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第一節「入学」

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第一話改稿しました。

アームズウェア、人間装着型のパワードスーツ。その雛形が作られたのが今から38年前。当初の開発経緯は宇宙飛行士の船外活動服であった。それがなぜ競技種目、とりわけ“空飛ぶ服”になったかについて。AWの翼に用いられる素材は日の丸工業という主に建築材を製造する会社が開発したもので特殊繊維構造のファイバーカーボンは翼として用いることでかつての15倍の揚力を持つことがわかった。これによりAWのコアブロックの重量をも支えることが可能になり、また大手自動車メーカー、主にフォーミュラマシンのエンジンを開発していたCefranチェフラン会社CFCチェフランフォーミュラクリエイティブの新型エンジンがAWに最も適していたこと、つまり別分野の新技術を重ねあわせた結果AWという新時代の技術の覚醒を促したことになる。

空飛ぶ宇宙服であるAWはその用途によって様々な形状に分類されるがそれら派生系をまとめてAWと呼称する。主に重機並みのパワーがいる作業をAWが賄うことで建設、発掘の効率化が得られることが功績として挙げられるが昨今ではAWを競技種目としたプロスポーツが若い世代を中心に爆発的に人気である。そして、、、

「獅童、そこまででいい」

桐生の言葉で燐は読むのをやめた。席に着く燐にリズがにやつきながら声をかけてきた。

「最初のほうは頑張って英語だったのに途中で諦めちゃったのお?燐」

「しょうがないだろ、専門用語と固有名詞の連発でそれどころじゃなかったんだから」

仏頂面に燐が切って返す。

「まあそうだとしても入学したての頃よりかは英語うまくなったんじゃない、それもこれもわたしのおかげかな」

「はいはいそうですリズさまのおかげでございます」

「あれ、珍しく素直じゃない」

「俺はもとから素直かつ真面目で誠実な優等生だっつうの」

「あれあれ、この子は一体だれなのかな、私の知ってる燐はどこに言ったのぉ~」


「おいこら、そこで話し込んでるバカふたり!!」

ギク

「そんなに口を動かしたいなら二人仲良く5ページずつ獅童は英語、リズベットは日本語で読んでもらおうか」

「「すいませ~ん」」

肌寒さはすっかり息を潜めひだまりの陽気が遠くない夏を告げていた。






「ない?ないって名前がですか」

この瞬間、少年を人生で最大の衝撃が襲った。

春うらら、希望芽吹く季節誰もが希望と期待を胸に新たな時を刻む、わけではない。

現に少年獅童燐はいままさに絶望の淵に立たされていたのだから。

眼前にみえる大きな学舎。自分の横を喜々として闊歩していく青草たち。目の前の校門を超えた先では卸たての学生服を見せびらかせたいがため跳ね回る初々しい姿、今の燐には目の毒だ。

その校門を境にしてあちらとこちらではまるで別世界のようで。線一本引いただけで残酷なまでに世界は豹変する。

少年は自身が彼らの仲間になれないことを今しがた、たった今知った。

「もう一度言います。獅童燐です。本当にありませんか」

「何度も確認しましたが『シドウリン』という名前は今年度の入学者名簿には載っていませんね」

受付係のお姉さんはこともなげにいう。

「手違いの可能性もありますので一度教務部に問い合せてみますね」

「お願いします!!!」

燐は前のめりに手をついた。鬼気迫る迫力だった。



獅童燐は今年から高等学校に通う予定の16歳の少年である。倍率何十倍といわれるこの碧園(あおぞの)学園の特進科入りを目指しこれまで惜しみない努力と気力を勉学に注いできた。そして、念願の合格通知を受け取ったのが数週間前。晴れてこの「碧園学園」の入学資格を得て本日入校式に趣いたのだった。親元を遠く離れ西の故郷に別れを告げ単身、輝かしい未来を夢見てここまで来たというのにいざ入場受付を済まそうとしたところ合格の事実はないと知らされた。目の前の未来絵図が今、音を立てて崩れていく。



