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自称『勇者』が革命します!  作者: ミミ@2~4巻エルフさん出しました!
第7部:リンゴさん、悪夢を見る
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1.リンゴさん、自称『勇者』を諦める

 殺意を持った敵対者が現れた場合の対処について、ニルたちに話したことがある。


「私の目が届く範囲内で身を小さくしていること。間違っても参戦しないように」

「うっす、姫さんとミケ姉は僕が守るっす!」

 すぱん、と私はハリセンでポチをぶっ叩いた。

「な、なんでっすか!? なんでっすか!? なんでっすか!?」

「私は『参戦するな』って言ったんだよ」

「で、でも、リンゴさんの横をすり抜けて、僕らの方にまで矢が飛んでくるかもしれないじゃないっすか」

「そうですわね。流れ弾はあって不思議ないものですわ」

 と、ニルがは肯いた。

「ニル、その点は心配しなくて良いよ、っと!」

 そう言って、私は()()()()()()ハリセンを振り下ろした。


「ぶっ!?」


 とは、()()()ハリセンを食らった声である。

「り、リンゴ? 今、何が起こったんですの?」

「簡単にいうと、ニルにはある程度以上の速さで近付く金属をそらす魔法をかけてあるのさ」

『敵意』だの『殺意』だのそういうものを感知する方法は思いつかなかったので、至極機械的に処理をしている。

 感覚としては、同じ極の磁石を近付けるようなもの。まあ、電磁気ではなく魔法なのだが。

 ともかくナイフにせよ剣にせよ槍にせよ矢尻にせよまともな武器は金属を組み込むため、タネを知らなければまず間違いなく発動するはずだ。

「だから、ポチ公が伸びてるーですか」

「あっ」

 二度()()()()ハリセンでぶっ叩かれたポチが伸びてた。ごめん。




 今はもちろん、あのときニルにだけかけていた防御魔法が私にもポチにもミケにもかかっている。

 なので、多少の攻撃は気にしなくて良いのだが……


「奥技、勇者裂風斬!」

「《氷柱盾》!」

 コータローが飛び込みながらかけてきた斬撃を、私は巨大な氷の盾を発生させて受け止め――


「俺は『勇者』だぁああああああ!」

「嘘っ!?」


 コータローは、そのままよくわからない掛け声と共に氷の盾を粉砕した。


「……アレ(氷の盾)、厚さ三十センチ近くあるってのに、どういう力してんのさ?」

 剣が特別製なのか、はたまたコータロー本人が見た目にそぐわぬ力持ちなのか。いずれにせよ、明らかに普通ではない。それこそチートなのだろう。

 私の防御魔法も、さすがにこんな常識外の攻撃は想定されていない。例えるなら「クッション用意したけど、これ一個持って新幹線に飛び込んだらやっぱ死ぬ」といった感じ。

「喰らえ、悪徳の魔女っ!」

「誰が悪徳の魔女さっ! 《魔力強度十倍》《石槍陣前》!」

 床板をひっぺがし、数十本の石の槍が私の前方に突き立つ。


「絶技、勇者防空斬!」


 しかし、その石の槍をコータローは一撃で叩き斬った。

「冗談でしょ!?」

 使った素材は校舎の構造材だが、魔力を通して強度を跳ね上げたのだ。切るどころか人間の力では傷を入れることすら難しいものだった。

 なのに、それをあっさりと――


「硬ぇえええ!? うっわ、俺こっちの世界来て初めて手ぇしびれたぞ!?」


 あ、いや、ちょっとは効いてた。

 長剣も無残に刃こぼれしていたが、コータローはそれを放り出すとすぐさまチートで日本刀を創り出した。

「心はサムライ、正義の志士――椎津光太郎、爆誕でござる! ふっふっふ」

 ドヤ顔して刀を構えるコータロー。当然、武士など知らないみんなの頭には疑問符が浮かぶばかり。どうしよう、コイツ恥ずかしい。恥ずかしすぎる。私が言ったわけじゃないのに私が恥ずか死ぬ。

「《水刃照射》!」

「どぉあ!?」

 恥ずかしいので即座に魔法でぶち折った。

「くっそー、武士の心が……。おい、魔女! 悪役なら変身シーンは待つぐらい常識だろ!」

 本気か冗句かは知らないが、わざわざ待ってやる必要もなし。私は立て続けに三条の水の刃を発射する。

「ちょ、待っ、うぉっ!?」

「コータローさん、大丈夫です。いちいち手をかざさないと狙えないようですから、落ち着いていれば避けられます」

「お、おお、アリサ、さんきゅ!」

 私は内心舌打ちした。

 攻撃を加えてコータローとアリサを離れ離れにすれば対話でコータローの誤解を拭えると思ったのだが、それを読むかのように――おそらくは読んで――アリサはコータローの背後を離れない。

 私の攻撃魔法は、基本的にマニュアル制御である。

 自動照準や追尾弾もあるはあるのだが……ターゲットを特定し、それについての情報を組み込んで『リンゴの書』に書き加えねば機能しないため、唐突な襲撃には対処しきれない。

 だから、どうしても『私が右手をかざした方向に放射する』『私の顔の向き、前方に半円を描くように発動する』というようなものを使わざるを得ない。

 ……それでも、せいぜいが長い長い詠唱でもってようやく不確かな一撃を放つこの世界の一般的な魔法より何倍も優れたものではあるのだが、優れた前衛と直接ぶつかるのはやはり分が悪い。

「リンゴさん、僕が行くっす」

「ダメ! ポチ、絶対に私の前に出ないこと!」

「で、でも、リンゴさん」

「言うとおりにして。お願いだから」

「う、うっす……」

 武器もないのに前衛を務めようとしたポチを引き戻す。

 いや、仮に武器があったとしても、あのとてつもない膂力を持つチート野郎相手に真っ向からぶつけて無事でいられる保証などどこにもない。☆『膂力』ルビ「りょりょく」

 歯がゆかろうし、ポチの男としての挟持を踏みにじったこともわかるが、それに構うだけの余裕がない。


「よそ見してると危ないぜ! 美技、勇者山麓斬!」


「君、それ(技名)適当に言ってるよね!?」

 長大な斬馬刀による力任せのデタラメな一撃を、床を材料に三重に生成した石の壁でどうにか防ぐ。

「はっはぁー! 俺ほどじゃないが強いやつと戦うってのは楽しいもんだなぁー!」

 コータローは子供みたいに目をきらきらさせて楽しそうに――かすめるだけで人が死ぬ一撃を繰り出し続ける。

 善意を利用されていると思しき彼をケガさせたくはなかったのだが、穏便な鎮圧は諦めた。

 できれば死にませんように、と祈りながら私は発動キーを唱える。


「《剣山招来》!」


 ガ、と一音。

 一瞬にして、私の前方五メートルほどが長さ一メートル弱の石や木の剣山で埋まり――


「無駄無駄無――うぇっ!?」

「コータローさん!?」


 と、剣山を切り払い、()()()()使()()()()()()()に踏み込んできたコータローは、バリバリと音を立てて踏み抜いて下階へと落ちた。

 立て直す時間は与えない。吐き気をこらえて開いた穴に駆け寄って、私はここまで使ってこなかった不可視の攻撃を選ぶ。


「《斥波》! 《大切断》! 《大切断》ッ!」


 もうもうと上がる土煙とホコリの中、叩き込んだその魔法は、



「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」



 という身の毛もよだつ悲鳴を生み出した。

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