最も輝く星となれ! 〜捨てられたハスキー犬と少年の想い〜
少し前から犬を飼い始めた。実は少し前まで住み込みで犬と関わる仕事をしていたのだが、家の都合もあり仕事を辞めた。その時に飼いはじめた犬が今の犬だ。黒のラブラドール・レトリバーの女の子。今思えば俺の人生は小さい頃から犬と歩んできた気がする。とは言っても幼い頃の出来事なんて新しい記憶に消されて細かいとこまではなにも覚えていないのが普通だ。
でも、それらの犬達との思い出の中に、唯一決して忘れることの出来ない物語があるとすれば、それはあのシベリアン・ハスキーのリュウとのことだろう。
あれはまだ、俺が小学生に上がったばかりの頃、世間はいわゆるペットブームという波が押し寄せてきた最中で、特に大型犬であるシベリアン・ハスキーがよく流行った時代。どこの家にもハスキーがいるとまで言われたほどのハスキーブームでその狼のようなルックスと大型で強固なイメージがあったハスキーは人気の渦中にあった。
余談ではあるが、ハスキーと言えば北海道では犬ぞりレースなどで活躍している犬である。その力強い肉体は人間の心を魅了していた。また南極物語で知られる犬もハスキーである。ハスキー自体名前からも分かるようにもとが冬極の犬であるため冬の寒さに強い身体をしている。その反面夏には弱い。とは言ってもどの犬も基本的には夏には弱く冬には強いものであはあるが。ちなみに同じ大型犬でも忠犬ハチ公はハスキーではない。
そんな世間で人気があったハスキーではあったが、一方で子犬からは想像できない巨大な犬へと成長するということとその性格を理解せず飼う人が続出し、飼いきれない犬として捨てられていく現実があった。
そんな時だった俺があのリュウと出会ったのは――。
〜十数年前〜
「一番乗り〜!!」
まだ小学生にあがったばかりの俺は子供らしくとっても活発な子供だった。毎日学校にきては当時人気があったドッジボールをするために運動場の陣とりのため朝早くから登校していたのだ。一番乗りとは言ってもほとんど近差である。すぐに運動場はいっぱいになる。鉄棒で遊ぶもの、サッカーをするもの、縄跳びをするもの、鬼ごっこをするものなどでいっぱいになる。
俺もすぐに来た友達とドッジボールを楽しむ。そうやって朝の休み時間を過ごすのだが、この日はいつもとは違っていた。校門付近から叫び声のようなものが聞こえてくるのだ。俺はそんな声に気を取られ友達にボールを当てられてしまう。それでも俺は、校門のほうを見た。そこには大型の犬が校門を通って校内に入ってきていた。
子供の中には犬の苦手な人もいるわけで、そういう人達は立ち上げれば自分よりも大きな犬を見て怯える。犬にとっては遊んでいるつもりでも乗りかかられれば怪我もしてしまう恐れがあり、小学生からすれば非常に危険な存在だったが。俺は小型犬を家で飼っていたこともありそんな恐怖は全然なかった。それでも用務員のおじさんがやってきてその犬を取り押さえていた。俺は犬の元に行きたかったがチャイムが鳴ってしまったため仕方なく教室へと戻るしかなかった。
だけど、俺はすぐにその犬に触ることが可能になった。
昼休み、いつものように運動場へとドッジボールのために陣を取りに行ったのだが用務員室を見ると表に朝いた犬が繋がれていたのだ。俺はすぐにその犬の元へと駆け寄っていく。
すぐ近くで見るととても大きい。大きな身体に大きな耳。眼を見ると両目の色が違って片方の色が真っ白だ。とても大きなその身体はとても汚れていて少しやせ細っているようにも見える。あきらかに捨てられて何日も経っている犬だと思う。
それよりも驚いたのは犬のその大人しさ。巨大で凶暴そうな風潮とは裏腹にとても温厚ですぐに懐いてきた。俺はそれがとてもうれしくその日は友達とのドッジボールをそっちのけでその犬と遊んでいた。
用務員のおじさんが言っていた。この犬はハスキーという犬だということ、恐らく捨てられてしまった犬だということ、保健所というところへ引き渡すということ。そして保健所で殺されるということ。俺はそれを聞いてその犬をかばうように用務員のおじさんに言った。
「この犬は俺が連れて帰る!」
その後、用務員のおじさんといかなる取引があったのかはよく覚えてはいないがとにもかくにも俺はそのハスキーをつれて帰ることになった。帰りにその犬を引き取って家へとつれて帰る。帰りに友達とそいつの名前を付けた。名前はリュウだ。今思えばオスではなかったのかも知れないが。
とにかくリュウは俺が引き取り、家へと連れかえろうとしていた。それにしてもあんな大型犬をよく小さな俺が家までの道のりを連れて帰れたものだ。たぶんリュウが気を利かせて俺が転ばないようにしていてくれたのだろう。
