君との距離と気持ちの交差
あの日以来、未来はまた、一段と明るくなり、可愛くなった。
自分の過去を話すことで、気持ちを楽にする。
俺も未来がいたから、乗り越えられた。
未来も、そうか??
乗り越えられるか??
「京介ー!!」
「おお、どーした?」
「今日さ、美術室に来ない?」
未来が言うには、新しい絵が完成したから見て欲しいとのことだった。
実はかなり、前にも見せてもらったことがあった。そのときの絵は、言葉もでないほどだったのを
今でも、覚えている。
「ああ、行く」
「そっか、じゃあ、放課後来てね」
「おお」
こうして、放課後は美術室に行くこととなった俺は妙にウキウキとしていた。
未来の絵は金賞を取るほどの美しいもので、見る人全てを絵の世界に踏み込ませる。
誰もが足を止める未来の絵は気持ちを表すものが多い、と友達から聞いたことがあったが
それは本当のことで、俺も最初見たときは何とも言えない感覚に襲われた。
楽しい、悲しい、切ない、怒り、喜び、このような感情を色や、鉛筆での書き方で現す。
未来は”感情”をもとにした絵を描く。
そんな彼女を尊敬する者や逆に妬む者もいた。本人から聞いた話では、絵に悪戯書きされたこともあったという。
授業中に、手紙が回ってきた。宛名は俺で差出人は....長谷川だった。
(なんで、俺なんだ?)内心思ったが、多分この前の話のことだと考えた。
隣には、未来がいる。
数日前に席替えをして、みんなが無理やり俺と未来を隣同士にした。
最初はお互いに赤らめたが、まわりが「照れてるってことは!?」と言葉を言った。
それを、遮り未来と俺は同時に「いい!!」と言ったことでこうなったのだ。
少しばかり、冷やかしが入ったような会話だった。
つきあっては、いないがまわりにはそう思われてしまっている。
なぜか。
とりあえず、未来に気づかれないように手紙を開く。
”この前は助けてくれてありがとう。ほんとに助かったよ。けどね、まだ関がしつこくて....それで
断る理由が無くて咄嗟に京介と付き合ってるから!!っていちゃって....”
ここまで、読んだ俺は目を点にした。
(勝手なこと言いやがって!!)
長谷川は、あのあとも関にしつこく言われたらしく断る理由を探していたという。
そして、咄嗟に出た理由が俺とつきあっているということだった。
続きを読んでみると”そしたら、あいつがだったら証拠って....。だからお願いがあるの!!
演技でいいから、嘘の彼女にしてくれない...かな?返事まってます”
こんな内容だった。
(なるほど、彼女は俺に嘘の彼氏になってくれということか)
ここで、深いため息をすると横から未来が俺に声をかけた。
「どうしたの?」
「い、いいや?」
ビクリとして体を震わせると、俺は手紙を制服のポケットにクシャクシャにして押し込んだ。
そして、見られないように長谷川に”話し合いをしよう”という言葉を書いたメモを通路をはさんで隣に渡した。「長谷川に」と言って。
しばらく経つと”じゃあ明日に”と書かれた手紙が回ってきたのだった。
放課後、俺は美術室へと向った。
ドアを開くと未来が立ち上がりこちらへと歩み寄る。
「京介、こっち」
手を捕まれ、どんどん奥へと行く。
案内されたのは美術室にあるもう一つの部屋。
「これだよ」
俺たちは布のかかった一つのキャンパスの前に止まった。
未来は、キャンパスにかかった布を引っ張るとバサッと音を立て布を床に置く。
「わ.....!!」
俺は目を見開いた。今までの絵とは違って未来が書いた絵には俺に似た人物が描かれていた。
見間違いじゃなければ、隣に一緒にいるのは多分....。
「これは....俺と....」
「そう、私」
俺たちは互いに向かい合うと微笑んだ。
笑ったおれだが、さっきのやりとりのことを未来に相談しようと思いついた。
「あの、さ長谷川って知ってるよな?」
「知ってるけど、どうしたの?」
「その、あいつな関ってやつにしつこく付きまとわれてるらしくてさ」
「うん」
ここで、動きが止まった。それは、長谷川がドアから覗いていたからだ。
よく見ると「話すな」と口が動いていた。
「どうしたの?」
目線を未来に戻すと、「なんでもない」と俺は言った。
すると未来は振り返り、ドアのところにいた長谷川に声をかけた。
「長谷川さん?」
彼女は、そろりと姿を現すと小さい声で何かを話す。
長谷川が言ったことは聞こえなくて首を傾げていると、
未来にはそれが聞こえたらしい、こちらに向き直った。
顔は下を向き表情は見えない。
「どうした?」
「....きあって...るの?」
言葉は途切れ途切れであまり聞こえなかったが、未来が泣いていることに気づく。
涙声だった。
「え?」
「...だったのに」
彼女はなにかを言って立ち去ろうと歩きだす。
「!!未来」
俺は訳がわからずに、未来の腕を掴んだ。
しかし、彼女は俺の手を振り払うと走って行った。
追いかけようと部屋のドアに向うと長谷川が立ちふさがる。
「どけ!!」
「だめ!!行かないで!!」
長谷川は腕を大きく広げ泣いていた。
「どうして!!」
「桜木さんに京介と付き合ってるって言ったの」
「は!?なんでだよ!!嘘だろ?自分が助かるために関に言った嘘だろ!!」
「確かに嘘だけど、桜木さんがいたらバレちゃうから....」
ここで、俺は長谷川の肩を掴んだ。
「なんで、今なんだよ!!」
「今しかなかったから」
彼女の真剣な眼差しに俺の言葉は止まった....。
この日から未来は、俺に話しかけなくなり、
あの笑顔も見せなくなってしまった。
縮まった距離は、もう二度と元に戻せないようなほど遠ざかってしまった。
ついに未来と京介の間に出来た長谷川という壁。
このあとの展開をお楽しみに!!