誕生日のプレゼント
華やかだが優雅でどこか繊細な響きを持つ音楽。豪奢なドレスととりどりの花で飾られた令嬢達。これでもかと盛られた豪勢な料理、遠方から取り寄せたヴィンテージの酒、目にも華やかなフルーツと菓子。
自分の成人を祝う宴だと分かっていても、華やか過ぎてうんざりする。こんなところで思ってもいない誉め言葉を互いに応酬する事に何の意味があるのかいまだに分からない。
爵位はあれど借金するくらい貧乏なんだからこんなに無理して派手なパーティーにする事ないのに。次々に挨拶にくる客の波の切れ間で親父にそう愚痴れば、意外な答えが返ってきた。
「お前なぁ、いつの話してんだ。あの時融資して貰ったおかげで今は事業も順調だし借金など返し終えている」
え、そうなのか?
驚く俺に、親父はいかにも心外だという顔をしてみせた。
「貧乏くさいパーティーなどしてみろ、変に懐具合を勘ぐられるだろうが。第一これはそもそもお前がいい結婚相手を見つけるためのパーティーだろう、親として出来るだけの事はするさ」
珍しく父親らしい事を言ってくれるからちょっとジーンとしてしまった。まぁ、結婚相手は既に決まってるわけだから、前者の理由が主何だろうとは思うけど。
「そうだよ、リルフィード。うちも来月はユリアンナの誕生日があるからな、盛大なパーティーを催すつもりだ。まぁあんなお転婆だが、これで少しはおとなしくなるだろう」
ユリアンナが、お転婆?そんな印象はなかったが。学園でも令嬢然としてるし、勿論こういったパーティーでも……あれ?
「ユリアンナは……?」
「ああ、さすがに今日は家で休んでいるよ」
え、具合でも悪いのか?まさか、この前泣いて帰ったのが原因じゃないよな?
不安になって俯けば、大きな掌が俺の頭を優しく撫でてくれた。ユリアンナの親父さんは、穏やかで懐の広い人で、うちの大雑把な親父の友人なのが本当に不思議だ。
「気にする事はない、いつかはこうなると分かっていたからね。むしろハッキリとあの子に引導を渡してくれて良かったと思っているよ」
……あれ?何の話だ?
「ユリアンナに頼まれてね、これは君へのプレゼントだそうだよ。中に手紙が入っている。そうだな、多分今読んだ方がいい、少し奥へ戻って読んでおいで。なぁジョシア、いいだろう?」
「ああ勿論。その方がこいつもこのパーティーを有意義に使えるだろう」
親父達に追い出されて控えの部屋でユリアンナの手紙を開く。中から、早速とんでもない物が出てきた。
これは……ドラゴンの鱗。いや、その中でも本当に滅多に手に入らない『竜の逆鱗』じゃないか!あれほど高価な品はいらないと言っているのに、分からない奴だな!
少々腹を立てながら手紙を読んで、ポカンとなってしまった。
手紙には、これまで俺の婚約者になれるように頑張ってきたこと、迷惑になっていることにさすがに気付いて諦めると誓ったこと、謝罪とお詫びの品を贈る事が、簡潔に書かれていた。
え?なんだこれ。
あれ?俺とユリアンナって婚約者じゃなかったのか?
諦めるって……ユリアンナは、俺と結婚しないって事か?
いや待て、手紙の最後に竜の逆鱗は友人から譲り受けた物だから気にしないで貰って欲しいとか書いてある。普通だったら城が買える値段の物を友人が気軽にくれるわけないだろう。
これはあれだ、いつものやつだ。
ユリアンナは俺に高価な物を渡す時、怒られないようになのか何なのか、嘘をつく癖があるんだ。きっとこの手紙も、俺の気をそらすための苦肉の策に違いない。
思わずびっくりしたじゃないか、全くもう、ユリアンナのヤツめ。