家に帰ってきてから俺は気がついた。家に連れていっても親が飼うことを許すはずがないと。そこで近くにある無人の小屋に繋いでリュウを飼うことにした。リュウをそこに繋ぐと俺はすぐに近所の友達を連れてリュウと遊んだ。
それからは毎日、朝リュウにご飯を持っていき、帰りも学校のパンなどを持ち帰ってリュウにやっていた。そして毎日遊んでとても楽しかったのを覚えている。
そんな日が何日か続いたある日、いつものようにリュウにご飯をやりにいった俺は驚くべき光景を目にした。
――リュウがいない。
そこにはリュウを繋いでいたロープだけが残されリュウの姿はどこにもなかった。
俺は探した。友達にも言ってみんなで必死に必死に探した。それでも結局リュウを見つけることはできなかった。リュウはどこにいってしまったのか。幼い俺達にはなに一つできなかった。それからも毎日、リュウが帰ってきているんじゃないかと俺はその小屋へと足を運んだ。それでもやはりリュウは帰っては来なかった。
それから数日後、俺は友達と遊んで帰る途中、まったく見ていなかったのか。車とぶつかった。自転車は凹んで原型を留めていない。俺は吹き飛ばされ膝に怪我を負った。けど、それだけだった。自転車が原型を留めないくらいの勢いでぶつかったのに、他にはどこにも怪我をしていない。それは奇跡なのか見るとそこには大きな犬が倒れていた。
俺はそれが一目でリュウだと分かった。俺とぶつかった車を運転していた人が出てきてすごく動揺している。しきりに俺の心配をしている。でも俺はリュウのことのが心配だった。おばさんを振り切って俺はリュウの元へと走る。リュウは血を流していた。それでも意識はあるようで必死に起き上がろうとしている。おばさんは動揺からかまったく犬を見てはいない。
リュウは立ち上がりヨロヨロと歩きだした。俺はおばさんの車に乗せられ家まで送られた。余談だが、おばさんは自ら警察に行ったようだ。幸い俺の怪我がたいしたことがなかったのも幸いしておばさんは特別な罪にはならなかった。でも俺に怪我が少なかったのはリュウのおかげ。
すぐに車に乗せられたからせっかく会えたリュウがどこにいったのか分からない。怪我をしている。まだ生きているのだろうか。俺の心は不安でいっぱいになった。
それから数日。
学校の帰り道、友達とふざけあって帰っている最中。俺は背後からないやら視線を感じて振り返る。そこには、大型のリュウと思しきハスキーがこっちを見て立っていた。大きな身体に大きな耳、両目はそれぞれが違う色の目。俺はその目に吸い込まれるようにずっと目を離すことができなかった。
しばらくその状態が続いた後、その犬は振り返り俺から離れるように歩いていった。そうして角を曲がり姿を消した。俺は友達と共にすぐにその犬の後を追って角のところまでいったのだが、そこに犬の姿はなかった。
あれはきっとリュウだったのだと思う。最後に俺に会いに来てくれたのかも知れない。その時、俺はまだリュウと出会って僅か2週間ほどしか経っていなかったと思う。今思うと、リュウと最初会った時から俺はリュウに心惹かれた。リュウも俺に会うために学校にきたのかもしれない。
この話を大きくなってから親にしたことがある。そこで俺は驚きの真相を聞くことになった。それはさらにさかのぼること数年まださらに幼かった俺はどこからともなく子犬を拾ってきたらしい。その後数日間家で飼っていたのだが、ある日不注意からその犬は逃げてしまったらしい。必死の捜索にも関わらず結局その犬は見つかることなく、不憫に思った親は小型の犬を飼ってくれたのだ。
ハスキーという犬種は一年で驚くほど大型に成長する。俺がどこからともなく拾ってきた子犬が数年後再び俺の前の姿を現し、俺の命を救ってくれたのだとしたら。
リュウはもうこの世にはいないだろう。でも夜、空を眺めるととても輝く星を見つけることが出来る。その星を見るとリュウのあの不思議な眼を思い出す。今も、俺のことを空の上から守ってくれているのか。
俺はそんなこともあってか犬がとても好きになっていた。俺は犬と関わる仕事に就き毎日犬と過ごしていた。今は都合が悪くそれは出来ないが将来的には俺はもう一度犬と関わる仕事に就こうと思っている。
リュウが命を賭けて救ってくれたこの命で――。
読んでいただきありがとうございました。この物語は実話です。細かいところまではあまりよく覚えていないのでそこらあたりはうやむやですが。
リュウはとても不思議な犬でした。なにより不思議だったのはその眼です。リュウの白い眼にはなにやら力があったのだと思います。僕が犬を本当の意味で好きになれた出来事であり、この出来事が後に僕の人生に大きく影響しています。この物語はそんなリュウとの思い出を一生残す意味も込めました。
この物語を今も空の輝く星となって見守ってくれているリュウに捧げます。リュウ、本当にありがとう。