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まさか

まだ何か言いたそうなリュー君を急き立てて、ギルドを出ようとした時だった。



「ユリア……ユーリ!」



あり得ない声が聞こえた。


いやいや。

そんな筈がない。


一瞬もしかしてと期待しかけた自分に、しっかりと言い聞かせる。


そうよユリアンナ、こんな所でリル様の声が聞こえるなんてあり得ない事でしょう?そう、例え偶然居合わせたとしたってリル様が声をかけてくれる筈がないんだから。だって学園でさえリル様から声をかけてくれる事なんて一年に一度あるかないかの快挙だ。第一、リル様だったら私を『ユーリ』なんて呼ぶ筈がないわよね?



そうね、と自分で納得してちょっと恥ずかしくなってしまった。ついに空耳まで聞こえるようになったか……もう病気のレベルだと思う。



それでも空耳を認めてしまうのが情けなくて振り向けずにいたら、なんと声が近づいてくる。もしや空耳ではなくリル様ばりの美声をお持ちの方に話しかけられているのかしら。


恐る恐る振り向けば。




「…………‼‼‼」







「ユーリってば!」


「ぐあっ」


額にものすごい衝撃を受けて、思わず淑女らしからぬ声がでた。


「目ぇ覚めたかー?」


「ちょっと!ユーリが脳震盪起こしたらどうするんです!」


お、乙女の額に手加減ゼロのデコピンとか……!リュー君なんかロードに正座で怒られてしまえばいい!


涙目でリュー君を見上げれば、リュー君は親指でクイクイとあらぬ方向を差す。親指の先を視線で追って、また固まった。


「今度は立ったまま気絶すんなよー?」


リュー君はのんきに言うけど。

いやいや、気絶、仕方ないと思うよ?


だって、リル様がこっち見てる。だって、なんか心配そうにこっち見てるよ?


「大丈夫か?ユリ……ユーリ」


しゃべった!幻じゃなかった‼

なんと私の心配をしてくれている‼


「リ……リル様」


感激のあまり涙目で呟いてしまってから、はっとした。もう私からの手紙はお読みになった筈、成人された上もはや婚約者になる可能性が潰えたからにはもう愛称でお呼びする事もないと理解していたのに。


「リルフィード様、ご心配ありがとうございます。お恥ずかしい所をお見せしてしまって」



そう言って微笑んだら、リル様は何故か困ったように眉を下げた。



「ごめん、ユーリ。俺が悪かった……その、少しでいい、話をさせてくれないか」


なんと‼

な、何があったんですかリル様。そんな弱ったみたいなリル様、本当に初めて見ますよ?もしかして、私と婚約しない事になったからってお父様達からきつく言われたりしたのかも。


申し訳ない気持ちで口を開いた途端、目の前に壁が出来た。


「お引き取りください」


「ロード?」


私とリル様の間に割って入ったロードは、リル様から私を隠すように立ちはだかったまま、どす黒いオーラを放っている。


「すでにユーリとの縁は絶たれた筈。わが主のお心を乱すのは、もう終わりにしていただきたいのです」


キッパリとロードが言えば、横から「そーそー今さら何なのさ」とリュー君が加勢する。いつもは口喧嘩ばかりしている二人なのに、こんな時だけ息が合うってどういう事?


「二人とも、リルフィード様に失礼よ」


やんわりと諌めたらロードは悔しそうに黙りこんだ。ただし、ドラゴンであるリュー君には残念ながら格とかは関係ないわけで。


「ふん、知ったこっちゃないね。だいたいいっつも失礼なのはリルサマの方じゃんか、ユーリを泣かしてばっかでさ。何話したいんだか知らねーけどロクな事じゃねーぜ、多分。あ、そうか、今年はまだユーリがやったプレゼントにケチつけてねーもんな。わざわざケチつけに来たのか?ヒマだなー」



ひいぃぃぃぃ!と悲鳴が出そうになるのを、すんでの所で抑えた。リュー君、いくらなんでも言いすぎ……!でも本当にそうだったら地味に悲し過ぎる。色んな意味で予防線を張るべく私は慌てて謝罪の言葉を口にした。



「リュー君!何て事言うの!リルフィード様、申し訳ございません!」


「あ……いや、これまでの俺の態度が原因だから」



予想に反し凄く複雑そうな顔をして、リル様が項垂れる。

いや、本当にどうしちゃったんですか、リル様。毒舌が一切ないとか逆に怖い。いつも堂々としてて、研究の事しか考えてなくて言葉にも気を配らないのがスタンダードのリル様が……。



「きもっ!悪いモンでも食ったんじゃねーのか?とにかく、もうユーリに近づくな!竜の逆鱗、お前ユーリから貰っただろ?あれは手切れ金なんだからな、分かったらとっとと帰れ!」


「いや、それなら返すよ」


胸元をごそごそと探るリル様。


「バカヤロ、簡単に言うな!あれ剥ぐのめっちゃ痛かったんだぞ!すんげぇ貴重なお宝なんだぞ?ありがたく受け取って、そしてユーリに二度と近寄るな!」



「いや、やっぱり返す。だから少しだけでいい、ユーリと話す時間をくれないか?自分勝手な思い込みでユーリの事を傷つけて来た自覚はある。謝りたいし、今さらだがユーリの事をちゃんと理解したいんだ」


悲痛な面持ちでリル様が懇願している。

あり得ない、やっぱりこれは夢だ。こんなに自分に都合のいい夢を見てしまうとは、私の未練がましさときたら。

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