4.リンゴさん、冒険する
遅くなりましたがギリギリ本日中
ちょっとだけ修正入りました。
「お、オレが何をしたぁ……」
「セクハラ」
「だから、セクハラってなんだっつーの!?」
全身痺れて悶えている教師モドキがまだ元気なので、電圧アップ。
「んぎゃらばばばば!?」
ははは。美少女様を舐めくさったセクハラ野郎に死を。
「……わたくし、リンゴだけは怒らせないようにしようと思いますわ」
「いいから、姫さんは今のうちにさっさと描いちまえって」
ニルが絵を描く時間をもらおうとしたところ、なぜかポチが描いたリンゴ爆乳バージョンを目ざとく見付けて大騒ぎした阿呆教師をぼっこぼこにすることになりました。まあ、時間は稼げたので結果オーライ。人的被害? この物体は人として認めないのでゼロです。
まあ、そんなこんなで無事に終了。
『学園』の外に出る実習だったので、少々の緊張もあったのだがここまでは何事もなく。あとは、一泊して教師随伴でぞろぞろ大勢で王都アスミニアに戻るだけである。
が、
「――改めて、ニルにお願いです」
薬草園に隣接して設けられた『学園』の宿泊施設。割り当てられたその中の一室で、私はニルに深々と頭を下げた。
「ええ、任せて欲しいですわ。リンゴにめくるめく一夜の思い出を――」
「さて、ポチ。行こうか」
「うっす」
「あああん! 冗談ですわ! 冗談ですわよぉ!」
うにゅーっとほっぺた伸ばしました。
仕切りなおして。
「リンゴ、ここまで来て水臭いことは言いっこなしですわ。わたくしもミケさんの友人のつもりですの」
「ニル……ありがとう」
「お礼を言われることではないですわ。友人なら当たり前ですの」
さて。
「じゃあ、ニル、ポチ。行こうか。――ちょっとした冒険に」
アスミニア王国の北東部には小さな川がある。
水量も少なく穏やかな川なのだが、その流れに生きる動植物は意外に多い。
小さな森もあり、かつては少量ながら良質なアーボの毛皮が穫れる土地として知る人ぞ知る場所であった。
ただ、それは『かつては』の話である。
「なんでも、農作物が不作だった年があって、その分を補填しようと村人が冒険者でも大勢雇ったのか森に居たアーボや他の肉食獣を狩り尽くす勢いで狩ったらしい」
夕暮れの中、私は魔法の光を作って周囲を照らす。
「彼らはそうして作ったたくさんのアーボの毛皮のおかげで、餓死者も出さず身売りも出さずにその冬を越えることはできた……が、少々やりすぎだった」
「どう……なったんですの?」
川岸に横たわる岩を超えるニルに手を貸す。
ニルが転げ落ちないように、ポチはその後ろから登ってくる。
「肉食動物が激減したことで草食動物が減らなくなった。減らない草食動物がまた交配してその数を爆発的に増やした」
それこそねずみ算式に、である。影響が出始めるまで数年とかからなかったと聞いている。
「結果、葉も芽も木の皮までもかじられて、あっという間に森から食べられるものは激減し、増えすぎた草食動物は一斉に餓死した。当然、周辺の町村は一斉に離散。保護された民も居るけれど……どれだけの被害が出たのかは正直、私にもわからないよ」
森の生態系は非常に微妙なバランスで成立している。
なので、もし人に都合良くなるよう手を加えるのならば、十分に計画を練って、頭数の調査を並行しながら慎重に行わねばならない。
それを怠り、目先の利益に走ればこのようになる。
「悲しい話……ですわね」
「それでもまだ良い方さ。わずかなりとはいえ、アーボたち肉食動物が残っていたから歯止めがかかった。アスミニア王国と『学園』が薬草園を作って管理に乗り出したから森の再生が始まった。……運の良い人なら、記憶にある故郷の森をもう一度見ることもできるだろうね」
それは『生涯のうちにもう一度は』という意味でだが。
「ポチー、そっちの明かりは大丈夫かい?」
「まだ大丈夫っす」
「ん、わかった。暗くなったら明かり増やすから余裕を持って言うんだよ? ハゲたって発光はできないんだからね?」
「僕はオヤジのようにはならねぇっすから! 大丈夫っすから! マジで!」
必死なポチはよしとして。
「それでリンゴは、ここまで何を採りに来たんですの?」
「――ミケの耳を戻すために必要な鉱物がこの辺にあるのさ」
欠損部位を再生する魔法の構築にようやく目処が立ったのは、ほんの二週間前のこと。
いくつかあった問題のうち、一番恐ろしかった拒絶反応の問題を解決する方法が見付かったのだ。
細かい理屈を省略していえば、私が研究しているのは『体を再生する方法』ではなく『凄い再生能力を持ったものを再生したいところにくっつける方法』である。
なので、厳密にいうと『本来の体ではないもの』をミケの腕の末端や耳の付け根にくっつけることになる。
そのため、拒絶反応が発生する可能性がどうしても否定できなかった。
「本来の体細胞との同期を魔法的に図る方法として電気回路における水晶振動子の圧電効果のように高い精度での安定した魔力発信を行う鉱物が――」
「……ポチさん、リンゴが何を言っているか理解できまして?」
「え、北部語だったのかこれ?」
……。
「えーと、うん、まあ、治療に使える凄い鉱物を発見したので、それを拾いに来たというわけです。はい」
校外授業を利用しニルに同行を願ったのは、私がニルの側を離れた隙に襲撃されないようにしたためである。
「それで、リンゴ。どこへ探索ですの? 廃坑かしら? まさか近くに巨大な怪獣の巣が!?」
「ないないないない」
ニルがいつもどおりに期待しすぎている。
「えっとですね。さっきも言った通り、私は鉱物を『拾いに』来たのさ」
だから、と私は身をかがめて、河原にある何の変哲もない石を手に取った。
「こういう石をね」
「簡単すぎですわよぉ……」
泣かれた。
どうしたらいいんですか。
「じゃあ、ポチ。こっちの袋がいっぱいになるまでよろしく」
「うっす」
「ニルは……どうする?」
「もちろん手伝いますわぁ……ううぅ……」
良い子である。
薄暗い中、黙々と石を集めるニルとポチを横目に見て、私とミケは本当に良い友人を得たものだとこっそり思う。
『学園』に入学して二ヶ月。
ニルと出会って二ヶ月半。
そして、王城に「三ヶ月以内に実現すべく動き出すこと」を要求する予告状が届いてから――もうすぐ三ヶ月である。
「……今度は守り切るさ、絶対に」
「リンゴさーん、でっけぇ方がいいっすか?」
「リンゴ、表面がすべすべしている方がいいんですの?」
呼んでくれた二人のもとに、ひょいひょいと駆け寄った。
生態系に配慮した正しい害獣の排除については、実はリンゴさんも以前に言及しています。
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