彼女の過去と涙
「バレた?」
「ああ」
明るい口調でそう言った未来。けれど、すぐにその明るさは消えてしまった。
目は、俯き俺の目を見てはくれない。
「俺は信頼したからお前に過去を話した、お前は信頼してくてないのか...?」
しばらく、未来はきつく口を結び、話すことを躊躇っていた。
「...俺じゃあ、お前の力に...」
「違うよ」
俺の言葉を遮った未来は、ため息をつく。
「話さなくちゃって、ずっと思ってたけど怖くて言えなくて」
彼女の声は震えていた。気づくと涙がポタリと悲しい音を立て、頬を流れていた。
「.......っ」
「!!」
俺は、未来を力強く抱きしめた。これ以上、彼女を見たくなかった。
悲しい顔をした彼女を。
「京介.....」
それから、彼女は落ち着きを取り戻すと、俺の腕の中から出た。
ベットの上に座って、小さく震えた声で話し始めた。
「私のお父さんも死んじゃったんだよ...京介のお父さんとは違うアレだけど。
お父さんはね、ある会社の社長をしてたの。けど、ライバル社がある日、言いがかりを付けてきた。
”その商品はうちのだ!!”って....最初はお父さんも資料とか、工場の人に証明して貰えてたんだけどね、そのライバル社は止めなかった。ついにはお金でお父さんの会社の人たちを操るようになったの。
それで、ほとんどの人はお金のためにお父さんを裏切り始めて、それでお父さんが作り上げた社会は壊れていった。会社の人たちは、どんどん仕事を止めてついには倒産に....。
お父さんは頭を抱えて一人で悩んでた。けど、数日後お父さんは部屋で首を吊って死んで....た」
彼女は、この苦しい記憶を捨てたくて仕方なかったはずだ。
なのに、なんで....俺に話そうと思っていた?
なんで、同情するようなこと....、いや、してたんだ。理由は違うけど、お互い父親を亡くした
娘と息子だから。
「ごめ・・・もしかしたら、私は京介を自分に重ねてた同じ苦しみを持った子供だから」
ふいに、俺は未来を見つめた。未来は目から溢れた涙を何度も拭う。
部屋には、彼女の鳴き声が響いた。「ごめん、ごめん」と何度も謝られたが、なんで謝られたかが分からない。俺に自分を重ねたことを謝っているのか?
それとも、今まで隠してたことを謝ってるのか?
「もう....それ以上、何も言わなくていい」
「....うん」
未来は俺の肩に頭を置き、小さく「このままでも、いい?」と呟いた。
俺が静かに頷くと、安心したように体が止まる。
しばらく、何も聞こえなかった。外からの音や、虫の音、ただ一つ聞こえたのは
お互いの心臓の音だった。
どれぐらい時間が経ったのだろうか。気づくと彼女の寝息が聞こえた。
寝てしまったようだ。
ーーーー俺は、未来の父親のことを考えていた。何を思って首を吊ってしまったか、未来を大事にしていたのか....そんなふうに思ってしまった。
ふいに、自分の父親の顔が脳をよぎった。意識がない間、何を見たのだろうか、天国だろうか、
それとも、家族を見たのか、今となってはもう聞けないし、覚えていないだろう。
もう....俺の父親もいないのだから。
小さく震えた体に反応して目から涙が出た。涙腺が緩んだように溢れた”悲しい涙”は
頬を伝う。雫は静かに床にポタリと音をたて落ちた......。
ーーーー「もう、大丈夫か?」
あれから、3時間経っていてもう夜の7時。
母に起こされた未来は、幼い子供のような顔をしていた。
目を軽くこすり、あくびをすると、目を見開いていた。
あのときの彼女の顔は、赤くなっていてすごく、可愛かった。
「うん、話したら楽になったよ」
「そっか....」
「ねえ、私のお父さんは....会社の人に」
言い終わるうちに、俺は話した。
「そんなこと言ったら駄目だ」
彼女が言いたかったことは多分”私のお父さんは会社の人たちに殺された”だ。
未来が”殺した”と言う言葉を使って欲しくないと思ったから、俺は言葉を重ねるように言った。
「......」
「分かったか?未来から、そんなこと聞きたくないから」
「うん、ごめん」
「送ってくよ」
そう言って俺は彼女の隣に立つ。未来は驚いた目で俺を見つめたが、すぐに明るい目になり
一言「ありがとう」と言った。
第七章はどうでしたか?
少し、短いですが
書いたことが伝わったら、とても嬉しく思います。