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1話「なんで、こいつが推しなんだぁぁ」

意識がゆっくりと浮上してきた。鉛のように重い瞼を必死に押し上げ、上体を起こす。手で目を擦り、ようやく視界が定まった。


そこに広がっていたのは、境界も奥行きも定かではない、圧倒的な「白」だった。


「ん!?なんだここ…。あれ?カエデちゃんのの配信は?確か…素顔が。」


さっきまで見ていた配信の画面、明かされかけた陽炎カエデの素顔、その衝撃がまだ頭の片隅にこびりついている。


そんな俺の隣には誰か居るような気配がする。


不意に横を向いた瞬間、網膜に焼き付いたのは、画面越しに数百回と眺めたはずのあの造形だった。

整いすぎた横顔、光を透かすまつ毛の長さ、そして耳に馴染んだあの声。

そこに居たのは推しである陽炎カエデだった。


「ちょっと待って、心の準備が! 供給過多で死ぬ! カエデちゃんがここにいるとか、前世でどんな徳を積んだらそうなるんだよ!!」


目の前の光景が信じられなさすぎて、現実であることを拒絶し始める。


カエデは俺の声に驚き、目を覚ます。

目を擦りながら、身体を起き上げ、立ち上がる彼女の姿も可愛さが溢れていた。

ゆらゆらと揺れる美しい尻尾とぴくぴくと動く可愛らしい耳。

意外にも身長は同じくらいだった。


「ん?何ここ…。私配信してたはずじゃ。あ!!そういえば素顔が!!」


目を擦りながら呟き、彼女の潤んだ瞳がこちらを捉える。


「え!?なに!!誰かいるの!?ちょっ素顔見ないで!!」


少し俺の顔を見て、素顔を見られたくないと真っ赤な顔をして咄嗟に両手で顔を覆い隠すカエデ。

まだ配信中だと思っているらしい。

隙間から漏れる吐息まで熱を帯びているのが、こちらまで伝わってきそうだ。


その耳に馴染みすぎた独特な声を聞いた俺はある事に気が付いた…。


「やっぱり…お前!!まさか…。まって…ということはさっきのは夢じゃないのか!?」


動揺し、震える俺の指先が彼女を差した。

記憶の中に刻み込まれた推しの声と忘れもしない犬猿な幼馴染みの声と顔が完全に一致して確信へと変わる。


「ん?何か見たことあるような顔。それにその声…」


細くて美しい指の隙間から、困惑と好奇心が混じった彼女の視線が静かにこちらを覗き込む。


「なんだ……やっぱりハヤテか。なんでここに居るのよ。もう、照れて損したわ!」


さっきまで覆っていた顔をパッと退けると、そこにはまだ微かに赤みの残る頬と、不満げに尖らせた唇があった。

照れながらガッカリした表情を見せるリエ。


衝撃を受けてる俺の反応とは対照的だ。

奇遇にも、二人が正体に気づいたのはほぼ同時だった。

認めたくはないが、幼馴染としての「勘」がそうさせたのかもしれない。


隣にいたのが幼馴染みである俺だと分かったからだろう。

さっきまでの動揺や照れが嘘のようだ。


推しであるVTuber陽炎カエデの中の人、咲下(さきした) 理恵(りえ)は、明るい茶髪でショートカット、性格とは真反対の落ち着いた深めの茶色の瞳を持つ、ツンデレ女子で、クラスの人気者。認めたくはないが、スタイル抜群だ。


俺の隣に住んでいる事もあり小さい頃からの幼馴染みであり、俺達は一切、大事な事なのでもう一度言うが、一切仲良くないのだが、両親がとても仲良しなので仕方なく仲良く振る舞っている。いわゆる腐れ縁というやつだ。


俺が好きな明るくて少しドジで、いじられ要素と愛嬌を持つ陽炎カエデとは相対する性格だと思っていたのに…。


「なんだとは、なんだ!!俺だって2年前から推していたVTuberがまさかお前だったなんて衝撃なんだからな!!っていうか、今のお前のその格好……一体どういうことだよ」


俺は、驚きのあまり声を荒げて目を見開き、瞳孔が収縮している。


「推し」の正体が、まさか目の前にいる「お前」だったなんてと、まるでドラマかマンガのような急展開だ。


「な…何よ…うるさいわね。そうよ、あんたが毎日『カエデちゃん、今日も尊いです!』なんて鼻の下伸ばしてスパチャ投げてたVTuberの正体は、この、見慣れた幼馴染みのリエでした!……な、なによ、文句ある?あんたが推していたのは知ってたわよ。黙っててごめんなさいね!」


