2話「女神とその側近が全裸になったんだが…」
女神フェリストは、困惑し硬直してしまった俺達に対して、納得させるように慈愛に満ちた、静かな口調で言葉を継ぎ足して説明する。
「思考停止するのも無理はありません。私が更に詳しく詳細をご説明しましょう」
「……ごほんっ。その異世界には、自身の側近が推しである魔王が居ます。その魔王が放った強大な能力によって推しへの愛を相手にぶつける事で全裸になり気絶するという世界に変貌を遂げてしまったのです」
停止していた脳の歯車が、ようやく回りだしつっこむ気持ちを取り戻した。
「……待て、待て待て待て。魔王の能力で『推しへの愛を相手にぶつけて全裸にする』世界になっただって? どんな仕組みだよ。 俺たちがその異世界で生活するたびに、愛を語られては服を剥ぎ取られるのか!? そんなの、もはやただの公開処刑じゃないか!」
俺のツッコミに、隣にいたリエも自分の着ている派手な衣装を引っ張りながら、顔を真っ赤にして叫ぶ。
「そ…そうよ!!私は裸になんてなりたくないんだからね!!それに、この衣装はなによ!!なんで私が陽炎カエデの姿なのよ!説明しななさいよ」
そのリエの台詞を聞いた女神フェリストはそう!!それなのです!と言わんばかりに、食い気味なリアクションを取る。
フェリストの瞳は、会話の内容とは相対するように神々しく澄んでいた。
「そう……! それらの詳細を話す前提で、避けて通れない……全裸になる仕組み、それが今回の鍵なのです」
どうやら俺達が選ばれた理由に繋がって来るらしい。
「先程もお話した魔王の能力によってそんな異世界に変えられ、それと同時にトキメキメバーというデバフも課せられてしまってですね…。このトキメキメーターがこの異世界を生き抜くための鍵となってきます」
理解不能な単語を言うフェリストに疑問を抱く。
「トキメキバー……!?」
「なにそれ、意味わかんないんだけど」
困惑し、首を傾げる俺とリエ。
「そうですよね。その気持ち分かります!」
その反応を「やはり知らないか」と言わんばかりの表情で、受け止めるフェリスト。
「では、ご説明しましょう。そのトキメキバーっていうが己が推しへの愛を語り、相手がときめく度にゲージが貯まっていき、MAXになると胸キュンするがあまり相手の内に秘めた胸キュンする想いが上限を超えて、服が爆散して気絶するという仕組みなのです」
「ちょっ…何を言ってるんですか?」
「え!?なんて…。ば…爆発!?」
追い討ちをかけるように、意味のわからない事を言ってくる。
なんと言う世界線だろうか。
推しの魅力を語ったら相手が胸キュンのあまり服が爆散するらしい。
しかも、気絶付きときた。
俺とリエは更に困惑するばかりである。
ほんと、魔王は一体どんな意図でそんな能力を使ったのか真意が知りたい所だ。
「な…なんで魔王はそんな異世界を作ったのです?」
俺は気になったので質問してみた。
「そうそう!!私も気になる」
カエデも俺に便乗するようにして、身を乗り出した。
「そ…それが私にもさっぱり分からなくて」
女神であるフェリストにも分からないとは、益々気になってくるじゃないか。
「とにかく!そんな異世界を救ってもらうためにも推しの事を語らせたら右に出るものはない。雨崎 疾風、あなたとあなたの推しである陽炎イチズの中の人である咲下 理恵をVTuberのまま召喚した経緯がありまして」
ようやく俺達を召喚した理由にたどり着いた。
何故だかは知らないが分かったことは、俺の推しへの愛を信頼してくれていること。そして、その愛を引き出すために必要な存在こそが陽炎カエデな事。
だが…俺には腐れ縁の幼馴染みという問題がある。
「な…なるほど。だから俺達を…。まぁ…確かに推しと一緒に冒険できるなら悪くない話だと思いますし、魔王の真意も気になる。それに、俺に推しである陽炎カエデの事を話させたら右に出るものはいないです。ただ…推しの中身が腐れ縁な幼馴染みなのが複雑で…」
頭を抱えたくなるような、なんとも言えないムズムズした感情を抱く俺。
「え!?なるほど…って。なるわけないじゃない!!こいつと一緒にって…。やっていけるわけないじゃない。(ボソッ…)まぁ…どうしてもっていうなら行ってあげなくもないけど」
リエはいつも通りのツンデレを発揮して満更でもないみたいだ。
「やっていけるわけないって…さっきから完全にこっち見てアピールしてただろ。ツンデレかよ」
当然俺は、幼馴染みな事もありこいつがツンデレな所はとうに知っていた。
だからこそ、正直に言わないそんな所も腐れ縁になった理由の一つである。
「あ!!ほんとですか。前向きに検討してくれて嬉しいです。説明だけじゃ伝わりにくそうでしたし。もしよかったら、ここで一度デモンストレーションしてみませんか?もちろん…負けたら全裸で気絶ですが…」
最後まで笑顔を崩さないフェリストの姿には断らせない圧を感じた。
「デ…デモンストレーション!?」
「え!?まって…ここでやるの?」
あまりの衝撃に言葉が詰まり固唾を飲んで、戸惑う俺とリエ。
ふぅーっと一呼吸置き、「えぇやりましょう!!あなたの推しへの愛を存分にぶつけてきなさい!!私は、このキャラで対抗するわ!」
人格が変わったかのように口調も態度も豹変して魔方陣を出現させるフェリスト。
やはり清楚な人ほど豹変したときのギャップは驚くべきものだ。
