表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/15

真実の波、再び

昨日は衝撃で放心したまま夜会を終え、一晩明けてようやく思考力を取り戻した俺は、とぼとぼとユリアンナの邸へ向かっていた。ユリアンナの親父さん情報によると、ユリアンナが狩りとやらに行くときは朝っぱらから暗くなるまでフルで行く事が多いらしいからだ。



それにしても昨日は嫌って言う程驚いた。

結果、酷く落ち込んでもいる。


俺とユリアンナが婚約してなかったって事は勿論驚いたし、ユリアンナが冒険者だって事も、どうやら本当に今までのプレゼントは自分で採ってきてたって事もそりゃ驚いた。



しかもあの後パーティーで悪友達に事の次第を話したら「良かったじゃないか」「じゃあユリアンナちゃんはフリーなのか」「俺立候補しようかな」と口々に好き勝手ほざかれ、誰一人この異常事態に親身になってくれない事にも驚いたし泣けた。


あいつらが俺がユリアンナを嫌っていると信じ切っているのにもビックリしたが、ユリアンナがフリーになった事に諸手をあげてよろこぶヤツの多さにもビックリした。


しかし何より驚いたのは、ユリアンナに別れを告げられて、こんなにもショックを受けている自分自身の感情だ。これまで錬金術の研究さえできれば、その他の事なんてどうでもいいと本気で思っていた。俺の邪魔さえしない女なら、別に誰と結婚したっていいと思っていた。だから、別にユリアンナでも問題ない。




そう、思っていたのに。




なんだこのダメージの大きさは。



絶対に、ユリアンナが俺から離れる事なんかないと思ってた。ユリアンナが他のヤツと結婚する事なんか、考えた事もなかったんだ。


俺の前で悪びれもせずにユリアンナにどうアプローチしようかと盛り上がる悪友ども。もしこの中の誰かとユリアンナが幸せそうに見つめあったりしていたら。


想像しただけで無性に腹が立つ。




これは単なる独占欲なんだろうか、それとも俺は実はユリアンナに惚れているんだろうか。いや、それにしてはユリアンナが傍にいてもドキドキしたりウキウキしたりはしない。残念ながら経験値がなさ過ぎてしかとは結論がでないが、少なくとも俺はユリアンナを手放したくはないみたいだ。




パーティーが終わってようやく自室に戻っても、驚いた事に研究する気がおきない。ユリアンナからせっかく竜の逆鱗みたいな超レア素材を貰ったというのに、俺の手はそれを素通りしてユリアンナからの別れの手紙ばかりをムダに触っている。


なんて事だ。研究が手につかないなんて。


一晩寝れば落ち着くだろうと布団に入ってみたものの、寝付けない。ユリアンナの顔ばっかりが浮かんでくる。眠れないまま空が白み始めてきた時には、あの竜の逆鱗に呪いでもかけられてたんじゃと疑ったくらいだ。



自邸でウジウジしていても無為に時間を過ごすだけだと悟った俺は、仕方なくこうしてユリアンナの邸へ向かったわけだが。





マジか。


ユリアンナの邸につくなり、若い男女がなんかこう、言い争ってるっぽいんだが。近づきにくいじゃないか、どうしろっていうんだ。


困ってしまって一旦は立ち止まった俺だが、二人の言葉に『ユリアンナ』という言葉が混ざったのを聞いて、再び歩みを再開した。二人はどうやらユリアンナの関係者らしい。もしかしたらユリアンナの近況が分かるかもしれないと思ったら足が自然に動いていた。



近づくにつれ、二人の言い争いもヒートアップしてきた。困ったな、真面目に話しかけづらい。


ついに話しを打ち切って女が逃げだそうと身じろぎした。男はそれを察知したのか素早く女の手首をとって叫ぶ。


「ユリアンナ様!まだ話は終わっておりません!」



…………ん?



今、ユリアンナって叫んだか?



じっと目をこらして女を見た俺は戦慄した。


あの女、ユリアンナか!



冒険者らしいレザーアーマーに編み上げブーツ、若草色のマント。長い髪の毛は頭の上で無造作に結ばれポニーテールになっている。顔は確かにユリアンナだ。ユリアンナだが。なんたる事だ、弱小だが貴族だというのにユリアンナときたらミニスカートからスラリとした脚が丸だしじゃないか!



目のやり場に困って視線を彷徨わせていたら、ユリアンナの顔の横あたりにいきなりちっこいドラゴンが現れた。



すごいな、ドラゴンなんか初めて見た。ちっこいけど、それでも感動だ。召喚?幻影?いや、契約獣?突然空間から湧いて出たように見えたけど、どうなってるんだろう。


いたく興味をそそられる。しかしいきなりユリアンナに会う勇気が持てなかった俺は、用意してきた丸薬を口にした。


錬金術で作り上げた、五感を高める丸薬だ。ユリアンナが冒険者なら、一緒にフィールドに出る事もあるかも知れないと、足手まといにならないように持ってきたものなんだが……まあいい。



もはやユリアンナはそっちのけで、ちっこいドラゴンと男……どうやらユリアンナの従者らしい男が舌戦を繰り広げている。なるほど、従者がユリアンナの狩りとやらに供をするかどうかで揉めているらしい。



連れてってやればいいのにと思って聞いていたが、とんでもない!ロードとかいうあの従者、いきなりユリアンナの頬に手を添えて口説き始めやがった!人の良さそうなメガネの癖になんて危険なヤツだ。



断れ!


断ってくれ、ユリアンナ!



願うと同時に、あのメガネ従者を呪ってやろうかと思った瞬間、今度はあのちびドラゴンがイケメンに化けた。


もう、何が何やら。

どうなってるんだよ、ユリアンナ!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