「獅童さん、獅童燐さん?」

自身の境遇を振り返り呆けていたためか名前を呼ばれてもすぐには気づかなかった。自分の名を呼ばれ現実に引き戻される。

「は、はい」

「教務に確認したところ、補欠合格者リストのなかに名前があったそうですが心当たりは?」

「補欠?ですか」

「はい。合格通知書にも明記されていると」

「そういえば通知書は受け取って家族が読み上げたきり自分では一度も目を通していませんでした。すいません、、、」

「そうですか、、、」

「そうだ、そこの電話お借りしてもいいですか」

燐は受付横に置かれた固定電話を指差す。

受付係は一度逡巡してから燐に受話器を差し出す。

「ええ」

Trurururuururururu

流れる呼び出し音が一巡するたびに不安や焦りがよくわからない感情になって膨れ上がる。

「もしもし獅童ですが、どちら様ですか」

「もしもし、亜美か。おれや」

「あんちゃん?なに?どないしたん?」

「おかんは?はよ代って」

「おかあちゃん、この時間はいつもパートやろ?」

「まじか。じゃあ亜美でええわ、おれの合格通知、ある?」

「あんちゃんの合格通知って多分神棚に置いとぉ思うけど」

「せやったらはよとってきて」

「ようわからんけど、そのまま切らんと待っといて」

電話口のむこうから忙しない足音が聞こえる。

「あんちゃんあったで」

「なんて書いてる?」

「難しい漢字多くてわからん」

「なんでやねんな。じゃあ「補欠合格」ってだけどっか書いてない?」

「待って・・・えっとな「この度、獅童燐さんをなんとかかんとか・・・補欠合格とし本校にお迎え致します。補欠合格の詳細につきましては別紙さん・・・」」

そこまで聞いて受話器を耳から離した。


「いかがでしたか?」

無言で頷く燐。

白い霧が燐を覆いそして彼は黙りこむ。


「補欠ってことは欠員がでれば、、、ですよね?」

「今年の辞退者は0、ナシだそうで」

告げられた事実、項垂れる燐。ようやく知る自分の現実。

脳が考えることを放棄しかけたその時。

「君が、獅童くんかい」

声の方へ顔を向ける。人影の向こうから日が照らす、逆光で顔が見えない。

「獅童くんでいいんだよね」

二度目の呼びかけで燐はハッとする。

「はい、獅童燐です」

「私は教務部の五十嵐という、ついさっき君の話を聞いてね。いやあ今回はすまないことをした。こちらも補欠合格者への後日通達を疎かにしてしまってね、欠員もでなかったもので」

言葉尻、燐から目をそらす五十嵐。

「あの、僕いまさら帰れと言われてもそういうわけにはいかなくて」

「わざわざ遠くから来てくれたそうじゃないか、そうか、今回は君だけのミスじゃない、なんとか穏便に解決できないものか」

五十嵐は顎に手をあて考え込む。

「一応、学園長には話を通してあるんだ。直接なんらかの処置を高じてくるとおもんだけれど、一緒に来てくれるかい」

「はい」

身を翻し歩を進める五十嵐に続き脱魂した重い体をひきずり燐は校門をくぐっていった。

綺麗に設えられた絨毯敷きの廊下は土足で歩くことに罪悪感を覚えるほど立派だ。

「綺麗ですね」

「まあね、西洋かぶれとも言われるがそれもまた一つの自慢でもあるからね」

沈黙を嫌いどちらともなく話かける2人。とりとめのない会話が嫌な空気を中和する。

そうこうして学園長室と書かれた札が掲げられた部屋の前にたどり着く。

2回トントンとノックをして返事を待たずに取っ手を回した。

「学園長、ご案内しました」

無遠慮に中に入る五十嵐に続いて燐が入ると窓を背にして男性が立っていた。窓の外を見ていた男性は「ご苦労さま、五十嵐くん」

と労いの言葉をかける。

軽く会釈だけ済ますと燐を部屋に残し五十嵐は退出してしまった。またしても知らない人と2人きりになってしまい借りてきた猫のように縮こまってしまう。燐の緊張を察してか学園長が声をかける。

「君が獅童、燐くんか」

「は、はひぃ」

恥ずかしくも緊張で声が裏返ってしまう。

「す、すいません」

「怖がらせてしまったか。まあそこに座って」

応接用のソファに座るよう促される。

「失礼します」

学長は戸棚から何かを取り出すと燐の対面のソファに腰掛けた。

「災難だったね、いやこちらの落ち度でもある。すまなかった」

そういって手に持ったグラスに水差しの中身を注ぐ。

「緊張しただろう、気にせず飲みなさい」

もてなしに戸惑いつつも、緊張でカラカラの燐は余計なことを考えずグラスに手を伸ばした。

「普通は事前にわかるものだろうけどね。ただうちは諸々の手続きを入学式後に行うのが常でね。といっても私も新任なんだ」


「そうなんですか」

「今年から前園長の叔父にかわってね。そういう意味ではわたしも一年生ってことだ」

グラスを置き、改めて学長の顔をまっすぐ見据える。しっかりした眉、若くて柔和な顔立ちに優しそうな印象を受けた。

「本題だけど、今回は本当にすまなかった。それで考えてみたんだが君も帰れと言われて変えるのは本意ではないだろう」

「はい、もちろんです」

学長の言葉に被さるように燐は肯定した。どうにかしてでもここに残らなければ。


「そこでだ折角私が学長になったわけだし初っ端から特例を出してみてはどうかなと、

職権濫用と言われるだろうが体裁を整えれば誰も文句は言うまい。無論皆が納得する方法を提示するがね」

「ホントですか!?します!なんでもします!」

「せっかちだな君は、肝心の中身を聞かなくてもいいのかね。実は長年ここに勤めていた、、、いかん!もう式が始まる時間だ。すまないね、詳しい話はあとにして、とりあえず君は教務部へ行って制服に着替えなさい。さっき君を案内した五十嵐くん、彼に全部頼んであるから」


