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それからの私達

リル様に抱き締められるという、夢の中でしかあり得ない出来事に、私の頭は完全にショートしていた。


ロードが何やら言ってくれてリル様がホールドアップ的に離してくれたおかげで本日二度目の気絶は免れたけど、あと3秒遅かったら気を失った自信がある。


とはいえ既に息も絶え絶え、思考力はすべてドレインされてしまったらしい。魂が半分ほど体から抜け出て雲の上をふわふわ歩いているような心地でまっすぐ歩けない私は、へたりこんで幸せの余韻を噛みしめていた。


幸せに浸っていたら目の端に明るい新緑の色が映って、さらに嬉しくなる。今日はいい日ねぇ、この色、大好き。まるでリル様の瞳の色みたい。



……ん?



「リル様⁉‼」



ど真正面に私の顔を心配そうに覗きこむリル様の顔があって、私は驚きのあまりズザザザザっとかなりはしたない音を立てて後ろへ飛びのいてしまった。


「うおースゲー!人間ってあんな風にも動けるんだなー」


呑気なコメントしてる場合じゃないのよリュー君!


「ユーリがボケっとしてるからだぞー?傷だらけのくせに回復魔法も使わねーから、なんかこいつ傷薬塗ってるみたいだぞー?」


言われてみれば、確かにリル様は薬を塗る体勢のままでちょっと驚いた顔をしている。


それに、サンドワームの酸で出来た腕の火傷は、いつの間にか綺麗さっぱり消えていた。これがリル様の手のひらにちょこんと鎮座している傷薬の威力だとしたら、効能が高過ぎる。「傷薬」なんて気軽に呼べる代物ではないレベルだ。



「ユリアンナ様、正気に戻ったのなら即回復魔法を使ってください、傷痕が残っては大変ですから。それからリュー、もうここには用がないでしょう?月光の湖に転移してください」


リル様の錬金術で編み出されたに違いない超・傷薬をマジマジと見ていたら、ロードに仕切られてしまった。うさんくさい笑顔でテキパキと指示を出していくロードには、なんだか逆らえない気持ちになるから不思議だ。



「ユリアンナ」



回復魔法を地味に唱えていたら、リル様が神妙な顔で私の前に現れる。酷く緊張したような滅多に見ない表情に、私の背中も自然に伸びた。



「これまで、本当にすまなかった!」


勢いよく下げられた頭にあたふたする。


「リル様⁉……いえ、リルフィード様、どうなさったんですか?本当に……」



こらえきれず、思ったままの疑問をぶつけてしまった。ションボリと肩を落としたリル様は、私を申し訳なさそうにみつめてから小さく息をつく。



「昨日から俺は驚く事ばっかりで……まるで天地がひっくり返ったみたいな心地なんだよ。これまでユリアンナが俺にくれたプレゼントも、俺がギルドで『ユーリ』に依頼した素材も、ユリアンナがこんな風に命がけで用意してくれた物だったんだな」


「……はい」


それはそうですが。プレゼントに関しては一応ちゃんと自己申告はしてた筈ですよ?信じてくれなかっただけで。


「君を疑って酷い事ばかり言ってごめん」


……なんですか、それ!


眉を下げてシュンとするとか、可愛過ぎる!

許す!許します!と叫んでしまいたい。今日はリル様の色んな表情、一生分見ちゃったかも知れない。



リル様の事はキッパリと諦めると誓ったけど、これだけ長年好きだった人なんだもの、この攻撃にキュンキュンしちゃうのはもう、不可抗力ではないだろうか。



「闘ってた時のユリアンナ、かっこよかったよ。本当に凄腕の冒険者なんだな」


いえいえ、そんな。リル様みたいに超凄い薬を作っちゃうような頭がないから、戦闘に特化しただけで。


テレテレと俯きがちに恥じらいながらリル様を覗き見る。



「本当にありがとう、ユリアンナ」



リル様は、照れ臭そうに微笑んだ。



仕方ない。


幻の蓮砂の華レベルの稀少品、リル様の照れた笑顔なんてものを見せられたら、勢いよく鼻血を噴いて倒れるのも致し方ない。


さりとて乙女にあるまじき過ぎる姿を、よりにもよってリル様の前で晒すなんて、本当にもう死んでしまいたいくらいの醜態だったのは確かで、私はその後二日も寝込んでしまったのだった。








