(相変わらず、良い性格をしている)

 つまりシャンセは、アミュを不審な神から救う為に保護したのではなく、渾神を誘き寄せる為の餌として確保しただけだったのだ。



   ◇◇◇



 神託勝負の数日後、聖都では王宮側とサンデルカ大神殿側による会談が執り行われた。議題は主に両派閥の敵対行動の一時停止に関する交渉である。

 図らずも、ミリトガリやシャンセ達の引き起こした騒動が彼等の意志を一つに纏め、双方に妥協を促す結果となったのだ。

「本日は態々王宮までお越し頂き、有難うございました」

「いいえ、こちらこそ有意義な時間を過ごさせて頂き、恐縮です」

「は……これはどうも」

 普段は高慢な態度を隠しもしない大神殿の神官から手を差し出され、やや戸惑った宰相であったが、おずおずとその手を握り返す。

 その反応を見た神官は苦笑した。

「正直、こうして貴方がたと握手を交わす日が来るとは、思ってもみませんでした」

「そうですなあ。だが、あのようなことが起これば……」

 当の宰相はその現場には居合わせてはいなかったのだが、ムルテカ将軍を始め多くの者が様々にその時の恐怖を語るので、――証言にあるような怪物が本当にその場に存在したのか、或いは一種の集団催眠のようなものと理解するのかは別として――何か聖都を脅かす重大事件が発生したことだけは認めざるをえなかった。

「お恥ずかしい話ではありますが、神の代行者である筈の我々がなす術もなかったのでございますよ。負傷者も多く出してしまいました。神は不誠実な我々にお怒りになっていたのでしょうな」

「そんなことはありませんよ。言い方は悪いですが、縦え神の代行者と言えども所詮人は人。少人数が寄り集まったところで、出来ることは限られておりますから、神々も初めから余り多くのことは期待してはいないでしょう。ですが、王宮と大神殿が力を合わせれば或いは……」

「宰相殿、我々サンデルカ大神殿は力を必要としています」

 神官は真っ直ぐに宰相の瞳を見返した。その表情からは信仰心に裏打ちされた責任感と純粋な善意が宿っているように思われた。真実聖職者であるのか疑いたくなるような俗物も多いサンデルカ大神殿の神官達だが、少なくとも彼個人は思想に偏りがあるだけで根っからの悪人という訳ではないのかもしれない。

「王宮は人心の掌握を貴方達に期待しています。これからは、我欲を捨て共に戦わんことを」

「ええ、聖都とこの国の人々の為にも」

 この誓いが長く続くことを双方は心から願った。

「差し当たっては、カンブランタ教対策でしょうか?」

「そうですね。彼等に拉致されたと思われる『暁神の化身』も探し出させねばなりませんし、化け物達も捨て置けない」

「まったく、ミリトガリめ。一体何を考えておるのだか」

 代表者である高位神官の言葉を皮切りに、大神殿側の者は上から下まで一様に憤怒の顔となる。

「その者はどういう経緯で神託所の長になったのですか?」

 宰相の問いに少し迷いつつも、神官は平時ならば公開しないであろう情報を教えてくれた。

「先代神託の巫女の指名です。それもまた、御神託によるものですがね。実際、ミリトガリの御神託はよく当たったのですよ。だが今から思えば、あ奴に助言を与えていたのは邪神だったのかもしれません」

「それを正しき神々が看破したと」

「恐らくは」

「何とも……人にとってままならぬものですな。天上の方々は」

「だからこその超越者――『神』なのですよ」

 溜息交じりにそう言うと、神官は締め切られた窓の外に広がっているであろう晴天の方を眺めた。



   ◇◇◇



「娘を取り逃がしてしまったか」

 聖都内――カンブランタ教の地下神殿にて配下達の報告を聞いた指導者の男は、思わず眉を寄せた。

「残念だ。しかし、最早彼女は自由の身。真実『天帝の使い』であるかは定かではないが、もし我々の味方であるならば、何れ我々の前に姿を現すことだろう。敵であるなら、尚のこと。……今はそれよりも――」

 神託勝負の場から部下達が持ち帰った「それ」に、指導者の男は改めて目を向けた。

「代わりに手に入ったこの女、如何致しましょう」

「……」

 本当に、どうしてくれようか。顔を見ることさえ不快なこの女を。

(こやつが『カンブランタ教の一味』だと? 馬鹿な! 今迄どれだけ我々が、この女に辛酸を嘗めさせられてきたことか。だが――)

「焼きが回ったようだな、ミリトガリ」

 石造りの床の上に力なく横たわる彼女は、まるで祭壇の上に眠る生贄の様だ。

「お前と大神殿、そして聖都に住まう全ての邪神の信徒達に……相応しい罰を与えよう」

 暗く冷たいその部屋にくつくつとくぐもった笑い声が響いた。


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