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自称『勇者』が革命します!  作者: ミミ@2~4巻エルフさん出しました!
第6部:自称『勇者』が貴族に怒る!
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0.自称『勇者』が役人を怒る!

 ――貧弱だった。


 ヒーローを知り、ヒーローに助けられた彼は、自然とそうなりたいと願った。

 だが、彼には適性がなかった。

 大きくなるに連れて、同い年の少年たちと比べ、どうしようもなく己の体格が細くにしか育たないと理解することになる。


「武器を覚えよう」


 剣道を始め、弓道を始め、他にもいろいろと。

 しかし、そのいずれにおいても、彼は並に満たない才能しか示すことはできなかった。

 彼は、戦うことに向いていなかった。


「ちびすけ、お前莫迦だろ?」


 凹む彼に、本物のヒーローは容赦がなかった。

 涙ぐむ彼を見て、本物のヒーローは厄介そうに頭をかく。


「大体だな、お前がヒーローだというオレは何をしたよ? 剣を振り回したか? 弓矢を放ったか? 違うだろ?」


 はっ、と気付いて彼は顔を向ける。

 ニヤリと本物のヒーローは彼に笑いかけた。


「お前が誰かを救いこの世の理不尽を叩きのめしたいと願うなら、必要な物は武力じゃねえ。ここにある物だ」


 と、本物のヒーローは胸を叩いてみせた。

 その姿が、彼にとってはどうにも格好良く映った。こうなりたいと、彼はもう一度。強く思った。

 まあ、あればあるだけ選択肢は増えるがな、と本物のヒーローは彼の頭を撫でた。


 ――それがきっと二番目のきっかけ。彼が忘れてしまった二番目のきっかけ。









「俺は『勇者』として、こんなことを許す気はねえ!」

 ネーベル市への門の前。コータローは、気を失った少女を腕に抱えてそう啖呵を切った。

 コータローにとっては見も知らぬ少女であった。

 だが、コータローの『勇者』の挟持が見過ごすことを許さなかったのである。

「何かね君は?」

 (いぶか)しむように、四人集まった男たちの中で一番良い服を着た年かさの男がコーターローに尋ねた。

「何かね、じゃねえよ! どうして彼女を殴った!?」

「どうしてと言われてもな……ただの注意だ」

「注意だぁ!? 注意でどうして殴る!? 気絶させたら注意も聞けないだろうが!」

「まあ、気絶するまでとはやりすぎだが、心配は要らん。いさかいではない。お前も次からは気を付けなさい」

「へえ、失礼しやした! そちらの兄さんにも迷惑かけやした!」

 と、年かさの男の周りに居た筋骨隆々とした大男たちが謝った。

 それで義理は果たしたと、年かさの男はアゴで指示をして、大男がコータローの腕の中に居る少女を受け取ろうと手を伸ばした。


「そうじゃ……ねえだろ!」


 コータローは少女を渡さぬようかばい、吐き出すように叫ぶ。

「はぁ……」

 まだか、と年かさの男はため息をひとつ。

「長時間待たせている君たちに迷惑をかけたことは謝ろう。順番の便宜までは図りかねるが処理を早めるよう働きかける。これでよしとしてくれないかね?」

 うんざりとした目に口調ばかりの慇懃さが。

 騒ぎにかこつけて市内に早く入りたいだけだと決めつける態度が。

 そして何より――気絶しているというのに少女に気をかける素振りもないことが、コータローの神経を逆なでした。


「いい加減にしろ! 彼女をなんだと思ってるんだ!」


 と、激したコータローの袖を引く手があった。

「コータローさんコータローさん」

「アリサか。どこに行ってたんだ! こんなときに!」

「コータローさん、少し落ち着きましょう。わたしは何があったのか聞いて回ってきたところです。わたしたちは部外者です。彼らの言い分を()()()()聞いてから判断すべきです」

「……っ!」

 さらにアリサへと激しそうになるのをコータローは呑み込む。

 アリサの言ったことにも理がある。彼らは現代日本とは比べ物にならないくらい貧しい世界で生きているのだから、話を聞いてあげなくては。そのように考えて、心を鎮める。

「……わかった」

「はい。それでこそ『()()』コータローです」

 と、アリサはコータローに微笑んだ。

 応えるようにコータローはアリサに力強く微笑み。男たちへと顔を向ける。


「――俺は『勇者』としてあなたたちに問いたい。なぜ彼女を殴る必要があったんだ?」


『勇者』らしく怒りを抑え、努めて冷静な言葉を選び、ゆっくりと。

『勇者』らしく悠然と、細かいことに動じない余裕を持って。

 コータローはそのように心がけて、年かさの男に問うた。


 ――その振る舞いが、相手から見たときどのように受け止められるかなど考えもせずに。


「ですから、彼女は自分が雇う見習いです。自分が頼んだ仕事を彼女はまっとうできなかった。ゆえに懲罰を与えた。何かひとつでも問題はありますか? ありませんね? では、自分は忙しいのでこれで。これ以上の茶番は結構です。行きますよ」

 年かさの男は不愉快さを隠そうともせず、コータローを睨みつけ一息に言い切った。

 そうして、護衛役の大男たちが驚く間に、年かさの男はさっさと踵を返し早歩きに立ち去り始める。

「あっ、お、おい!? おっさん! 待てよ! おいっ! おっさん! 陰険野郎! おいこら、聞いてんのかっ!」

 コータローは慌てて年かさの男を呼び止めるも、年かさの男も大男たちも止まることはなく。走って追いかけようにも未だ気絶し続けている少女を放っては置けず。

 結局、コータローはそのまま見送るしかなかった。




 男たちが姿を消したのを確認して、アリサは怒ってみせる。

「『()()()()()コータローを相手にこの態度。ひどいですね」

「あ、ああ……」

 コータローの自信なさげな返答に、アリサはさらに語調を強める。

「雇い主であるのに彼女を守らず、傷付け、そのことを指摘されたらバツが悪くて逃げ帰る。みっともない所業ですよね」

「……ああ」

 さらに、さらに。

「しかも、コータローに預けたままですよ? あんなに大男を引き連れていたのに、いざ正面から言われると怖くてしかたないのです。年端もいかぬ女の子を傷付けるなんて、悪いことだとわかりきっているから」

「ああ」

 アリサはさらに続け、

「理不尽なのです。『正義』がないのです。腹立たしいですね」


「――ああ! なんなんだ、あのおっさんは!」


 ついに、コータローからその反応を引き出した。

 アリサはそんなコータローに心からの笑みを送る。


「やはり、コータローはわたしが思い描いた通りの人です。コータローは『正義』のために怒れる人です。他人のために立ち上がれる人です」


「そ、そうかな……? へへへっ」

 コータローは頭をかいて、アリサの称賛に照れた。

 アリサは笑みを深くし、コータローの手をぎゅっと握る。体を近付け、背伸びして、顔を寄せて、吐息も当てる。

 一見すればキスでもねだるかのような姿勢。目もうるませ、頬も染めさせ、ちろりと舌をも覗かせる。

 そして、コータローの体が性的な連想に緊張し、思考が空白になった一瞬を目掛けて――



「あんな人をのさばらせておいていいと思いますか?」



 ――アリサは言葉を放り込んだ。

コータローの態度はどう見えたでしょうか?

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