「行って参ります」


あれから二週間。

私は今日も元気に狩りに出かける。


「今日は随分と軽装だな」


「春ですもの」


会ってすぐに視線を反らすリル様は、今日は軽鎧を着込んでいる。鎧姿もかっこいいです、リル様!


そう、実はあれからというもの、なんとリル様は私の狩に同行してくださるようになったのだ。リュー君はもちろん、なぜかロードまでついてくるようになったものだから、なんだか立派なパーティーを組んでいるような大所帯になってしまった。



リル様はあの日から何日も邸まで日参して私に謝り倒し、ロードとリュー君を説得し、さらにお父様とも話し合ったらしく、何故か冒険者の資格までとってしまった。


ちっとも振り向いてくださらなかったリル様が、自ら一緒に行動しようとしてくださるのは素直に嬉しいけれど、リル様の研究にあてる時間が削られると思うとそれも心配で。リル様の人並外れた才能を無駄遣いするのはいただけないと思う。


そう主張してみたら、リル様から一笑にふされた。


「これが以外と錬金にも役に立つんだ。思わぬアイテムが手に入るってのもあるが、使われる環境も必要なものも自分が体験すれば分かりやすいし、アイディアも閃きやすい」


そんなものか。


「何より、俺は何でも思い込みで判断する癖があるからな。色んな人や魔物やクエストで経験を積んで、知見を広げる事が今は重要なんだと思う」


なるほど、と私はひとつ首肯いた。だからギルドのおじさん達にも積極的に話しかけたりしてるのね。以前のリル様から考えると違和感があると思ってた。



「半年、猶予を貰ったんだ」



いきなりのリル様の発言に、私は小首を傾げる。



「俺のこれまでが酷かったからな。半年ユリアンナの近くで行動を共にして、それでユリアンナが俺を好きでいてくれたら、改めて婚約者にしてくれないかって」



「えっ……」



それって。



「ちょっと!条件を端折らないでくださいよ!旦那様他にも仰いましたよね?貴方が他の男よりもユリアンナ様を幸せに出来ると周囲が認める事、言っておきますがこっちの方がかなり厳しい条件なんですからね」


「だよなー、俺だってそう簡単には認めねーからなー?」


「分かってる、だがそっちは俺が頑張るしかないだろう。でもユリアンナにもちゃんと分かってて欲しいからな」



唖然とした私の手をぎこちなく取って、少し言いよどんだ後こちらを窺うように目を合わせてくるリル様は、若干顔が赤いようにもみえる。このところ、前には絶対に見せてくれなかったような表情との遭遇率が高過ぎて、かなり心臓に悪いんですけど。


私の心臓が激しくジャンプしている事も知らないで、リル様は顔を近付けてくる。



「ユリアンナ、君に婚約を諦められたほどバカな俺だけど、もう一度チャンスをくれないか?」


「あ、あ、あの」


顔に熱が集まってしまって、頬を押さえたまま言葉がうまく出ない。


「……俺、君がとても大事だって、やっと気付いたんだ」



恥ずかしそうに小さな声で囁くリル様。



かつてない幸せに、もちろん、私がその場で気絶した事は言うまでもない。

これで完結です。

最後までお付きあいいただき、ありがとうございました!


完結したので感想欄を解放します。

癖の強い子達だったので、色々ご意見あるかもですが、ご自由にお書きください。


時間は執筆に充てたいので、お返事はご容赦くださいね。

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