俺がこの状況と豹変っぷりに適応できるはずもなく動揺している。
パァァァッ…
紫色の魔方陣から光とともに突如として現れる女神の推しという人物。
「どうも、女神の推しであり、側近でもある秘書のサリスです……。はぁ…(ボソッ…)ほんと何回目ですか。私は後、何回裸になればいいんですか」
美しい光を放ちながら眼鏡をかけた緑色の髪で緑色の美しい瞳、スーツ姿の美少女である秘書のサリスがそう呟く。
その凛とした美しさからは想像もつかない衝撃的な言葉。
「(ボソッ)毎回、ほんと、ほんと、ごめんなさい!!給料あげるから」
不満を言うサリスを宥めるように耳打ちをし、軽く謝罪を入れるフェリスト。
どうやら初めてじゃないらしい。
「はい…分かりましたよ。ほんと、毎回大変なんですからね。」
まだ煮え切らないような不満げな表情を浮かべるサリス。
確かに何回も呼び出されて、噛ませ犬として裸にされたら誰だって嫌になる。
それでも、フェリストに付き合う側近であるサリスの心の広さにこちらまで同情してしまう。
「ほら!始めるには、掛け声がいるからさっさと言って始めるわよ。それじゃ言うわね、推闘」
そんな不満げなサリスとは反対にやる気満々のフェリストは、間髪いれずに推闘という言葉を呟いた。
どうやら、推闘という言葉が戦闘の合図らしい。
すると、推闘という言葉を呟いた瞬間。フェリストが言った通り、相手の横にトキメキバーというのが見えてきた。
トキメキバーは0から100までの文字が表示されている縦長のバーだ。
これがMAXになった時に女神が言った通りになるのだろうか。
「もう幕は上がってるのよ!先攻と後攻で分かれていて各々制限時間は20秒ずつ。自分の攻めの時の心情や推しの心情はメータには反映されないから!!分かったわね。貴方が動かないなら、私から先制攻撃させてもらうわよ。準備はいい?」
フェリストは紅い唇を吊り上げ、獲物を見定めるように目を細めた。
「俺がビビってたら、俺の推しまで格下に見られる……それだけは許せない!」
本能的にオタクである俺の意地がそう叫ぶ。
「俺が先攻でいいか?」
俺は、相手に敵意を剥き出しにする。
震える足に力を込め、視線だけは真っ直ぐに、目の前の相手を射抜くように睨みつけた。
「え!?嘘でしょ…。それめっちゃヤバイじゃん!!早く言いなさいよ!!あんたの愛なら負けないでしょ!?」
突然始まるバトルに戸惑うリエ。
だが、どこか俺を信頼しているようにも見て取れる。
「さぁ…いいわよ!!かかってきなさい!」
快く俺が先行であることを受け入れてくれるフェリスト。
デモンストレーションだからだろうか。
秘書のサリスに同情はしてしまうが、何も言わないとこちらが本格的に醜態を晒すことになりそうなので特技でもある推しのカエデの魅力を言うことにした。
「まず、この紅緋色の毛並みだって、ただ赤いだけじゃない。光の当たり方で朱色や茜色に揺らめくあのグラデーション! まさに神絵師の業というか、魂が宿っているとしか思えない質感じゃないですか? 美しい輪郭と紅緋色の美しい毛並み、VTuber陽炎カエデとしての少しドジで明るい部分も相まって究極な可愛さを生み、この耳をピクピクと動かす姿も最高に可愛いし、それに…まだ…」
とりあえずリエの事は考えずに推しであるVTuberの陽炎カエデの事を意識した。
オタク特有の早口とマシンガントークを発揮する。
「ちょっ…そんなに褒めないでよ!」
リエは泳ぐように視線を彷徨わせた後、耐えきれなくなったように俯いた。耳の付け根まで真っ赤に染まっている。
「……っ! くっ、このアツく推しを語る破壊力……っ! リエの照れ顔も相まって、あ、あまりにも……っ!!な…何もできなかった」
すると、その表情と俺が語る言葉に魅せられたフェリストのゲージはみるみる上昇していき。
「グハッ……バーン!!!」
突然弾けるような爆発音が響き渡ると同時に、フェリストとサリスが身に纏っていた豪華な衣装や眼鏡が、内側からの衝撃に耐えきれず木端微塵に弾け飛んだ。
そして、豊満な胸を弾ませ、細身な肌色の身体が露になったフェリストとサリスが気絶して横たわる。
「え!?ま…まじか!!ほんとだったんだ」
全裸を見た喜びよりも、目の前に起こった出来事への衝撃の方が勝ってしまう。
「な…なんか服が弾けとんだんだけど…やばっ」
突然の事に戸惑い、唖然と立ち尽くす俺とリエ。
思ったよりもあっけなく勝負は幕引きをした。
しばらくしてフェリストとサリスは意識を取り戻し、手で身体を隠しながら立ち上がる。
「こういう事だから!!よろしくね!!死にはしないから安心して!!」
何事もなかったかのように笑みを浮かべて振る舞うフェリスト。
「ほんと…。毎回の事ながらとても恥ずかしいです」
照れながら目を背ける苦労が絶えないサリス。
「って…こういう事だから!よろしくね!じゃないわ!カオス過ぎて状況理解できるか!」
こちらは突然の状況が理解出来るはずもなくツッコミをいれる。
「ほんと…何が起こったか理解できなかったわよ!……見てるこっちが恥ずかしくなってくるんだけど。」
リエは顔を赤くしたまま、わざとらしく視線を逸らしてふいっと横を向いた。
それからは、フェリストが下から白の空間を塗りつぶすような、禍々しくも美しい輝きを放つ紫色の魔方陣を出して、全裸のフェリストとサリスに見送られながら、俺とリエは魔方陣に飲み込まれて白い空間を後にした。




