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泣かせてしまった……

ユリアンナの大きな目から、これまた大きな涙が滑り落ちる。


「え……」


なんで、泣いてるんだ?

初めて見た彼女の涙に、一瞬思考が停止した。


「ごめんなさい」


自分の頬を伝う波を慌ててハンカチでおさえ、ユリアンナは気丈にも顔を上げる。


「……分かりました、明日からは参りませんわ」


そう言って悲しげに微笑むと、ごきげんよう、と一言残しあっという間に自分の教室に帰って行ってしまった。



「お前サイテーだな!」


「あんまりですわ」


「あれはない」


「ユリアンナちゃんが可哀相だろう」


「謝って来い!」



ユリアンナが去ると同時に、何故か周り中から責められてしまった。教室中の視線が痛い。そもそも俺、あのユリアンナが泣くほど酷い事言ったか?



思い起こせば数分前、ユリアンナが今年の誕生日プレゼントは何がいいかと聞いてきたんだ。ユリアンナはいつも俺の誕生日に並々ならぬ意気込みで挑んでいるみたいだが、別にユリアンナから貰いたい物なんかない。必要な素材は冒険者ギルドに依頼すれば手に入るし、いくらユリアンナの家が裕福だとはいえ高価なものを簡単に差し出されるのは複雑な心境になるからだ。



俺は錬金術に打ち込む時間さえあればそれでいい。だから「別に何も要らない」と、そう答えた。


それでもユリアンナが食い下がってくるもんだから、素直に時間を所望したただけだ。今は丁度研究が佳境に入っていて、効率のいい配合がもう少しで見つかりそうなんだ。


「ああ、じゃあ昼休みに毎日来るのを止めてくれ。とにかく時間が欲しいんだ」



……やっぱり、泣くほど酷い事は言ってない。第一ユリアンナはいつだって俺の発言をあさっての方へ曲解する癖がある。当の誕生日プレゼントすら、高価な品はいらないと毎年言っているというのに、年々質があがって怖いくらいだ。



とにかく、今回はユリアンナには婉曲迂遠に言っても通じないと思ったからはっきりと所望するものを伝えただけだ。少なくとも、いつもの方がよっぽど酷い事を言っている自覚がある。


そう呟けば「だからだよ!みんな常々ユリアンナちゃんが可哀相だと思ってたんだ!さっさと謝って来い!」とさらに叱られた。しぶしぶ腰を上げたところでチャイムがなったから、放課後でいいかと間をおいたら、その間にユリアンナは帰ってしまっていた。……不覚だ。




翌日ユリアンナが学校まで休んだもんだから、悪友達から責められること責められること。「婚約者だからってあんまり調子に乗ってると愛想尽かされるぞ」とまで言われた。


……別に俺が望んで婚約者になったわけでもないんだが。元はと言えば親父がユリアンナの家から借金してるからだし、ユリアンナが俺を気に入ったからだ。ある意味借金のカタだと言っていい。子供の頃はそれが不満だった。


それでもユリアンナは邪険に扱っても小犬のようにいつも寄ってきて可愛かったし、俺の錬金術への情熱を汲んで必要以上に時間を拘束しないから、今となっては婚約者である事に不満があるわけでもない。ただ、あんまり素直に好意をぶつけられると悪友達の手前、照れがあるというか……つい邪険にしてしまうだけだ。



朝からおせっかいな奴らが俺の元に来てはユリアンナへの心配と俺へのちょっとした忠告をして去っていく。錬金の事を考える暇がちっともない。ああ、こんな面倒な事になるくらいなら、毎日昼休みにユリアンナと一緒に飯食ってちょっと話す方がマシだった。


どうせ明日は俺の誕生日だ。パーティーで嫌でも顔を合わせるわけだし、その時にちゃんと謝ろう。何がそんなに傷ついたのかよく分からないが、俺だって泣かせるつもりじゃなかったわけだし。



そう、その時俺はまだ良く分かっていなかったんだ。俺のこれまでの発言がユリアンナに与えた影響も、それが何を引き起こしていたのかも。いや本当に、知らなかったんだ……。

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