そのあと何度も何度もお礼の言葉とお辞儀を繰り返し燐は学長室を後にした。しつこいほどの感謝の波に窒息しそうになっていた理事長。燐が退出した後、ボスンと音を立てソファに座り込む。

「さてさて、初日から落ち着かないね」


講堂の生徒の中に燐の姿もあった。

言われたとおり教務に行き言われたとおり制服に着替えまたまた言われたとおり生徒のなかに紛れ込んだ。

「私はここで。君はあそこの空いている席に座り給え」

あらためて五十嵐に礼を述べると、そろっと空席に腰を落とす。どうやらまだ開会まで間があるようだ。

周りの生徒はひそひそと談話を楽しんでいた。皆ウキウキと輝いて見える。聞き耳を立てるとその多くが外国語、中学時代秀才だった燐でさえところどころ理解するのがやっとだった。早くも受験英語と本場の英語の壁に気を揉まれる。

そうこうしてようやく入学式が始まった。

壇上に登って行くのは学園長。自分は今しがたあの人とふたりきりで面会していた。妙な気分だ。同じ目の前でも個人として接するときと客席からとでは別人のような風格を漂わせる。仕草、言葉そのすべてが堂々として着任したてとは思えない。


「皆さん、ご入学おめでとう、碧園学園へようこそ!!ご存知だとは思いますがこの学園はAWの専門知識、技術を学ぶために設立されたAWの特殊訓練校です。その目的はいずれ世界規模で活躍できるAWのスペシャリストを育成することにあります。

今やAWは産業、開拓、娯楽いろんな分野で用いられ特に花形なのがAWをプロ競技としたAWリーグでしょう。このなかにはプロのAW夢見て入学してきた方も多くいると思います。本校のために故郷をあとにした人もいるでしょう。未開の地での不安や期待は計り知れないでしょうがかくいう私も学園長の職を継いで日が浅い身、皆さんと同じ一年生ということで一緒に頑張っていきましょう」

学園長の挨拶が終えると興奮気味の拍手が飛んでこの会場の熱量を肌で感じることが出来た。しかしそのあとはどこの学校でも見る入学式らしいありふれた内容が進行、思わずあくびがでるほど退屈なものだった。

「それでは、最後に在校生精鋭による空中演舞をご観覧下さい」

司会の言葉に眠たげな会場が一瞬にしてざわつく。空中演舞、ここにいるものの多くはこれを期待していたといっても過言ではない。それは燐も含めて。この学校がなぜ全世界的な名門校なのかそれはAWアーマードウェア、高性能マルチプラットスーツの実地カリキュラムが取り組まれている世界でも数少ない学園の一つだからである。AWの専門知識を学べる学校は他にもある。しかし実地訓練となると話は違ってくる。AWは一機につき車一台分くらいの市場価格であるためそれを数を揃え訓練に回すとなると桁外れの資本が必要となる。この学校の歴史はおいおい説明するがつまりは日本においてAWに乗れる学校はここ碧園学園だけということになる。


生徒たちのザワつきが収まらぬまま講堂の天井がゆっくりと2つに割れていく。そこから覗く澄んだ青空に一瞬目を細めるとまたしてもアナウンスが流れる。

「これから在校生による空中演舞をはじめます。安全には十分配慮していますが新入生の皆さんは決して立ち上がらないでください」

アナウンスの終とともに舞台袖に控えていた吹奏楽団が壇上にひしめき円舞曲を奏ではじめた。そちらの音色に気を取られていると、今度は上空から空気を震わす音が。一列に固まった鉄の塊が、屋内へ飛び込んできた。そして生徒の頭上3メートルくらいの高さで停止すると、軌跡を描くように舞い始めた。渡り鳥のような優雅に隊列を形成して、空中パレード式典用の飾り付けがさらにAWを華やかさを引き立てていた。演舞が終盤は、隊列がゆったりとしたスピードで新入生の周りを超低空飛行でぐるりと周回し、そのまま抜けた天井から飛び立っていった。そして最後の一人を見送ったのを確かめたように、そこで演奏は終了た。つかの間の静寂の後、どこからともなく拍手がうまれ、つづくようにそれは大きな波になって会場を包んだ。熱にうあなされたような興奮を会場の全員があ共有しているようであった。ただ見ているだけだった燐も、心の底から感動し、この学園に入学できた喜びをかみしめていた。


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