船はなぜ沈まないのか
人生はよく長い航海に例えられることが多い。
毎日が好天に恵まれ、海には凪一つない、順風満帆な船旅を送れる日々があれば、その反対に、激しい嵐に煽られた海面がまるで荒れ狂う生き物のように牙をむき、巨大な波に、船はまるで木の葉のように漂い、自然の猛威にさらされる時もある。
ではそのような時に、我々人間はどのように生きていくべきなのであろうか。
その答えは、実は船が教えてくれるのではないか、そう思うのである。
例えば航海している船には、強い風やうねり、三角波がおそってくることは日常的にあることである。
しかし、どうして船は転覆しないのだろうか。
それは、船には復元力という、船が傾いたときに元に戻ろうとする力が働くためである。
さて、ここで少し物理的な話をさせて頂きたい。
水に浮かんでいるものには、いつも重力と浮力の2つの力が働いているのである。
このうち、重力は船の質量の大きさであり、船の直下向き方向に作用し、重心は船体内の決まった位置で、よほどのことがない限り移動はしないのである。
そして浮力は、船により押されて排除した水の重量と同じ大きさの力が、船の直上向き方向に作用しているのだ。
その力の中心である浮心は、水面下にある船体の体積の中心に位置しており、船が傾けば移動しながら常にその位置を変えている。そしてそれこそが、船が復元力をもっている理由なのである。
船は、この2つの作用を利用して、傾いたときに浮心が動いて傾きを戻そうとする復元力が常に生じるように、重心の位置と船底の形状を十分に考えて造られているのである。
したがって、大きな波がきてもよほどのことがない限り、転覆することはないのである。
ちなみに、重心が低い船の方が重心と浮心の位置が近いため、起き上がる力すなわち復元力が働きやすくなり、重心が高い船の方が重力で傾く力が大きくなりやすいため復元力が働きにくく、転覆しやすいことになるのである。
ひるがえって、これは人生という航海に向かっていく、人間という船にもこの理論は当てはまるのではないかと考えたのだ。
つまり、人間は目標を高く持ちすぎること、これはすなわち重心が高くなりすぎることを意味しており、先ほど述べたように重心が高すぎれば失敗した時にその傾きは大きくなり、その復元力が働きにくくなってしまうのではと思われるのだ。
そのため、目標が高いほど精神や肉体に過度な負担がかかることが多く、復元力の限界を超えると、不調をきたすことが多いのではないだろうか。
また、船の安定感は決してその船体の大きさだけに依存するわけではなく、重心を低く構え、浮心と重心のバランスを上手くとること、すなわち適度に仕事で成果を挙げながら、かつ休暇により人生を楽しむようなバランス感覚こそが重要であることを示唆しているのである。
もちろん、人により目標は大型船のように重力が大きい場合もあれば、小型船のように重力が小さくなることもある。それはさまざまである。
しかし最も大切なのは、浮力をしっかりと働かせることにより、復元力を維持することであり、そのためには毎日健康に留意し、心身ともに充実した生活をおくる中、水面下にある自身の足腰をしっかりと固めることで、たとえ人生に嵐が来たときでも、自身の船が転覆しないように力を使えるのではないだろうか。
船が沈まない理論から、人生を生きるヒントが得られるとわたしは考えた。