俺の反応に戸惑い、腕を組ながら目を背け、胸を張ってみせるものの耳の先まで赤くなっている。


「……っ」


目の前の赤らめた顔が、画面越しに愛でていた『推し』の表情とは異なり、新たな一面を見れた気がした。


だが、脳が必死に拒絶を命じた。

こいつはリエだ。ただの幼馴染だ。

そう自分に言い聞かせるほど、胸の奥で鳴り響く心音がうるさくなっていく。


目の前で動く、愛らしい推しの姿。

見た目は推しなのに、中身は腐れ縁の幼馴染みという現実。

なんか複雑な心境だ。


腐れ縁だが幼馴染みな事もあり、俺がVTuberを推している事は知っていた。

だが、こいつは黙っていたのだ。

時々、俺の部屋に訪れた時もどういう心境で見ていたのか、定かではない。


「何よ!さっきからその、変なものを見るような目は何なのよ!?」


そう言って頬を膨らませる彼女に、今の姿をありのまま伝えてやるべきか。それとも、このままこの勘違いに漬かったままでいてもらうべきか。


今までの発言からもこいつはまだリエとしての姿でいると勘違いしてる様子だ。


俺は、彼女のためを想い現状を打ち明ける。


「えっと…それが。いいか、リエ。取り乱すなよ。その…お前の姿、アバター、つまりVTuberとしての姿なんだよ」


まっすぐ向き合う気持ちで彼女に打ち明けた。


「「え……? は? アバター……?」


彼女は一瞬、きょとんとした顔で固まった。

その直後、自分の手元や衣装に視線を落とし、まるで信じられないものを見るかのように、恐る恐るその「完璧すぎる美少女」の身体をぺたぺたと触り始める。


「そんなこと笑笑……って。え~~!? この格好!! それにこの獣耳! 一体……どういうこと!?」


彼女が身体に触れるたび現実を受け入れられていないのが伝わる

ふわりと揺れる紅緋色の髪と尻尾。美しい素肌に、先程まで着ていたはずのパジャマは跡形もなく、着ているのは茶色と白のゴスロリのような衣装。その姿は紛れもなく推しである陽炎カエデだったのだ。


「嘘でしょ……なに、これ。え、私、アバター……? なんで!?」


自分の身体を隅々まで触り衝撃を受けるリエ。

まさか自分がアバターの姿になってるなんて想いもしなかったのだろう。


獣耳が自分の感情に合わせてピクピク動くことに気づき、「勝手に動かないでよぉ!」と自分の耳を抑えて真っ赤になる。


認めたくはないが、それをただただ尊いと俺は眺める事しかできなかった。


そうこうしてると、突然上から神々しい光と女性らしい声と共に何者かが舞い降りてくるではないか。


「よくぞお越しくださいました。ハヤテ様とカエデ…。ごほんっ。いやリエ様」


上を見上げ慌てる俺達。

そこには――得体の知れない「何か」が、ゆっくりと高度を下げてきていた。


「ちょっ…何だあれ!!なんか変なのが降りてくるんだけど!!」


「ほんと何よ!!あれは、私達の名前を知ってるみたいだし、あんたが何か仕組んだんじゃないわよね?」


「あんなの知るかよ! 初対面だ!」


俺とリエは顔を見合わせ、謎の物体の登場に困惑する。


驚くのも無理ないだろう。

なぜなら、いきなり見知らぬ空間に召喚されたと思ったら隣には推しであるVTuberの中の人が幼馴染みという展開。

それに突然舞い降りてくる謎の人物。


情報過多すぎて頭がパンクしそうだ。


神々しい人物は、空中で優雅に衣を翻しながら着地。

彼女の背後にはまだ淡い光の残滓が漂っており、その場の空気を一変させるような圧倒的な存在感を放っていた。


彼女は優雅に一礼し、鈴の音のような美しい声で告げた。


「初めまして、地上の民よ。私の名前は、フェリスト。推しを溺愛し、愛でる"推愛"(セリス)の女神です」


慈愛に満ちた微笑みを浮かべるその姿。


フェリストと名乗るその神は、桃のようなピンク髪のロングヘアーに黒色の瞳。

ピンク色を基調とした白色の羽衣に身を包むスタイル抜群の美少女である。


そんな彼女は突然、その完璧な美貌に似合わぬ、あまりに斜め上を行く使命を告げてきた。


「突然だけど、あなた達にはある異世界を救って貰います。」


一呼吸置き、「……その異世界というのが、推しへの愛を相手にぶつける事で全裸になり気絶させる異世界です」


彼女は真剣な表情で言ってきた。


俺達は突然明かされた衝撃に思考が停止した。

推し? 溺愛? 神の口から出るにはあまりに世俗的な単語に、脳の処理が追いつかない。


「は…………?全裸で気絶?」


「え…………?何を、言ってるの?」

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