悲しいけど
悲しいけど、もう決意するしかない。
ずうっと、ずうっと好きだった。
8歳で出会ってもう8年近く、リル様はずうっと私にとって憧れで、少しでもお役に立ちたい、尽くしたいと思ってきた方だった。
同い年だというのに、まだまだお子様な時から錬金術師という未知なるものを真剣に目指して努力する様は、私にとってはとてもかっこよく見えたから。
だから誕生日の度に、考えつく中で最高のプレゼントを渡してきたんだけど。
最初の年はまだマシだった。
あれはそう、リル様の記念すべき9才の誕生日。
リル様は食べ物も服も剣術も……錬金術以外なんにも興味がない事は一年近くの交流の中で分かっていた私は、とにかく少しでも喜んでもらえるように、錬金術に関係するものを渡す事にした。
一緒にピクニックに行く度に、リル様が草原で草や花を真剣につむのを見て、無邪気にそこらの草花を両手で抱えられるほど大量にプレゼントしたのだ。
リル様は「残念だけどこれは錬金術の『素材』にはならないな。気持ちだけ貰っておくよ」と困ったようにだけど笑ってくれた。「かわいそうだからむやみにつんじゃダメだよ?」とは諭されたけど。
苦戦し始めたのは二年めからだ。
それじゃあ『素材』になる草花をプレゼントしよう!そう思ったものの、まだ幼いゆえに外出を簡単には許して貰えない私は、使用人の力を借りて、吟味を重ねた『素材』をプレゼントした。
物は良い筈なのに、リル様は苦い顔。『僕のために屋敷の人に迷惑をかけるのは良くない』とまたも苦言を呈された。
それからは坂道を転がり落ちる一方で、その翌年は使用人に迷惑をかけないようにと、お小遣いをありったけはたいて買った錬金術の参考書は『領民からの血税をプレゼントにはたくなんて気が知れない』とため息をつかれ。
それなら自分の手でプレゼントを探そうと、お父様を説き伏せ冒険者登録までしてようやく用意したプレゼントは、『君の家が羽振りがいいのは分かっているが、ここまでくると嫌味だな』と苦笑された。それ以来、いまだに私が自ら採ってきているという言葉は信じて貰えていないらしい。
そしてついに今年。
自ら考えたプレゼントでは喜んで貰えない事を遅まきながら悟った私は、直接本人に聞いてみる事にした。元々魔法の才が人並み外れて高かった私は、いまや冒険者としても名を成している。今の私なら大概の物は用意できる、何でも来い!と意気込んでリル様にあたってみれば、返ってきた答えはまさかの「昼休み来ないでくれ」「時間が欲しい」だった。
こんなに悲しい事はない。
リル様の錬金術にかける情熱を知っているからこそ、これまでだって邪魔をしないように心がけてきた。今だって会うのはこの昼休みと公的なパーティーだけだ。
その昼休みすら、会いたくないと思われていたなんて。
もうダメだ。悲しいけど、決意するしかない。
部屋でひとしきり泣いて少し落ち着いた私は、お父様の部屋をノックする。リル様に最高のプレゼントを用意するために。